はじめての戦い
戦いが始まってから5分程。
「敵が、多過ぎる……!」
「きりがないですね」
右に左に前に後ろ、空を見上げると晴れていたはずの青が見えない程の敵、敵、敵。無数の敵に囲まれながら、六人は懸命に戦い続けていました。
「撃てば当たる、ボーナスタイムだ〜!」
「言ってる場合か!」
「だが、こちらの機体性能は予想以上に高いようだ」
幸か不幸か、敵が多過ぎるせいでビームは狙わずに撃っても何十機かは巻き込んでやっつけられますし、こちらはまだ一人も機体にダメージを受けていません。
それにもう一つ、みんなには希望がありました。
「ディフュージョンモード!」
飛んでくる数え切れないほどのミサイルや機関銃の雨あられを避けながらライフルのモードを切り替え、拡散モードでビームを放射。何百もの敵を薙ぎ払い。
「そこっ!」
高周波ブレードで音速の戦闘機を切り裂きながら降下しヘリコプターを踏み潰しながら着地。同時にブースターを吹かして着地の衝撃を和らげ一瞬の隙すら見せずにミサイルを避けて拡散ビームを再び放射。
「あれは大したものだ」
「みつりん強過ぎない?」
「光里さん、すごい……」
初めての戦いだというのに、それを感じさせない達人のような動きを披露して無数の敵を物ともせず圧倒しているのはみんなのリーダー、光里でした。
「これはゲーマーとして負けてられないよね〜」
「光里に続いて、私たちも……!」
そんな光里に負けまいと、他のみんなも続きます。
「アイレーザー!」
悠樹の叫びと同時に、彼女のロボットの一つ目から光線が放たれ直線上の敵を全て蒸発させました。
あくまで補助用の武器の筈ですが、それでもこの威力。メインの武器のビームライフルこと荷電粒子砲に限らず、ゼクト・オメガの破壊力は想像を絶するもののようです。
「とにかく後ろを守り合いながら戦っていこう!」
「孤立は避けないとだな」
光里の声でみんなは密集した陣形を取り、お互いに背中を守り合いながら戦います。
とはいえ流石にこれだけの密度の攻撃。全て避けられる筈はないのですが……。
「ところでさっきから敵のミサイルとか当たってるのに、全然効かないんですけど」
もうずっと敵の群れの中で戦い続けて、もう何千発は攻撃を受けている筈なのにみんなの機体には傷一つありません。
「アブソルートテリトリーというバリアが機能しているみたいです」
「問題はバリアがどこまでもつかだ。なるべく被弾は避けた方がいい」
その理由は、ゼクト・オメガに付いている【アブソルート・テリトリー】というバリア機能にあるようです。こんな状況なのでじっくりは読めませんが、モニターの説明には空間の遮断といった何やらとんでもないことが書いてあるみたい。
「バリアの耐久値は……あれ?」
けれどバリアがあるとはいえ流石に攻撃を無闇に受け続けていたら危ないかなと、智実はバリアの損耗率に目を向けますが……。
「全く減ってなくない〜?」
「これだけの密度の攻撃なのに、ですか」
「とんだスーパーロボットだな」
バリアが受けたダメージも、なんとゼロ。まさに無敵のバリアです。
「ひとまず空港の外に引きつけよう!」
「そうだね〜」
とはいえ無敵なのはロボットだけ。飛行場で戦ってしまっては、住む場所が壊れてなくなってしまうかもしれません。そう考えた光里の案で、みんなは飛行場から離れることにしました。
「ゼクト・オメガ。この機体は、一体……」
敵を引きつける為にビームで攻撃しながら移動する途中、フランは考えていました。自分たちが今乗っているロボット、ゼクト・オメガの異常とも言える強さについて。
大気を焼き、雲すら貫く荷電粒子砲に、何千何万ものミサイルですら傷一つつかない無敵のバリア、アブソルートテリトリー。おまけにその動力はオーバーテクノロジーの筈の縮退炉。どれもカタログに載っていた水素電池で動くゼクトとは似ても似つかない別次元の性能に、フランは疑問を抱いていたのです。
「やばいよ、街が戦車で大渋滞!」
街に出ると、そこには道路が見えない程の戦車の車列が待ち構えていました。そしてすぐさま戦車たちの一斉砲撃が光里たちに襲いかかります。
「これも効きませんか」
それでもやっぱりみんなの機体はバリアで守られて傷一つありません。
「待って、何かいる……」
けれど街で待ち構えていたのは、戦車だけでありません。月美が戦車の車列の向こう側に見たもの。それは……。
「あれうちらと同じゼクトじゃん!」
「やばっ」
「ゼクトの性能は未知数です。気をつけてください!」
みんなが乗っている機体と同じ見た目をしたロボット、ゼクトの軍団。それも百体や千体どころじゃないとてつもない数です。
これがもしも、ゼクト・オメガと同じ性能だったら。それ程ではないにせよ近い性能があるとしたら、他の敵とは比較にならないほど危険です。その為みんな、いっそう気を引き締めて戦いに臨みます。
「私が相手をしてみる!」
ゼクトの軍団の中に、真っ先に向かっていったのは光里でした。
ブースターを吹かし大きくジャンプして、ロケットランチャーやマシンガンを避けながら拡散ビームで爆撃。着地と同時に高周波ブレードで一機を両断し、すかさずひと薙ぎ。
「フォーカスモード!」
