第192話 併合記念……。
「戦争は終わり、リヴァイアスはクーリディアスを併合した!故にこの併合を記念し!祝いの場を設けさせてもらいました!!」
クーリディアスは正式にリヴァイアス領になったわけで戦勝パーティで肉や酒を振る舞う。
気持ちの区切りのためにも必要だろう。
「他国か何者かの計略によってクーリディアスの王は操られ、今回の戦争に発展しました!本来なら力を持ってクーリディアスに侵攻するべきだったかもしれませんが!イルーテガ王はその賢明なる判断で私に国を譲ると進言し!私はそれを承諾しました!!今後のリヴァイアスとクーリディアスの平和を願って祝いとしましょう!!」
他の家臣たちの長ったらしい話の後に私が軽く締めくくる。
敵がまだいることを示唆して団結を促せればいいと思う。仰々しい台本も作ってきたのだが先に家臣たちが演説した内容と被る部分が多かったので大きく削る。
天使や悪魔と言わなかったのは精霊と同格の彼らが敵だった場合には恐怖から混乱を招く可能性もあった。
民が叫んで喜んでいるが手を上げて落ち着けと促す。「君たちが静かになるまで何分かかった」とか言いたいけどやめておこう。私がちょっと締めくくったように話したのが悪かった。
「振る舞い酒に料理もあります!しかし!先に不幸な争いで亡くなってしまった兵に黙祷を捧げましょう!静かに!目を閉じ!心の内で彼らの冥福を祈るのです!!」
規模は抑えられたかも知れないが戦死者も出てしまったし黙祷をしようと思った。オベイロスでは「精霊の導きに」という言葉をつけるのが流儀だがまだ竜を信仰しているクーリディアスの貴族もいるし言い方を変えた。
目を閉じて静かにしても誰も私に向かってくることもなかった。兵は伏せておいたが……この祝いの席で、もっと過激に攻め滅ぼすべきという考えの人とかが怒り狂って襲ってくるようなことがなくてよかった。
しばらくして合図をしてもらって黙祷を終わり、宴が始まった。
「リヴァイアスの勝利にー!」
「オベイロス万歳!」
「ふにゃぁん」
「クーリディアス併合おめでとー!!」
「飲め飲め!振る舞いだぞ!」
「かったにゃー!」
今まで「いつ襲われるかわからない」という不安もあったしやはりストレスはどこかにあっただろう。領都はどこでもこの祝いでどこでも楽しそうな声がしている。
ただ『戦勝記念』ではなく『併合記念』だ。クーリディアスの中には納得してない人もいるだろう。この催し物が何年経っても嫌な思い出にならないように、未来でお互いにとって喜ばしい日になるように、仲間意識が出来るように『併合記念』とした。
そんな私は短いスピーチの後に浜辺で料理を作っている。
テロスが新たな領主である私の魅力を海の種族の人たちに宣伝するのに、ここに来た時に揚げ物を振る舞った事を話したようである。……何やら褒美として期待された。
揚がっていく大量の唐揚げ。軽く下味をつけた鳥を使ってカラッと揚げてどんどん出していく。油に対して薪の火力ってちょっと怖い。
ザクザクの衣に好きなソースやスパイスをかけて食べるスタイルにした。好みの味付けや香辛料もあるしね。
「マヨネーズが上手い!」
「いいや!こっちの方が美味いだろ!?」
「これ、王都の特別な料理だってな!?」
「食べ物で喧嘩するな!祝いの場だぞ!!?」
「「だってこいつが!」」
「いや、儂はこっちのほうが上手いと思うんじゃが?お主らの味覚がおかしいじゃろ」
「ふざけゴルルルァ」
「クカッ!カカカカ!!」
「喧嘩だ!やれやれ!!」
「……ホーリー行ってきなさい」
「ガウッ!」
唐揚げは扱い方が難しいし、事故が怖いし指導がてら私も作っていたのだけど喧嘩が始まった。トンカツに近い揚げ方も一緒に作って一緒に教えておく。
やっぱり料理は楽しい。領主がこういうことをするのもどうかとも思うし、エール先生には止められたが「エール先生にも食べてもらいたいんです」と言えば許してもらえた。
この領地はスパイスも栽培していて豊富な種類がある。思い思いのスパイスで競い合っている気がする。来年からこの併合記念はスパイスを使った料理コンテストでもすることにしよう。
今のところスパイスに詳しくて鼻のよい狐人族のスパイスが有名である。種族による好みも把握しているのが強い。しかしクラルス先生も薬草に詳しいだけあって、香草薬草の類いの扱いに長けたカレー向けのスパイスを開発していた。身体には良さそう。
香辛料を栽培している人たちにもブームになっていてカレーに限らず様々な料理が開発されているのも面白い。前世にはなかった味もあってちょっと楽しみである。
ドゥッガも部下が遠慮しないようにという配慮なのか翻訳カレーと私の唐揚げをフードファイターのように食べている。トルニーも横で競うように食べているが、どこに入ってるんだ?
