第65話 学校案内。


「諸君、不幸にも君たちの指導役になったアーダルムだ。魔導工学と民族魔法を主に研究している。沼の精霊と契約していて即時展開できる防御魔法が得意で………はぁ………だから研究よりもこちらにまわされた。まぁよろしくな」



じっとこちらを見てくる試験担当だった先生。


やりすぎたのは認めるけど生徒を特別扱いは良くないんじゃないかな?他の生徒の視線も集まっている気がする。



「わかってるかね?フレーミスくん」


「はい、すいません」



一応この学校は初等学校では貴族も平民も関係なく学ぶ。


ちなみに普通は試験の内容を事前に知っている。あまりにも酷い学ぶ気もない子には事前に家庭教師から「絵を描いておくと良いでしょう」なんて言われ……そして怒られて一から学び直すのだとか……。



国語・算数・礼儀作法・魔法・法律・歴史・道徳などを学校で学び、基礎ができれば高等学校へ進学する。更にそこから国に仕えたり研究機関に就職もできる。身分社会のこの国では平民は普通の学校でも卒業すれば箔がつく。高等学校まで卒業できれば就職に困ることはない。


平民は学力でのみ通うわけではない。貴族の従者や村長の息子に商人。それに魔法が得意な人にこの国では珍しい魔法を使える人……平民の中でも特殊技能を持つ人や少し裕福な人などなど様々だ。



今日は見学だ。指導役のアーダルム先生引率の元、講義中の部屋に入って後ろから見学させてもらっている。


個人の習熟度によって算数Ⅰ算数Ⅱ算数Ⅲとレベルに合わせた講義がある。そこで試験に合格して単位をとっていく。試験は月に一度しかなく、担当教諭や講義の時間によってズレたりもするから試験を逃してしまうこともあるらしい。


スマホで講義や試験の範囲や持ち込みを友達と共有出来ていた大学生活が懐かしい。写真とそれを共有できる掲示板にPCで確認できるシステムも切実に欲しい!!!コピー機も!!!!………………あ、コピー機はあったか。



「この建物が食堂。学生は無料で飲食可能だ。別の料理を注文して食べることも出来るがそっちは有料。従者は別の建物で食べられるからここでは控えさせるように」



学校内の施設を紹介していってくれる講師。移動中にも説明してくれるが移動しながらということもあって私達は必死でついていく。


生徒の中で一番小さい私の歩幅ではかなりきつい。



「転ばないようにお手を貸しましょうか、お嬢様?ふふっ何だか照れくさいですね」


「よ、よろしくお願いします」



転びそうになる私をミリーはなにか演技っぽく私の手を引いてくれた。


やはりミリーは優しい。身長差も年齢の差もあるから「友人」や「騎士と令嬢」ではなく「親子」のような手の引かれ方だが本人は嬉しそうだし私も助かる。



やはり国内最大の学校だけあって広く、そして生徒の数も多い。意外と耳が長かったり尻尾が生えてたりといろんな人種の方も見受けられる。


教員や高位貴族っぽい服の人には道を譲っていたりというシーンが見て取れるが、平民っぽい人が道を横切っても何もしていない。


見るだけで色々と察することも出来るが……悪くないな。生徒たちにはそれぞれ試験や悩みもあるかもしれないが、それでもここには活気があって………なによりも警戒心がない。完全に警戒心がまったくないわけじゃないんだろうけど、それでも平民と貴族の間の距離が近いような――――平和なんだなと思える。



「こちらが図書館。本はその場で読むこと。絶対に本を粗末に扱うな。懲罰の対象だからな」



入ってはいけない場所、上級精霊の像、鍛冶屋、靴屋、インク屋、商店街、初代学園長の像、研究棟、高等学校の場所など。色々案内してくれるが―――なんでもあるなこの学校。


