第16話 シナジー②

「ゴブリンの大量発生ねえ。まあ試し打ちにはちょうど良い相手かしら」


 クエストを受けたベアトリーチェが転移したダンジョンの二階でゴブリンが大量発生を作っていた。その数、百匹。もしも普通の五人パーティで挑んだ場合、多勢に無勢で蹂躙されるのは間違いないだろう。

 だがここにいるのはSSRの黄金の魔女。彼女の魔術ならば威力も効果範囲も申し分ない。一網打尽だ。


 そして彼女の手にはベースを出る前に達哉から渡されたSSRアイテムがあった。


SSRアイテム【従僕の杖】

・モンスターを従え従僕に変える杖

・この杖を装備してモンスターを倒した場合、モンスターカードを手に入れる可能性がある


「杖としては少し物足りない感じだけど、追加効果が主役だから仕方ないわね」


 魔術行使の補助として使うには及第点。無いよりはマシだが同ランクのSRにも劣る程度だ。

 だが、この杖の真価は追加効果にある。大量発生したゴブリンたちからモンスターカードを手に入れることができれば非常に効率が良い。


「さあ、わたしに従いなさいゴブリンども!! 【エクスプロ―ジョン】!!!」


 ダンジョンの中ですし詰め状態のゴブリンたちは魔力の爆発に飲み込まれた。



「はじめまして、ご主人様! 今日からよろしくおねがいしまーす!」


SSRユニット【はじまりの錬金術師】

・錬金術を生み出した者

・あらゆるものが黄金に輝き、更なる力を放つだろう


 【はじまりの錬金術師】。なんとも壮大なカードテキストに反して、登場したのは栗色のポニーテールの女の子。背丈は小さいのに胸元だけは重装甲かつメイド服の元気な女の子だった。

 錬金術師なのにメイドとは一体……?



「呪いは妾にお任せなのじゃ! あるじよ、泥船に乗ったつもりで安心すると良いぞ!」


SSRユニット【見習い呪い師】

・恐ろしい呪いを意のままに操る呪い師の見習い

・多くの呪いに触れることで呪い師として成長する


 出てきたのは和風の装いを着た狐耳と尻尾の幼女。教科書に載っていた卑弥呼が着ているような服装に似ている。能天気そうで呪いとは無縁な性格に見えるが本当に呪い師なのだろうか。

 あと泥船だと沈むぞ。



「ハジメマシテ、マスター。ゴ命令ヲドウゾ」


SSRユニット【試作人型兵器】

・真っ白な人型の試作兵器。量産前提の構造となっている

・更なる開発の土台にも使用可能


 合成音声で会話をする関節のついた真っ白なマネキン。男女や個性を示すパーツの一切が存在しない、人の形をしただけの機械人形。この状態でも戦闘や雑用に使えるらしいが、これを基に強化・改造・再設計が可能らしい。

 もちろんそれを行える優秀なメカニックがいて専用設備と素材があること前提だ。



「ギ、ギギギギ、ギギギギ」


SSRユニット【蟲の女王】

・ランクの上昇にあわせて様々な蟲ユニットトークンを生み出す女王

・ランク1:工兵アリ ランク2:兵隊アリ


 真っ白なブヨブヨした腹部を持った巨大女王蟻。毎日十匹、一月で三百匹の蟲を生み出す蟲の女王だ。卵が孵るまでの時間は蟲の種類によって違う。女王本体の戦闘力は低いのでベースから動かさない方がいいだろう。

 リアル系の見た目なので杏奈たちが悲鳴を上げて逃げて行ったのと、会話ができないので意思疎通が難しいのが難点か。


 ◇


「今戻ったわ。……なんだかおかしなものが増えてるわね」

「ああ。ご苦労さん。首尾はどうだった?」

「【従僕の杖】で手に入った【ゴブリン】のモンスターカードが九枚。それとクエスト報酬で、ガチャポイントは貰えなかった代わりに【モンスターカード召喚チケット】を二枚手に入れたわ」

「そうか、ありがとう。使徒以外でもちゃんと報酬が貰えるのは便利だな」


 クエストを終えたベアトリーチェからカードとチケットを受け取る。クエスト報酬でチケットが貰えるなら恭二たちにも使えそうだな。後でまた連絡を取るか。


「それで? わたしがいない間にどうなったの?」

「ああ。SSRユニットの残りを確認しようと思ってな。【はじまりの錬金術師】“いろは”は【試作人型兵器】と一緒に【未来研究所】に向かってもらった。【創造の才】も渡しているから何とかなるだろう」


SSRスキル【創造の才】

・鍛冶、木工、裁縫など全ての【生産】が可能になる

・生産に関する全ての行動に補正


「【蟲の女王】は工兵アリを産んで巣の構築中だ。それと女王蟻を直視した杏奈たちが悲鳴を上げて逃げて行って、今は【天国のベッド】で三人とも休んでいる」


 杏奈はただの虫嫌いだが、アリーチェとエリザの二人はそろそろ寝ないと体力が持ちそうになかったので、そのまま就寝している。


「それで、【見習い呪い師】の“ココ”は【呪術台】と呪いのアイテムを持って向こうだ」


SSRベース【呪術台】

・ベース内設備

・呪術を行使するのに適した舞台

・使用には呪術師が必要


CRアイテム【守りの指輪】   ランク1

・防御力が上昇する

・全身に軽度の【麻痺】が降りかかる(呪)


CRアイテム【目隠しの仮面】   ランク1

・装備すると魔力が上昇する

・何も見えなくなる(呪)


CR?【呪われたカード】

・このカードは呪われている


「……あれはなんなの? わたしの眼でも見通せないんだけど?」

「あれが【人類の守護神】らしいぞ」


 俺が指差した先にあるのは巨大な氷山。本当に山のように大きな氷の塊で、その周りを黒い鎖が雁字搦めにしている。【人類の守護神】のカードを使って出てきたのがあれだ。


SSRユニット【人類の守護神】

・人類の守護神


「どうやら封印されているらしい。あの鎖も“神の呪い”だとココが言っていた」


 神。ベアトリーチェを含むカードやダンジョンを造ったという存在。その神と【人類の守護神】は別の存在らしいが、どうしてわざわざ【人類の守護神】は封印されているのか。そして、なぜわざわざカードにしてダンジョンの宝箱の中に入れていたのか。

 わからないことだらけだ。情報が知りたい。

 そういうわけで俺はココに命令して神の呪いを解かせることにした。


「あるじは鬼なのじゃ! こんなの妾の手に負えんのじゃ~~~!!」


 【見習い呪い師】が泣き言を言っていたが『多くの呪いに触れることで呪い師として成長する』とテキストに書いてあったし、どんどん仕事を与えて成長させていこう。いつかは神の呪いだって解けるだろう。たぶん。

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