デウス・エクス・マキナ
神田 真
機械仕掛けの神
「この惨めな仔羊をもって我らの魂を‥‥‥」
僕の眼の前で黒ローブの男達は恍惚の表情を浮かべ文言を唱えている
窓は閉め切られて、どす黒く変色した血で描かれている魔法陣の上。僅かな、きっと、儀式用の蝋燭の灯に照らされ、僕はその中央に縛られ、猿轡をされて横たわっていた。
小さい頃からの夢だったこの国の観光中、有名な観光名所を巡って疲れてホテルで眠った後からの記憶がない。
黒ローブの一人が何やら酒杯をもって近づく。
そして僕の猿轡を外して口に中身を流し込もうとしてきた。甘ったるい匂いと鉄臭さに顔を顰める。
もちろん飲んでなんかやらずにできるだけ広範囲に噴きかかるようにそいつのローブに噴いてやった。
顔にもかけられた黒ローブの一人は顔いっぱいに不快さを表して僕の右頬を打った。打たれた右頬が熱く痛む。
「離せよ!なんで僕にこんな事をするんだ!」
するとさっきまで先頭に立って文言を唱えていたリーダー格の男は何も知らない無知な者に啓蒙するように、憐れみを孕ませながら僕に言う。
「貴方は私たちの憎む神によく姿が似ている。それはこの世でもっともの悪で罪です。私たちはそのような者を見つけ、殺す。すると私たちの魂はさらに高位の存在になり、赦しを得るのです。」
明瞭に聞こえたはずなのに頭が理解しなかった。自分勝手という表現すら当てはまらないほどの理由。別段僕の姿が奇妙なだけでは無い。僕の国ではよくある金髪碧眼の大したことないものだ。この国に来ても沢山居た。なぜよりによって僕なのか。
「貴方は異邦者です。それは我々の経典に記される神話と同じです。金髪碧眼の女神、この地に降りて、百の光と共に我々を滅さん。これは黙示録の一文なのですが、これは貴方だと判断し断罪します。」
「そんなの知らねえッ‥」
「黙れ。罪人が喋るな。‥‥そろそろ行いましょう。」
文言を言い終えると黒ローブたちは次々に立てかけられていた武器を手にとる。
クレイモア、バトルアックス、バスターソード、血のこびり付いた武器達が掲げられる。
「汝の命をもって、高位へ向かう!ご加護が在らんことを!」
走馬灯が見えた。姉貴、妹、母さん、父さん。まだ死にたくない。頼みます神様、どうか僕を救ってください。
____君の願いを聞き入れよう。____
優しい声が聞こえた。
‥‥‥一向に武器は降って来ない。恐る恐る目を開けてみる。そこは一面の花園だった。全ての花が咲き誇る、神の花園。
さっきのはなんだったのだろうか。夢?どちらかといえばこの花園の方が夢に思えるけど。
近くにあった水たまりに手が触れる。その瞬間、引き摺り込まれた。
戻ってきたはさっきの小屋。武器をもった黒ローブたち。さっきと違うのは相対しているのは僕では無いこと。
そこには息を飲むような美しい女性が立っていた。一糸纏わぬ姿で、握った拳を地に染めている。体は輝くような白、金髪碧眼のまさに女神。
「貴様がァ!女神かァ!」
黒ローブの一人が武器を振り下ろす。女性は、みじろぎもせず微笑を浮かべたまま、その大剣を手で受け止める。そのまま武器を掴み、男の腹をもう片手の方で打ち抜いた。
また一人、また一人と黒ローブ達は動かなくなっていく。
残った五名ほど。彼らは怯えて、武器を捨てて、背中を見せて逃げようとした。
だが、女性はそれを許さなかった。出口に殺到しようとする。彼らに向けて手をかざす。
手から黄金の光線が迸る。彼らの首はもう焼き切れて繋がることも動くこともないだろう。
一瞬にして数十人を殺してみせたその女性は部屋の隅で縮こまっていた僕に向き直ると、また笑みを見せた。
後光が差している。眩しくて見えないほどに。
「久しぶり、私の名前を覚えてる?」
僕は戸惑いながらも首を振った。こんな強い人もこんな綺麗な人もましてその両方を携えた人なんて僕は知らない。
「私の名前はマキナ。貴方を救いに来た。」
僕を助けた女神はそう、優しい声で言った。少し歯車みたいな音もした。
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