第202話 お呼び出しっ!!
流石のボルッソファミリーでもコロシアムは大きくて計画的に作る必要もあって建設には時間がかかる。完成を見届けたかったのだがついに王都に戻ることとなった。
リヴァイアスにいれば私の安全だけは確保されると思うのだが……今後のためには学園卒業も必要というのもわかっている。貴族という立場だし、今ではなく未来の私や私の周りの人のためには箔が必要だ。
しかし、行事の有無なんて関係なく気が重い。胃がチリチリ痛む気がする。
「止まれぇ!!軍がここを通るなど!何の報告も受けていないぞ!!?」
王都の正門、正面から堂々と入ろうとしたのに止められてしまった。
……なにせこちらは完全装備のリヴァイアスの軍勢だ。しかも精鋭中の精鋭を最大限連れてきている。
「こちらはリヴァイアス侯爵軍である!王の命にてクーリディアスとの戦勝行軍をしている!速やかに門を開けられよ!!」
「し、しかし」
「こちらはオベイロス王の命で参上している!!道を開けねば門を壊してでも押し通るぞ!!!」
対応してくれている末端の責任者。
事情を知っているのか知っていないのか分からないが真っ青になって焦っているのが遠目でもわかる。
「しばしお待ちを!リヴァイアス侯爵とは言え、こちらにも準備というものが――――」
「オベイロス王の命を信じぬものなどオベイロスの兵にあらず!!総員!戦闘態勢!!」
「待って!待って下さい!!?これはなにかの!?どうなっている!!!??」
大いに脅すことにした。空には鳥人部隊とワイバーン部隊が散開し、魔法部隊は陣形をとった。
本来なら私が止めないといけない場面、一触即発――――……だけど
「<水よ。巨大な私を形作れ>」
外壁の倍ほどは大きな巨大フリムを作って門の前にゆっくりと歩かせる。やはりリヴァイアスの領域であるリヴァイアスの海とは桁違いに負担がかかる。
本来であればここに来るまでにも他の領地を通ってきたし、王宮にも知らせが届いていて当然なのだ。なのに突然侯爵軍がいることに……私の行動に驚いているようだ。
「来るな!来るなぁ!!」
「それ以上近づくと撃つぞ!?」
「やめろ?!皆殺しにされるぞ!!」
「おぉ、精霊よ。我が身に導きを」
慌てふためく兵士たち。杖も私ではなく巨大フリムに向けている。大きな城壁より更に倍は大きくした巨大フリムは彼らにとって脅威だろう。
立ち尽くして剣を落としてしまっている兵もいる。逃げようとする兵もいる。味方と胸ぐらをつかみ合っている兵もいて……パニック状態だ。
目立つように巨大フリムを出してうちの鳥人部隊とワイバーンたちを飛ばしたからかすぐに王宮から飛竜の部隊が――――シャルルがやってきた。
「これはどういうことだ!」
「陛下!リヴァイアス侯爵が反逆を!このような軍勢、認められるはずがありません!!」
「リヴァイアス侯爵は俺が呼んだのだ!!なぜこのようなことになった!!さっさと杖を降ろして門を開けろ!!」
シャルルが飛んできて、怒りの表情で指示を出した。
偉そうな服の貴族がいたがへたり込んでしまった。
「開門!かいもーん!!リヴァイアス侯爵が来られたぞぉ!!!」
正門の別の人が大声で門を開けてくれている。
お互いの軍勢が静止している中、私のもとにシャルルが来た。シャルルの周りの兵に止められそうだったが振り切って歩いてきた。
私もエール先生とアモスとジュリオンを伴って前に出た。
「久しいな、少し大きくなったか?」
「んぐっ?!」
やはり見られていたのか?シャルルの柔和な視線が恥ずかしくて仕方ない。
「子供はすぐに大きくなるものですよ!それよりもこれはどういうことですか!」
「おそらく王宮にはリヴァイアスとの縁をよく思わぬものがいるのだろうな!俺たちは仲がいいというのに!しかしこれは俺の不手際だろう!オベイロス王としてリヴァイアス侯爵に正式に謝罪する!!すまなかった!」
ちょっと耳が痛い。私に向かって私ではなく周りの将兵にも伝わるように大声で謝罪してくるシャルル。
――――予定通りだ。
「<水よ>」
わざとシャルルに背を向け、杖を掲げて巨大フリムちゃんを解除する。
杖を持ったことでシャルルの部下に攻撃されないか心配だったがそういうこともなく、杖を手放して後ろに浮かせてまたシャルルに向き合う。
「謝罪は受け取りました!無能な部下がいると大変ですね!皆さん武器を降ろして下さい!!シャルル陛下!!不幸な行き違いも起きてしまいましたがっ!予定通りに行軍してもよろしいでしょうか!」
「おぉ!そう言ってくれるか!では共に行こうぞ!!」
これは演技だ。「オベイロス王が正式に謝罪して、事態を収拾した」「危うく国が傾くほどの戦争が起きそうだった」「オベイロス王シャルルとリヴァイアス侯爵フリムの仲が良い」と誰でもわかるようにする。
大声で周りにも会話が伝わるように話したのだが……。
「ヒャッ!?」
いつものように抱き上げてきたシャルル。近い近い近い近い!!?
そう言えばシャルルはイケメンだ。しかもいつもよりもなんかいい香りもする。……私は移動で数日かけてここまで来たが臭くないかな?毎日お風呂に入っているし、事前に準備はしたがこんなにいい香りがするわけじゃない。
離してほしくて思わず力を入れてしまったがそのまま押すと落ちるし、不仲に見えるだろうから諦める。
「ん?どうかしたか?」
「な、何でも無い……です。…………王宮まで進みますよ!!」
この男は!イケメンの顔が近いぞ!!?
