第44話 お茶会再び
「さてさて、今日はお茶会をしよう」
「……驚くほどに豪華なんですけど、これは一体……?」
ミシェラが不審な目をハウリーに送ったが、まったく気にした素振りもない。前に一緒に来た城の花が咲き誇っている庭園に、ティーセットが揃えられている。
この間のように持参したお菓子や飲み物ではなく、完璧に席が整えられてある。
「何故かと言うと、ミシェラに甘いものを食べさせてストレスを減らしつつ、魔術の話を聞こうと思っているからだ」
「なんだか謎の下心がだだ漏れですけど、いいのでしょうか……」
ハウリーがメイドには下がるように伝え、二人きりだ。
まずは花のいい香りを楽しもう、と薔薇が見えるベンチに二人で並んで座った。
ミシェラは何故か凄く可愛いドレスを着せられたし、ハウリーはきっちりした服を着ている。
黒を基調としているのに、凝った刺繍と艶やかな生地がとても華やかだ。どちらもとても高そうで、ミシェラはお茶をこぼさないか心配になった。
「大丈夫だ。こう見えて地位が高いんだ。誰も文句は言わない。……それで、ミシェラはどこであの技術を?」
さり気なさを装っているが、途中少し言葉を選ぶように途切れたことで、ミシェラはハウリーの心配に気が付いた。
ストレスとは、ミシェラが村でされていた扱いを思い出すことだ。
気遣いを嬉しく思いつつ、ミシェラは出来るだけ気軽に返すことにした。
「えらい師団長様に甘いものをもらえればストレスとは無縁です! ええと、技術というか知識は、あの小屋の地下にドラゴンに傾倒した魔術師の部屋があったので、そこで学びました」
「あの村に……。そうだったのだな。失われた技術とは言っているが、少なくとも二百年ほど前は普通に使われていたものなのだ。なにか情報の断絶があって、それから魔術は著しく後退した。その前にいた魔術師なのだろう。でもあの人間達に、よくミシェラにそんなものを与えることができたな……」
「地下の部屋の入り口は、魔力を流すことによって開く隠し扉みたいなものだったので、村の人は気が付いていませんでした。……私は、そこで本を読むのが好きだったので自然と覚えた感じです」
実際は生き残るために魔術を覚えなければいられなかったのもあるが、黙っておく。
大きな怪我も、長い長い先の見えない時間も孤独も、魔術と彼の楽しそうな日記に助けられてきた。
「置いてあった日記は本当に面白いんですよ。その家主の彼は、ドラゴンが好きで好きで、それで村に住んでずっと観察していたんです」
「……何だかそんな親しげな感じで話されると、複雑だな」
「当然会ったこともないですよ」
「それでも、ずいぶん親しげに思えてしまう」
「そうですね。勝手な思いですが、ちょっと友達みたいな気持ちになったんです。楽しそうにしている彼が好きだったドラゴンなら、食べられてもいいなって思ったりもしました」
「そういうところだ。……ミシェラは、あの村で言う竜神様を信じていなかったんだな」
「それはそうですよ。ドラゴンの生態について、凄く詳細に書いてあるんですよ? あれは魔物です」
ミシェラが口をとがらせると、ハウリーは吹き出した。
「それは心強いし、安心だ。私もドラゴンは魔物だと思う。……だが、強い力というのは、人を魅了する」
「そうですね。……それは、身をもって感じます。私の事もあがめてくれればよかったのに、って感じですよね」
おどけて言うと、ハウリーは目を見開いた。
「ふふ。気を使ってくれてとても嬉しいですが、私、かなり消化できていると思います。……ハウリー様が、嫌な気持ちをどんどん上書きしてくれたんです」
紅茶を一口飲む。ミルクが入れてあって温かくて甘い。
「強制的にですけど」
「いやいや、その言い方だと強引すぎるだろ」
「……でも、私にはその強引さが有難かったのです。私も必要されることがあると、信じることができました。ありがとうございます」
はにかんだミシェラがお礼を言えば、ハウリーは首を振った。
「それは違う。ミシェラに救われたのは私も同じなのだ。……以前君が言ってくれた私と同じ化け物になるという言葉。本当に嬉しかった。……孤独だったのは、同じだ」
「ハウリー様……」
ミシェラの手をハウリーはそっと握った。
そしてこつんと額と額をくっつけた。
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