第199話 家畜っ!!
もう一つ作っているのが『ミネラルブロック』である。これ、正直言ってやばいかもしれない。ミネラルブロックは馬や牛、豚に鳥などのための塩を中心とした成分のブロック。サプリメントのようなものだ。
人間が生きるために塩が必要なように、動物にも塩分が必要な場合もある。
犬や猫に対して塩分は腎臓への負担になるとして塩分はよろしく無いものとされるが、馬なんかは塩や角砂糖をおやつ代わりに食べることもある。牛に対して大きな塩の固まり、岩状のミネラルブロックを差し出すと集まって舐めまわす。食べれるかどうかは動物によるはずだ。
馬や家畜の経済について学んだ時に調べた。
塩も浸透圧を使った精製塩ではなく天然塩の類いだったらミネラルが豊富で良かった……はず。実験してみると従来のスライムを使用して不純物を減らした塩と海水を焼いて作っただけの焼き塩では焼き塩のほうがどちらかというと人気だった。
たかが塩、だが私の考えが正しければとんでもないものだと思う。そもそも前世の進んだ工場の生産力であれば塩は大量に作れるがこの世界ではそうではない。岩塩は掘る人が必要だし、海水は塩にするにしても塩水を汲んで燃料となる木を切って燃やすなど「人の手間」が発生する。
故に塩はそこそこ高く、軍で使う騎獣でもなければなかなか塩を与えるようなことはない。
しかもエンジンがこの世界にはないので乗り物といえばどこでも動物である。前世よりも身近に使われる動物の数が多い以上『ミネラルブロック』の効果は大いにあるはずだ。
そこで作ってみたのがミネラルブロック……というか動物用天然塩の固まりである。岩塩よりもミネラルが少ないかも知れないが、実験で超魔力水も入れてみると騎獣が奪い合って喧嘩までし始めた。
前世の進んだ技術では簡単に手に入る「塩」だがこの世界では簡単に手に入る物ではない。その上需要も大きく、見込まれる効果が大きい……つまりは経済効果があるのだ!既にリヴァイアス領では実験が始まっているが、世話している人によると明らかに騎獣や家畜の健康の向上が出来ているようだという報告は受けている。
作れば作るだけ塩は売れる。もっと生産量を増やしたいがなかなか簡単にはいかない。燃料の問題がある。試しにソーラークッカーも作ってはみたがサビが酷いものの毎日の手入れで薪の消費量は少しは減らせているらしい。ただ味はよろしくないそうだ。
インフー先生の爆弾もこっちに持ってきてもらおう。大爆発を起こしたあの湯沸かし器はインフー先生が破片から再生しているとアーダルム先生の報告でもあった。クリータであれば爆発しそうになったら海に落とせば良い。周囲は立ち入り禁止区域にしよう。
前世のように積み重ねられた科学技術がないので馬や牛にとっての洗練されたミネラルブロック作りは難航するかも知れない。なんとなくのものは出来たが……これで良いのか、もっとなにかしたほうが良いのかがわからない。
前世で調べた時は必要な栄養やビタミンをさらっと「添加する」とあったはずだが……ビタミンを添加?添加ってどうするの?パードゥン?そもそも塩の大きなブロックを作るだけでも大変だったというのに……。
塩を作る過程で鍋にこびりついた部分は焼きすぎて茶色っぽくて見栄えが悪い。しかし動物なら全く問題が無いようで何種かの家畜はガンガン舐め取っている。
健康に悪いんじゃないかとも思うが動物は必要な分を取ってやめるそうだ。だけど前世には「乗り物用の犬」「乗り物用のドラゴン」なんてものはいなかったし健康問題が出ないかはゆっくり調べてもらうことにする。鉄分も多めになるからむしろ良いのかもしれないが。
動物の数が多いだけあって国単位で考えると……どれほどの効果が出るのか楽しみである。
自分の好きに開発するというのは本当に楽しい。注意してきたクラルス先生も便利さを理解してか注意はなくなった。ロールアイスでご機嫌をとっておいたのが良かったのかも知れない。
海も近いし天災で食料や経済は大きくひっくり返る可能性はある。自然を相手に働く人は一度の災害で稼ぎが全部吹っ飛ぶことがあるというのも学んでいた。食料にもなる家畜を増やすことを奨励する。
人が食べられない果物の皮や魚の頭やアラなんかも加工すれば家畜は美味しく食べてくれる。ただ、牛と鶏を導入しようとしたがあくまで僅かに似てるだけでそのままではない。牛は大人しくなくて柵を良く壊すし、鶏も体が大きいし卵を取ろうとすると大怪我することもある。
大きなワニやウサギにカエル、毛玉のよくわからない謎の生命体、それに騎獣用のサイズにならなかった恐竜のようなものも畜産業ではそれなりに人気だそうだ。
「ケクーは簡単です。しかしチッチゴは難しいでしょう」
