第249話 偉い人 と 挨拶


「ふむ、王としてできることはあるか?」


「こちらに」



見に来たシャルルに草案を提出する。元々まとめていたしこのあとフォーブリン様の意見を聞いてからシャルルに渡そうと思っていたのだが……それを伝えた上で渡した。


例えば飲食店や火を使う店舗では「定期的に火災に対する備えを指導をする」とか水路が遠い大型店舗や学園では「井戸やため池の位置を看板でわかりやすく掲示しておく」、火事の時には警報を鳴らす専門の兵士がいるが、その兵士に人伝で知らせるよりも「大きな音が鳴る魔導具をよく分かる場所に設置しておくこと」で火事を早期に解決できるかもしれない。


人が生活し、火を使う以上、火災は発生する。


どうしても起きるものは仕方ないがそれにできるだけ早く対応できるように準備はしておくべきだ。



「指導に掲示に魔導具の設置か……これだけすれば火災で死ぬ者も減るか」


「水路が遠い位置にため池の設置と桶や水瓶の設置もしてもらいたいです」


「うむ、音の魔導具はいまいちわからんがなんとなくはわかった。フリムの思う形にできるかはわからんが進めていこう」


シャルルにはピンときていない部分もあるようだ。


揚げ物だって油によってはすぐに火が付くし、専門の講習を受けた人間がやっている店舗にすれば危険性は減らせるはずだ。


揚げ物調理免許とか講習済証明書なんてのもありかも知れない。



「揚げ物は食べ過ぎると胃もたれもするので程々に!特にレージリア宰相!!」


「いやぁ、若返っていくらでも食べれそうでして」



「普通の火事に対する講習」はだいたい終わったがこのあと「油と火災の危険性」を認知してもらうために揚げ物料理をふるまっている。多分シャルルとレージリア宰相はこのために来た。


魚の切り身の天ぷらや山菜や野菜の天ぷら、様々な食材で試していって細かく刻んでつくったかき揚げも出す。


中でも目を引くのは海の巨大な魚、見た目は真緑の鱗の魚だが味はタイっぽい。


15メートルほどの巨大なもので、王都に届いた魚の中でも一匹だけとても大きかった。商売を担当したものによるとこの魚は美味しいし沿岸部では祭りに使うこともあるとかで「王都に持っていくと凄まじい値段になるんじゃないか」と期待したそうだ。しかし、氷漬けにしてオベイロスに届けたはいいもののあまりの大きさから「精霊の関与しているなにかじゃないか?」と恐れられて誰にも買われなかった。


揚げ物はサクッとして、どれも食材の味が鮮烈に感じる。特にジューシーな魚が美味しい。


冷凍期間から味が落ちてる可能性もあったしどうせならみんなで食べようと持ってきたのだが問題は無さそうだった。ちょっと味が強すぎるが塩味と旨味で思わず目を閉じてうっとりしてしまう。


揚げ物だけでは胃もたれするのでうどんも出している。昆布出汁と魚の骨から出した出汁で調整したが……うどんは正直言って期待外れだ。


カレーうどんであれば歯ごたえがところどころドゥルドゥルでもカレーの出汁が味を吸ってごまかせたが優しい魚介味の出汁のスープにこのうどんのドゥルドゥルな食感はあわない。


生徒たちはこのスープだけでも美味しそうにすすっているようだがうどんの方は食べにくそうにしている。「腰のあるうどん」というのは短時間では出来ないようである。もっと踏んだりするべきだったか?それとも乾燥期間か熟成期間が足りてないのかな?それとも素材の品種か。いや、単純に茹ですぎの可能性もある。改善せねば。



「今度こそ負けませんよ!」


「若いもんにはまだまだ負けん!!」



何故かミリーとレージリア宰相がフードバトルをしている。掃除機のように食べるなあの二人は……豪快なほど食べるのは見ていて気分が良い。


水差しに水を入れておこう。


彼らが遠慮なく食べれば平民の生徒たちも遠慮なく食べるだろうし良いんだけど。




◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆




美味しく食事をした後は油の危険性を伝える。


熱した油に水を入れると発火するし、鍋が倒れると火を消そうとして逆効果になることもある。水で消そうとすると弾けて燃えたり煙で視界がとても悪くなってしまうこともある。



「なるほど、油はうまいものも作るがちゃんとした者が扱わねば危険でもあるようだな」


「そのとおりです」


「ちなみにフリムならどう消す?」



他の水魔法使いや土魔法使いが消そうと実地で試しているのを見守っているとシャルルに聞かれた。


土の魔法使いは鍋に砂を噴射して消そうとしたようだが鍋から油がこぼれて薪の火から直接燃えて火柱が立っている。水の魔法使いでは薄黒い煙が油の発生源からもうもうとたっている。