まてまて、このイケメンは私の保護者を名乗り出るお兄さんみたいなものだ!端正で優しそうなお兄さん。きっと高校とかではモテていたはずだ。きっと女子生徒に向かって手を降ればキャーキャーと声が上がるような、柔和で優しそうなイケメン。なんだコレ……変な考えが浮かんでしまっている。
「シャルル陛下ではなく、シャルル と呼び捨てるかちゃんとシャルトル国王陛下と呼ぶものだ」
「ハいっ!」
吐息のかかるほどの距離、抱き上げられているのだからお互いの体温は感じられる。
シャルルと区切って囁かれるように言われて私の心臓が飛び跳ねるかと思った。
このイケメンめ!こんなおばちゃんを?!いや、今は若いか!??前世も若いつもりだったガ!!?
「しかし、本当に重くなったな」
「――――――――…………あ、はい」
デリカシーゼロの発言で落ち着くことが出来た。そうだ、このイケメンは結構残念なイケメンだった。
この演技をするためにシャルルと私は裏でちゃんと打ち合わせをしていた。
シャルルから届く手紙で私からの返信がないと言われる事が増えた。
空で何事もなければ2、3日の距離、単独では危険だから小隊を組んで毎日のように鳥人部隊によって手紙を出していた。しかも、商隊も陸路でピストン輸送で王都に荷物を送っていたし、ついでに手紙を出していた。
荷物付きで道路の整備もない。更には魔獣や賊も出る。この三重苦で1月かかって手紙が届くこともあった。きっと手紙の届く順番はぐちゃぐちゃだろう。
それでも王宮にはちゃんと手紙を送っていた。なのにシャルルからの手紙の内容に私からの手紙は届かないと言われるようになった。
私の手紙はリヴァイアス侯爵からの手紙であるし、その内容にはクーリディアスとの対応も書かれている。しかもだ。他国の情勢や食料の価格なんかもまとめているのだから重要な機密文書と言っても良いはずだ。戦勝記念のパレードもするからと日程を知らせろと何度も手紙が来ていたがこちらからいくら送っても届かないのだから意味がない。
貴族院の生ゴミがいらないことをしているのはすぐにわかった。
貴族院は王宮で貴族の中でも生え抜きの貴族たちが政治を行っている。自分の権利を守り、貴族としてのプライドで出来ているような人も多いそうだ。
私が伯爵就任したときには「成り上がり」と裏で蔑み、私が侯爵となって一国を併合、魔法力が認められてからも舐めているのか「うちの子と結婚させてやっても良い」「戦利品を献上しろ」「奴隷を引き渡せ」「白紙の委任状に署名しなさい」なんて……きっと面の皮が鋼鉄製、燃えないゴミかも知れない。ゴミ収集センターどこ?
あまりにも酷い貴族たち、彼らも自分の家を守って利益を得たいのはわかるがこれはやりすぎだ。クーリディアス併合後の危うい状況なのにそれがトップに伝わって無いなんてありえない。
クラルス先生とエール先生は怖い顔をしていた。ただ、私にはどうしようもないので二人に対応を任せたところ……予定通りに戦勝パレードをすることになった。
エール先生が空を飛んで、クラルス先生が王宮の屋根裏からシャルルのもとに侵入。現状をシャルルと相談した上で今回の行軍に至った。
正門の兵たちも王都周辺の貴族領地からうちの軍勢が通ったという報告も本来なら各領主からあっただろうが……口止めをし、知らせが届く前に速度重視で行軍した。
リヴァイアスから王都への商売はそこに至るまでの領地にも少しずつ利益をもたらせるように指示していたし、基本的にリヴァイアスに対して好意的だ。軍事力もある大貴族だしね。
それに今回の貴族院のやり口は国を揺るがしかねない。事情を話して協力してもらったり……どうしようもない貴族院と繋がりのある貴族領地にはうちの軍に待機してもらってちょっぴり脅している。何かしらの連絡手段はあるのかもしれないが報告されて待ち受けられたり襲撃される可能性は極力減らしたかった。
ローガ将軍にも声をかけておいた。オベイロス王都に現れたリヴァイアス軍がオベイロス正規軍と正面衝突にならないように割って入ってくれると約束していた。政治嫌いのローガ将軍でも国を左右する情報を貴族院が邪魔してシャルルに届かないと伝えると快く了承してくれた。
これで王様に謝らせた貴族院の貴族は取り締まられることだろう。
ちょうどクーリディアスでドラゴンの生き残りも討伐して派手に見える。うちの兵も強く見えるだろう。超魔力水で怪我も治って、ちゃんと食べさせた兵たちは見るからに強そうだ。
シャルルに抱かれたまま、うちの軍勢がメインでやってきたローガ将軍の軍でパレードを行う。
アモスとドゥッガは胸を張って堂々と騎獣に乗って進んでいる。
統治的には領地に残しておきたかったのだが今後の「うちの将軍」と「筆頭家臣」を見せる必要があったし、こういうパレードで兵を率いる立場というのはとても名誉なことらしいし連れてきた。
全員が豪華な装備で良く訓練されていて、とても力強く見える。ジュリオンも私のすぐ近くにいてもらっているが身長もあってよく目立っている。
……オベイロス憎しが当たり前だったうちの兵がなにかやらかさないか心配だったがシャルルの腕には私がいる。ジュリオンとアモスが厳しく言い聞かせたそうだしおそらく大丈夫だろう。……きっと。
さーて、むちゃくちゃを言ってきた腐敗貴族達は私が突然来てどう思ってるかな!フリムちゃんワクワクしてきたな!!
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