周囲の敵を真っ二つにすると同時にライフルのモードを集束モードに切り替え、飛んできたミサイルを避けながら高出力のビームを照射。直線上のゼクトをまとめて消し飛ばしました。
「あれ、弱い?」
「ビームも飛んでこないんだけど」
「全部実弾か」
「油断しないでいきましょう」
他のみんなも光里ほどとはいきませんがライフルのモード切り替えを駆使しながら果敢に戦い、ゼクトの軍団を圧倒します。
どうやら敵のゼクトは、こちらのものと比べると幸いにもとても弱いみたい。
「全然減らないけど……とりあえず負ける気はしないかな」
「こんなに強かったの、私たちのロボット……」
「正直ちょっと引くレベルだよね〜」
ここまで来ると、フラン以外もゼクト・オメガの桁違いの強さが流石におかしいと感じ始めていました。
建築や畑仕事、洗濯など。日常生活で便利に使っていた巨大ロボットがこんなに強い兵器だったとは、みんなの中の誰も思ってはいなかったのです。
「あと光里も、なんて動きだ」
そしてこんなに強いと思っていなかったといえば光里もでしょう。無数の敵の攻撃をくぐり抜け、素早い状況判断で効率よく敵を倒していく。その動きはとても他のみんなに真似ができるものではないのです。
スナイパーライフルでの狙撃でもその片鱗を覗かせていましたが、もしかすると光里は、平和な世界でその才能を知らずに埋もれさせていた戦闘の天才だったのかもしれません。
「ライフルのモード切り替え便利だよね〜」
「ディフュージョンモードの拡散射撃はこの状況を想定しているようにも思えますね」
「一撃で百体は倒せていそうだが、それにしても多過ぎる」
「あーもう、蚊柱みたいで鬱陶しいんですけどぉ!」
戦闘の天才かもしれない光里の活躍や、ゼクト・オメガの圧倒的な火力を以てしても、まだなかなか減っているようには見えない敵の群れ。
とはいえ飛んでくる攻撃はミサイルや機関銃、大砲ばかり。バリアを破られるようなことはないと、みんなの中に油断が生まれたその時。
「嘘っ!?」
突然ミサイルも撃たずにまっすぐ突っ込んでくる戦闘機。咄嗟に悠樹は高周波ブレードで斬りかかろうとしますが、刃が触れる前に戦闘機は真っ二つに割れました。
そして中から現れたのは、触手。戦闘機の触手は勢い良く悠樹に襲いかかり、その機体を絡め取り組み付きます。
「クソッ、邪魔だって!」
とはいえ触手は大した強さではありません。ゼクト・オメガのパワーなら充分に引きちぎることもできます。触手を引きちぎって脱出しようと、動きを止めてしまったその瞬間でした。
「悠樹、後ろ!」
「なっ……」
後ろから、側面から、数え切れないほどの戦闘機が悠樹の機体に襲いかかり触手を伸ばして掴みかかります。そして悠樹の機体を触手の塊の中に封じ込めると、それは赤く輝き、自爆。大爆発を巻き起こしたのです。
「悠樹……!」
悠樹がやられた。その光景を目の当たりにした月美は、今にも泣き出しそうな声で悠樹に呼びかけます。
「いったぁ……!」
ですがすぐに、ちゃんと通信で悠樹の声が聞こえてきました。どうやら彼女は無事みたいです。
「大丈夫……?」
「うん、頭打っただけ」
それでも無傷、とはいきませんでした。機体やバリアには傷はないものの、悠樹の頭には軽く青あざができてしまっていたのです。
戦いで一人が怪我をしてしまった。その事実が、みんなの心に重くのしかかります。けれど天使は、悩む時間を与えてはくれませんでした。
「地震……!?」
戦いの中、突然訪れた大きな地震。みんなはそれに巻き込まれないようにブースターを吹かし、大きく空へ向かって飛び上がります。
次の瞬間、再びコクピットに機械音声が響きました。
【警告。エンゼルコール、レベル3が発令されました】
「まだなんか来んの!?」
ついに訪れたエンゼルコール第三段階。レベル2ですらこの数だというのに、これ以上何が来るというのでしょうか。
【次元境界面の大規模変動を確認。天使、現界します】
「なんかヤバめな感じ〜?」
「皆さん、絶対に動きを止めないで!」
続いて聞こえてくる機械音声が何かを言っていますが、みんな考える余裕がないのもあってよくわかっていません。ただ一人、必死な声で叫ぶフランを除いては。
「天使が来ますッ!」
フランがそう言った直後、アスファルトを、その上のビルや民家を突き破り、地面の中からそれは現れました。
「何なの、これ……」
「巨人……!?」
それは、裸の女性を模したまるで美術館の女神像のような巨人。まだ上半身しか見えていませんが、それだけでも300メートルはありそうな巨体でした。
さらに地面が大きくひび割れ、そこから現れたのは巨人の下半身。終わりが見えないほどに長い、蛇や龍の身体のようなもの。
天使はその巨大な全身を見せると、重力に逆らってゆっくりと宙に浮かび始めました。
「これが、天使……」
龍の下半身を持った、めまいがするほどに大きな巨人。これが、かつて世界を滅ぼした人類の敵。
人類を地球から放逐した大災厄が今、ついに光里たちの目の前に立ちふさがったのです。
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