ちょっと興味深いのが火の魔法使い。火自体を操って……消すことは出来ないまでもある程度勢いを減らしたり誘導は出来るようである。こんな対応ができるのか…………。



「私なら圧倒的な水の量で消しますが……それをここでやると魔法を知らない生徒が一般的な水魔法使いの力量を勘違いするかもなのでしません」



シャルルと一緒に彼らの作業を見守る。シャルルは王様であるし、この会の主催者は私であるため対応を押し付けられた。


ちょっと離れているぐらいが安全のためにも良いらしく、私たちは訓練からは隔離されている。



「赤竜騎士団団長。プライマーレ・マーランド・フェニークスです。火事に対して我々の仕事を考えてくださり感謝します」


「内務大臣。ベッグ・ドヴェイン・ガセール・ポヨである。陛下を呼びつけるのはいかがなものかと」



普段話しかけてこない王宮の偉い人が声をかけてきた。


赤を基調とした騎士が一人、プライマーレさん。目付きが鋭いが鼻の下の髭が整ったジェントルマンに見える。


もう一人のベッグと名乗った大臣。シャルルの頭を悩ます大臣だったはずだが……でっぷり太って人相からして悪人に見える。不機嫌そうな視線を私の足の先からビュンビュン動くアホ毛までじっくりと向けてくる。



「王家相談役。フレーミス・タナナ・レーム・ルカリム・リヴァイアスです。人の不幸は少しでも減ればよいと考えます。プライマーレ様の日々の活動に感謝を。シャルルは呼んだんじゃなくて自らの意思で来たのですよ」



ニッコリ笑って迎撃してやる。


ベッグ大臣は大臣の中でも内務大臣。つまり大臣の中でもゴミの統括者である。私に対して明らかに侮りや蔑みが見える。


王宮では以前の締付けもあったし『シャルルの相談役』である私の邪魔をしないように注意喚起がでていた。だからわざわざここまで来たのだろうか?



「いえ、プライマーレではなくプラーとお呼びください。うちの家系の者どもの命もお救いくださり感謝を。これまで職務もあってご挨拶出来なかったこともお詫び申し上げたい。本来であれば西の地にいる当主が出向いて挨拶するべきでしょうが……」


「…………いえ、フェニークス家の方々には守護竜王に対して共に王を守るべく戦いました。こちらこそありがとうございます」


「――――そう言っていただけると幸いです」



あれ?騎士団長さんは敵意が無さそうである。


こちらも相手も少し言葉を選んで話したがそれは敵意ではなく相手を考えての言葉と感じられる。



「人命のためですか、我等貴族にとっては必要のないことでは?むしろ平民が死ぬことで我等大貴族の生き残るための時間稼ぎとなるでしょうに」


「――――……?」



ベッグ大臣が何を言ってるか理解できない。


蔑んだ表情を浮かべてこちらに文句を言って来ているのはわかった。


何を言っているのか考えてみよう。大貴族であれば独自の逃走ルートがあってもおかしくはない。火事が起きて平民が大声で騒げばどうなる?敵がいる場合、大貴族の逃亡がしやすくなる?……かも。



「これは敵襲を想定していない火事の対処法を学んでいます。大貴族様が逃げる方法を教えているわけではありませんよ」



杖で軽く床を叩いて不機嫌をアピールする。


いつでも火事が広がっても対処できるように杖を持っていた。



「そうでしたか。リヴァイアス侯爵は民にお優しいのですね」


「そうですね。民は国の力ですから――――<水よ。オルカスよ>」



風の魔法使いが強い風で油の火を消せないか試そうとしたようで広範囲に火を広げそうになった。


ベッグ大臣の皮肉を無視して大量の水で火炎の先にいた生徒の間に水の壁を作って守る。あらかじめ領域を意識していたし、範囲内だったから障壁の展開が早かった。速度だけで考えるとリヴァイアスやルカリムよりもオルカスのほうが素早い。


私の不興を買ったとわかったかそれで絡んでこなくなった大臣。ゴミの統括者だけあって発想がゴミである。


居なくなったのを確認してため息を付いた。



「すまんな。やけにフリムを見ていたことからなにか企んでいるのかもしれん」


「いえ、シャルルのせいじゃないですし……それよりライアーム殿下の様子はどうでしょうか?」


「まだ知らせはないし……わからんな。戦争にならねば良いのだが………………はぁ」


「水、飲みます?」


「もらおう」


「儂も!」


「はいはい」



シャルルとレージリア宰相に水を出しておく。ミリーにも。


西の空を思わず見てしまう。ライアーム殿下はこのまま王位を諦めてくれれば良いのだが、もしかしたら外国の手を借りて戦争を仕掛けてくるかもしれない。



「ありがとうございますっ!」

「もう一回!もう一回!!」

「リヴァイアス候!続けてもよろしいですかー!」

「今度は水と土を混ぜてみようぜ!!」

「水を出してくれ!優美な風で届かせてみせよう!」

「泥水作ってそれを当ててみるのはどうでしょうか?」

「この魔導具を使ってみませんか?」

「インフーだ!誰か止めろぉぉ!!」

「これこそ火事を止める画期的なゲフぉッ?!」



油をどう消すか。火事をどう抑えるか。生徒たちは熱心に取り組んでくれているようだ。油だけではなく普通の薪もあるし「効率的な火の消し方」を模索している生徒たちが微笑ましい。


これも一つ、胸を張れる取り組みのはずだ……やってよかったと思う。うん、色々考えることもあるが、フリムちゃんは良いことをした!!

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