「美味いな!クーリディアスの者も食え!」
「これがオベイロスの料理だと……」
「そっち狙ってたんだぞ!?」
「しるか!」
「かれーとやらも良いな。これで別の種族とも話せるというのは本当なのか?」
「あん?てめー、うちのおひーにちょっかいかけてたわかぞーやないけ?ちょっとむこういこか?」
「争わずに黙って食え!争うなら牢にいれるぞ!!」
「「…………」」
翻訳カレーを食べれば食べた人は一定期間だが共通語を話せるし、共通語が理解できるようになる。近隣の貴族もいるためか若干争いが起きそうだが……まぁ大丈夫だろう。
招待した人にはクーリディアス周辺の亜人の族長もいる。料理を食べてもらったのだが好評のようで何より。
もはやこの領地でカレーはずっと作ってる気がする。スパイスの生産者も増産してくれているし……この領地の名物と胸を張っても良いのかも知れない。
若干言葉がわかったことで争いになりそうな気配もあるけど今日のような日に喧嘩が発生すると後々禍根となる可能性もあるから多くの兵を配置している。族長たちにも事前に言い聞かせている。
戦争の規模に対しては少ないはずだが……死傷者も出てしまっているしね。
族長達はお行儀良くしろと言い聞かせていたはずなのだが酒が入ってしまえば理性が効かなくなるものも出るようででどこかに連れて行かれるものも見えてきた。
併合に当たって隷属兵の中には泣いて帰国を喜ぶものもいたが元々他国から奴隷となって攻め込んできた人はここに残りたいと言ってきている。
クーリディアスの国の人に降伏や併合が認められるのかと心配ではあったのだが今のところ心配はなさそうである。
守護竜王は死んでしまって国防に影響しているし、竜王と交渉できるのが王家の特権だったそうだがその竜がもういない。更にリヴァイアスが周辺の海域を支配したタイミングで配下だった竜も今では統率を失って自由となった。国から飛んでいなくなっただけなら良いのだが……一部のドラゴンはクーリディアスを荒らした。一応こちらから軍をクーリディアスに向かわせて討伐は完了したが被害はそれなりに発生した。
ドラゴンが暴れたことでドラゴンへの崇拝が薄まり、助けたことで私へのヘイトがなくなったようである。国民もうろたえながらも歓迎してくれている。
崇拝の対象でもあった守護竜王を倒した私とクーリディアス地方を守護するリヴァイアスが新たに崇拝されているのだとか…………何故だろうか、マッチポンプな感じは否めないが想定できなかったことだし許してほしい。
隷属兵も隷属状態のままではあるがクーリディアスに戻せたし、食料事情もかなり改善された。クーリディアスで反乱などが起きなかったのもこれも要因の一つかもしれない。隷属兵には奴隷としてやってきたものもいてまとめられているがクーリディアスで生まれ育った兵士も多かった。国元に戻したことで「家族を殺された恨み」というのも殆どない。
なによりもオベイロス王による隷属状態は解除できずにいることから、もしも反乱を起こそうとすれば国に戻した彼らが一斉に敵に回るのだ。海洋国家と言われるだけあって逃げ場のない彼らは従う他無いのかもしれない。しかも隷属兵の中にはオベイロス王都に連れて行かれたものもいるから実質人質である。一部の貴族とは衝突があったがそれは仕方ないだろう。
大精霊リヴァイアスの謎の縄張りによって海賊たちはボロボロの状態でうちの兵士のもとに幽霊船のようにやってきて戦果となっている。クーリディアスの人たちは「新たな統治者に自分たちが護られている」というもある認識もできつつある。
しかし王と王子の身柄はリヴァイアスに預かったままにした。今の体制はクーリディアス王だったイルーテガが家臣を説得したからであるし、彼が殺されればその統治もゆるぎかねないのでリヴァイアスで軟禁しつつも働いてもらっている。
クーリディアスを完全に信頼したわけではないのでこちらから執政官を派遣する必要があったのだが……やっと来てくれた労働力……じゃない、筆頭家臣のドゥッガにクーリディアスとこちらを行き来して働いてもらっている。そして私の仕事量は激増した…………ふぐぅ。
ドゥッガは海が気に入ったらしく楽しそうである。やはりというか噂を聞きつけた他国や他領からの海賊行為が増えた。……しかし、ドゥッガ親分はリヴァイアスによって痛めつけられた海賊に対して逆に海賊行為を行い、更に彼らを部下にして勢力拡大しているようである。なんかいつの間にか部下に海賊が増えてるのは複雑な気分である。
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