年齢も国籍も人種も身分もバラバラ。それに学生らしき年頃の人間も警備に当たっている。


私も物珍しくて色々見てしまっているが、逆に彼らから見て私の杖がめちゃくちゃ目立っている気がしないでもない。しかし、この杖はどうしようもないので見逃して欲しい。



「ここが精霊教の神殿だ。学内には個別の建物もあるがここが一番大きいからな。敬意を持って祈るように」


「おぉ……」



つい声が漏れてしまった。


荘厳な雰囲気に圧倒されてしまった。



「お先に祈ってきますわ」


「僕も」



実にカラフルな神殿、荘厳な雰囲気に祈る人々、建物も大きい。


火水風土、赤青緑茶の四色を基本に、「四属性」と言われるように属性の代表格と言われるだけあって大きな祭壇が設置されている。


他にも幾つかの小さな祈る場所はあるが希少な属性の人のための祭壇だろうか?光っぽいのは少し大きいな。


それにしても学園内なのに宗教施設があるというのはやはり珍しく感じてしまう。海外では病院や公的機関にも祈る部屋があったりする場合もある。日本にも宗教色の強い学校であれば祈ることもあるだろうけど現代日本で生きていた自分にはそういう機会もなくて、どこか不思議な気分だ。



「テルニジアさん?でしたっけ。彼女はとても熱心ですね」



出会ったままのグループでそのまま移動している。リーザリーさんとテルニジアさんはその髪の色と同じ神殿区画に祈りに行った。


リーザリーさんの茶色い髪で茶色い土の神殿にテルニジアさんの赤い髪で赤い神殿に神殿のカラーに溶け込むように祈っている。


マッチョなダーマとミキキシカ……いやミシシキカ?さんもお金を入れる部分にうやうやしく寄付をしてから祈っている。



「テルニジア?あ、ああ、自分は挨拶をまだしていませんので……し、しかし、ちょっと違うような?テルギニアさん?ではなかったでしょうか?す、すいません、すいません!平民がでしゃばってしまって!」



私に話しかけられてリコライくんは可哀想なぐらい焦っている。悪いことをしてしまった。



「私は何も怒ってませんよー、落ち着いてくださーい。深呼吸深呼吸」


「??」


「おおきくいきをすってー……はいてー…するんですー」


「「「すぅー、はぁー」」」



祈る場所がなかったのかミリーも一緒にいて、何故か一緒に深呼吸している。


私は神殿の礼儀は知らないので参加しない。この杖が反応しても怖いし遠巻きに見るだけだ。


杖が目立つのか、それとも伯爵というものは目立つのか……それとも寄付を狙っているのかチラチラと神殿の人々がこちらを見ている気がしないでもないが私は近づかない。



「僕はテルギシア、この髪の通り火属性だから祈りは当然……伯爵は祈らない?」


「間違えてしまってすいません。私はこの杖がついて来ていますし、近づくと何が起こるかわからないので今回はやめておきます」


「………そう?」



熱心に祈るものもいれば祈らないものもいたり、ダーマのように各属性を回る人もいる。


この国ではそこそこメジャーな宗教?かもしれない。これまで関わってこなかったから知らなかったけど。



「全員いるな。後は寮ごとに寮長や先達がいる。寮や学園内での規則を教えてくれるはずだから寮に向かう。まずは上級貴族寮から」



巨大キャンパスで生徒もたくさんいる。その分、寮は幾つかに分けられている。それぞれにいる寮長や管理人の指示に従わないといけないそうだ。


私達の中で平民なのは4人、どう見ても武闘派のダーマ、弓を使うらしいミキシシカ、このグループでは年長のミリー。それと申し訳ないぐらいに緊張させてしまっている私と同じぐらい小さいリコライくんだ。



上級貴族寮に下級貴族の寮に従士や商人のいる上級平民寮、そして平民寮。


なんだろう?区別のはずなんだろうけど、どう考えても差別が発生しないかと勘ぐってしまう。決めつけは良くないだろうけど、子供社会で身分階級があれば……あったんだろうなぁ、いじめ。


だってそもそも平等に平和であれば分ける必要はなかったはずだ。



「「「「ルカリム伯爵、お会いできる日をお待ちしておりました」」」」


「ふぐっ……コホン、これからよろしくお願いしますね」



豪華な建物、きらびやかな照明……絨毯がふかふかしている。


寮長らしきおばさんを筆頭に生徒を含めているであろう貴族たちやここの執事やメイドたちにお出迎えされた。きっちりした角度のお辞儀きっと貴族で偉い人達がこんなにも……。これは私にダメージが来る。小市民な部分のある私にこの出迎えはキツイ………!


お出迎えにリーザリーさんやテルギシアさんが前に出てくれればと思うが明らかに名指しであった。



頭を下げられて胃が痛くなる気もするが……まぁそれはそれとしてこれからの学校生活が楽しみである。

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