第32話 暴走教師

「えっと……本当に黒羽さん?出席番号と誕生日は?」

「17番で誕生日は10月27日です……」

「うーんと……あってるわね。ということは本当に本人……?」

「最初からそう言ってるんですけど……全然違うって自覚はありますけど、そこまで疑わなくても……」

「あー、ごめんね?すごく変わったからわからなくて」


 ちなみにうちのクラスの担任であるこの先生は、名を連城茜れんじょうあかねといい、30代(本人の希望で詳細は非公開)の現国の教師だ。『れんれん』(命名:楓さん)の愛称で親しまれ、生徒にもフランクに接してくれるということで割と人気がある。まぁ俺から話しかけたことはないんだけど。どうでもいい話だけど既婚者である。


「とりあえずあなたが黒羽さんなのはわかったけど、この状況はどうしたの?柊木君は黒羽さんのせいって言ってたけど」

「それはえっと……なんででしょう……?」

「あのねー、れんれん。しおりんと高原君のイチャイチャの余波で皆死んじゃったんだよー!私達は前に1回見てるからなんとか耐えれたけど」


 言いづらそうにしていた栞の代わりに楓さんがこたえた。


「ちょっと楓さん?!」「彩香!」

「こら!連城先生でしょ!って、えっ?何っ?イチャイチャって恋バナなの?何それ面白そう!って高原君と?そういえば高原君もすっごく雰囲気変わったけど、どうしたの?夏休みデビュー?」


 おいこら、教師!なんでそんなノリノリなんだよ!こっちは精一杯頑張った後で消耗しきってるのに!

 あれ?ちょっと待てよ。これ教室に入ってすぐの状況と同じじゃないか?もう1回やるのか、あれを?いやいや、それはちょっときつい。


「あの、先生?ちょっと落ち着きません?」

「おぉ……あの高原君がこんなにはっきりしゃべってる……ますます気になるじゃない!こんな面白そうなこと、なんで私を除け者にしたのよ!」


 およそ教師とは思えない発言だ。これじゃただの駄々っ子じゃないか。


「先生!落ち着いてくださいって!全校集会あるんでしょ!」

「これが落ち着いてられますか!全校集会なんて……ってさすがにそれはまずいわね。後で聞かせてもらうからね!ひとまず全員体育館へゴー!」


 なんなんだよ、まったく……先生いつもの3倍くらいハイテンションだったぞ。そんなに生徒の色恋が気になるもんかね?


 とりあえず急場はしのげたけど、これどうしたらいいんだろ?まずは栞と相談かな?


 体育館への移動中、しゅんと肩を落として栞が寄ってきた。あまりにもしょげているので思わず頭を撫でそうになったけど、ぐっと我慢した。さすがにここで更にネタを提供するのは得策じゃない。


「まさかここまでの騒ぎになるなんてね……」

「多少は覚悟してたはずなんだけど。想定をはるかに越えてきたよなぁ。特に先生がやばい……」

「涼……なんかごめんね?」

「え?なにが?」

「きっと私が『拗ねちゃう』なんて言ったせいだよね?」

「それはまぁ、たしかに。栞はたまに暴走するからなぁ」

「うっ……だって、ちゃんと私のこと見ててって言ったのに、他の子ばっかり見てて寂しかったんだもん……」

「それはごめん。まぁ、俺も騒ぎの加熱に一役買ってたみたいだし……だからそんな顔しないで?ね?」


 じゃないと俺の手が勝手に頭を撫でてしまうから……


「うん、ありがと」


「そういうところだと思うよ?しおりん、高原君。まわり見てみ?」

「うわっ、楓さん?!え?まわり?」


 見回すと俺達のまわりだけ妙に空間ができていて、少し離れたところでは


「自然にいちゃついてて近付けん……」

「私も落ち込んでる時に『そんな顔しないで?』とか言われてみたーい」

「『寂しかったんだもん』とか可愛すぎかよ!」


 みたいな声があがっていた。


 もうこんなの何してもダメじゃん……

 頭を撫でるのを我慢したくらいじゃまるで意味がなかったようだ。

 結局黙り込むしか解決方法がなく、たいした相談ができなかった。こうして俺達は全校集会の間の小一時間、頭を悩ませるはめになるのだった。


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