ケクーは巨大鶏、チッチゴは牛。ケクーは多分鳴き声から来ている。鶏の姿に近いダチョウのようなもので、くちばしによる攻撃力が高い。鱗の硬いリザードマンが飼育するか、餌の位置をローテーションでずらすことで卵の回収が容易となる。
チッチゴは牛に近い品種でとても美味しいらしいし育てたかったのだが……柵を壊すし標高が高い山の果物を好んで縄張りとするため、このあたりの飼育は難しい。
この世界ではそこそこポピュラーなサイのような肉についてだが……美味しいと言えば美味しいし野生界にはよくいる。しかも騎獣としても使えるなどの利便性はあるが騎獣にしても家畜にするにしても難があるそうだ。
同じ人にしか懐かないし、複数頭飼うと殺し合うので増やすことも出来ない。しかも発情期になれば番いを見つけるまで走り回り、石の壁でも突進で破壊することがあって世話が大変。……駄目だな育てられない。
ニャールルによるとこのあたりでは騎獣に二足歩行の小型竜を使うのがポピュラーらしい。機敏で仲間思い、ぴょんと壁を超えることも出来るし、穏やかな性格。前足の爪で器用にご飯を食べたりもする。
問題は若干おバカで長年乗り手だった主と同じ服を着ているだけで間違えるので盗まれやすいし海猫族のような軽めの亜人しか乗れない。重い荷物を牽けるのは力強い少数だけなどの若干非力な部分がある。
――――とりあえず鶏だな。
できれば全ての領地で作ることで安定して卵と鶏肉を食べてもらいたいがまずは増やす必要がある。ディガッシュ商会から売ってもらったが亜人の人たちが野生のケクーも連れてきていた。
結構サイズがバラけていて、小さくて1メートル、大きくて3メートルほどだ。エール先生によると王都のケクーよりも大きいそうだ。
ダチョウのようなサイズで結構怖い。あまり速くはないがくちばしや体当たり、蹴りを入れてくる。結構好戦的……な、はず。
「あれ?聞いていたよりもおとなしいですね」
「こんなにも大人しいのは私も初めて見ました」
遠くから見ると管理人らしき人に襲いかかっていて怖く感じたが、近づくと頭を下げてピクリとも動かない。置物のようだ。
ただ近づかない。動物は好きだけど距離感を間違えると痛い目を見るのだ。
「きっと私がいるからでしょう。竜人はリザードマンに近いですから」
ジュリオンによるとケクーは沼地に多くいる種類で沼地には大きなワニがいる。ワニが近づくと全く動かないことでワニに襲われないそうだ。同じようにジュリオンとアモスを見かけるとケクーは動かずにいるから見つけ次第よく狩っていたらしい。
森にもいるケクーだが……枝の上で寝ていて、普通の人がその下を通りかかると猛然と襲いかかってくるなど野生で出会うと結構危ないそうだ。だけど管理さえしっかりしていれば育てやすいらしい。ボルッソファミリー製の家と先にいた専門家に言われるがままに大きめの小屋を作ってもらった。
「ではここを任せます」
「ありがとうございます!ありがとうございます!!」
「真面目に働かせていただきます!!」
「……あなた達の幸せを願います」
隷属兵の中にはやはりというべきか、他国の出身で冤罪で捕まった人もいた。
イルーテガが錯乱していた記憶の中で他国からも奴隷を購入していたというのがあったが攻め込んできた兵士の中には理不尽に奴隷となってこちらに攻め込んできていた人もいた。
解放も考えたが解放なんてすれば賊になりかねない。オルミュロイが隷属魔法を受け入れたままレルケフに従ってマーキアーたちと戦ったそうだが……他国の農民だったときよりも今の方が良いものを食べているし待遇の良さから解放を望んでいない。というかシャルルの魔法が強すぎて誰も解放できない。
しかし、ひとまとめに命令して働いてもらうのは効率も悪いし、凶悪犯罪を犯した犯罪奴隷と一緒の生活はあまりに可哀想だった。奴隷にも様々いるが、善良で真面目な者には少しずつだが良い生活を送れるようにしていきたい。
真面目な奴隷の中でも……いつの間にやら良い関係になっていた男女の奴隷。体の関係はなかったが聞き取り調査でも2人はお互いに想い合っているようだったし……家とケクーの小屋を任せた。
いずれは領民となってもらいたい。他にも耕してもらった大きな畑にはそれぞれ管理者が必要だし経歴も問題なく真面目に働くものから任せていった。建物込みで。
人が増える。野菜を作る。人には食べれない部位も当然あるがそれらを有効活用するためにも家畜や騎獣を増やす。
前世であれば外部から容易に何でも手に入っていたのに、こんなサイクルを感じるのは大変な反面、やりがいも感じる。
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