第330話 コーヒーブレイク∀チョコレート


ジュリオンが休みになると同時に……凄まじく警備が増えた。


ソーギアー領に出払っていた空軍と恵みの雨によって領中で対処に追われていた兵が帰ってきた。


そういうものかと思いつつも、何やら緊張感が抜けない雰囲気。


なんか怪しいなとテロスに尋ねると「本来は兵がいるのが当たり前ですじゃ」とニコニコしていた。テロスも怪しかったのでニャールルに聞くとジュリオンは強制視察と悪党の撃滅に向かったそうだ。



「撃滅?」


「撃滅にゃー!お掃除大事にゃー!」


「余計なことを……」


「心配なぁはわかるにゃ。でも主は主にゃ!」



ドゥッガとアモスは真っ当に領地運営をしていた。


彼らは領の顔でありイメージを悪くすることは出来なかった。


普段からコツコツと調査はしていたし、決定的な違法行為があれば取り締まっていた。そこで反省すれば良いのだが……反省よりも「次はどうすればバレないようにするか」の方が多いようで、大体の悪党は段々と狡猾になったそうだ。


一度何処かを捜査すると他の悪党は証拠を隠す場合がある。


……そう、ここには少なからず奴隷を連れて来る商人もいる。彼らの中には違法な手段を用いていることもあって……「証拠隠滅」とは彼らの死に繋がりかねない。


そこでジュリオンが出たそうだ。


ジュリオンはアモスとドゥッガがやりにくい部分を、悪さをしていそうな場所を強制捜査や撃滅しに行っていたと、城の外から建物の破砕音が僅かに聞こえていたのはそういうことか。


テロスは心配させないように誤魔化し、ニャールルは知るべき情報だとして聞けば教えてくれた。


まぁ大人しくしておこう。


書類を見ていくと私の判断が必要なものも多くある。



一番多いのは――――――…………あ゛っ



リヴァイアス領地を正式に引き継いでシャルルが帰った後、中央からは婿や家臣にと貴族の子弟が送り込まれてきていた。


彼らは厚顔無恥に「要職に就かせろ」とか「結婚しろ」とか……ふざけたゴミばかりだった。だから教育施設に入れて再教育の後に配置していた。その中でも地位が高くて獣人差別がなくならなかったり、傲慢な部分が矯正出来ない酷いゴミで仕方なく一応の配慮が必要なタイプは――――『重要な要職』と銘打って灯台に隔離していた。



海上や島、陸地の先に作られた交易のための灯台。



陸地とはいえ、道もなく整備されてない陸地の先に作った灯台には逃げ場がない。


彼らは御実家の許可をとったうえで配置していたのだけど……配置転換をしたいという要望がえげつないほどたくさん来ている。


初めは彼らも大きな施設を任されてウキウキだったのだが、基本的に単独の配置だ。他の灯台が見えればまだいいが、海の上にポツンとしている灯台なんて夜になれば周囲は真っ暗、どこまでも何も見えない。


しかもリヴァイアス領はアモスやドゥッガが頑張ってくれているとはいっても急成長中のリヴァイアスは完璧に平和とは言いづらい。賊にとっては「拠点に出来そうな謎の巨大設備」であるため攻撃されることもある。


そうなれば頑丈に作っただけあって引きこもれば問題はないのだが……監視カメラとか無いし、外にいる賊が諦めたかどうかもわからないためストレスになり続けるそうだ。


何度教育されても傲慢さが抜けなかったゴミは食料と燃料を運ぶ鳥人や人魚とも当然のことながらもめた。仲間なのに蔑んだり、攻撃的だった時期もあったそうだ。


そういった場合は届けられる食料の質も量も落ち、配達の頻度も減る。これは上司であるドゥッガの指示なので問題ない。死なない程度の食料は渡されるが攻撃された配達人も当然良いようには思わないわけで冷たい態度である……もはや海の上の独房。


仕事放棄をしたゴミは「重要施設の運用を故意に行わなかった」として牢獄送りである。


ぎりぎり死なない程度にしないといけないので一週間ほど暗い独房に入れられた後に再教育コース、現在100%更生しているようだ。


しかし、灯台はそれぞれ独立していることもあってそれらの情報は遮断されている。


仕事しつつもギリギリ限界の生活をして耐えているしぶといゴミもいるようで…………配置転換希望の嘆願書が山のようにきていた。



どうしたものかなこれ。



彼らの御実家は無視できないほどの有力者である。そんな彼らは「うちの子をよろしく!要職につけてよ」と親族を送り込んできて、こちらは「教育してから要職につけるよ!そこから出世するかどうかは彼らの頑張り次第!」と返している。


オベイロスではリーズやミリーのように海を知らない人も多くいる。


貴族の親御さんには「灯台は超重要施設であり、そこを任せる」と言えば感謝されるのだ。……そもそも「灯台」というものがわかっていない可能性もあるが。


耐えられなければそれは彼らのせいに出来るが……なんだか刑罰みたいにもなってしまっている。


部下の中には「灯台送り」なんて言葉ができていて恐れられているようだが、リヴァイアスの鳥人や海の民は夜中に火を灯すだけなので「楽な仕事」と考えているようだ。


初めて会った時のモーモスをはるかに超える傲慢貴族だけが配置されるのだ。中には再教育後にまた戻そうとすると「灯台送りは嫌だ」と大声で泣き叫んで木にしがみついたり「あそこに戻されるぐらいなら別の国に旅に行く」なんて逃亡するまであるらしい。


ま、まぁ恐怖心から真面目に働くような副次効果もあるみたいだし……ドゥッガに任せよう。いや、エール先生のほうが貴族社会的な人事には詳しいのかもしれない。


これだけの陳情がきているということはそれなりの理由もあるはずだ。


駄目なら再教育である。ゴミは再利用。うむ、いい言葉だ。


他の事業はどこもほぼほぼうまくいっている。



変な報告といえば浜辺に漂流したものの扱いに困っているそうだ。



敗戦したクーリディアス。そんな弱った彼らを狙って他国からの襲撃が何度もあったそうだ。しかし、リヴァイアスが海上でボロボロにした。


沈没寸前となった船から引き上げられた人員はドゥッガによって再教育施設に送られ、物資は私のもとに来る。


良いことのようにも思えるが、領民にとっては「海に謎の精霊がいる」ため、船や浜辺に流れ着いたものに関してどうしたものかと扱いに困っているそうだ。


アクセサリーのような明らかに高価なものなら領主様に送ろうという流れはあるのだが、それ以外に流れ着いた様々な物品……「海藻」に「ちょっと良い感じの木の棒」、「なにかの鱗」、「謎の骨」などなど、これまでなら捨てていたようなものでさえどうすれば精霊が怒らないのかもわからず、とりあえず集めているそうだ。


リヴァイアスがどうしたいかって……私に言われても困るが。



他にも「後回しでもいいけど、私しか対応出来なさそう」な報告が溜まっている。


とりあえず、簡単確実なものは指示を出し……わからないものはわからないのだから分かる人に任せるなり相談してから決める!


そもそもが部下に任せても対応できない問題が積み重なってるだけあって対処も難しいものばかりだ。対応の許可を求めてきたり、領主による方針を決めて欲しいなどは次々に決めていく!




◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆




疲れたのでコーヒーブレイク……コーヒーなかったんだった。休憩するべく別の部屋に移動する。


同じ部屋でずっと書類を見ていたら気分転換にならないだろうというエール先生のはからいで移動してみると文官も武官も好きに飲食のできるビュッフェスタイルの部屋が設置されていた。


ワイワイと楽しげな雰囲気だ。しかし私が近づくとぎょっとされて、なんか謎のお誕生日席的なポジションまでの道が出来てしまった。……人垣で。


これあれだ。新卒歓迎会とかそういう楽しんでる雰囲気の中に来る予定のなかった社長とか役員が来るタイプのやつ。


断固としてその椅子に座るのは断り、普通の席を陣取る。


料理を見に行ってみるが種類が多い。ここで料理を持って行く場合もあるのか袋と豆が用意してあったりもする。あ、水瓶だ。補充しておこう。


気になったものを取り分けてもらい、少しずつテイスティングする。



やはり種族が多いためか、味覚や嗅覚が違うようで味付けがそれぞれかなり異なる。



ということはそういった配慮もするべきだろう。作物も何を作るかを奨励したりするのは仕事の一部だ。……あれ?休憩しに来たのに仕事のことを考えちゃってるな。


食べた中で面白かったのが茄子のような野菜をくり抜いた中身を味のついたスープの中で茹でたものだ。見た目は悪く、スープの中で茄子の中の部分がボヨンボヨンと存在感を主張している。一つ取り出して切り分けてもらい食べてみると「スープの旨味が詰まった美味しい野菜」といった印象で、野菜の形ははっきりしているのにスープがメインとなったような……不思議なものだった。


他にも茸を板状に切ってそこにひき肉を挟んで焼いたもの。ボソボソするスコーンのような食感に砂糖なしのチョコを混ぜたような――――っ!!?



「チョコレート!!?」


「カーヌアーヴィが気に入りましたか?星犬族が滋養強壮のために食べる……薬草の入った携帯食料のようです」


「カーヌアーヴィっていうんですね。これ自体と言うよりも、別な使い道は出来ないかなと!」


「こちらには作られたものを持ち込んでいるはずなので……食材が届くよう手配しておきますね」


「はいっ!」



思わぬ収穫もあった。


渋いし、本来のチョコにはない風味もあるが……「チョコっぽさ」は確かに感じた。


もしかしたらチョコを再現できるかもしれない!


疲れが吹き飛んだ気がする。もしかしたら再現できないかもしれないが、それでも可能性は見つけた!うまくいきそうならたくさん作らないと!


ご機嫌にエール先生のお茶を飲み、城下を見渡すと――――――遠くてかろうじてとだがスーリさんが立っていた。


私のいる位置がわかるのか、それとも城を眺めているだけなのか……漠然とだけどこちらを見ている気がする。



ただただ棒立ちでこちらを見て――――どことなく、微笑んでいるような。

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