第3話 倫理観が行方不明
最愛の妹との食事を終え、薬草やらキノコやら、医療、錬金、料理に使えるものの採集の向かう。
キッ、キッ、キノコ キッ、キッ、キノコ
ノコノコノコノコ 歩いたりしない
雑草という草はない。
木の実、花粉、虫、骨、フン、鉱石
樹木生い茂る森林は触媒の宝庫。
金になるもの。
金にならないものだか、多くあっても困らないもの。
全く役に立たないもの。
そこにあるだけで害になるもの。
いろんなものがたくさん存在する。
錬金術師、魔術師から見ると、この森林は喉から手が出るほどの場所だ。
毒草でも役に立つし、役に立たないと思われているものでも、触媒の組み合わせでは存在が開花することもある。ほんとうに開花することもある。突然、骨から毒花が咲いたときは驚いた。おそらく、骨に付着した種子が薬品との反応で成長が促進されたのだろう。
人生は何事をもなさぬにはあまりに長いが何事かをなすにはあまりに短い
不老や不死は永遠の課題であるし、どんな材料が必要となるのか、それ単体で得られるのか、成分は何か。
知りたいことは尽きないが、正直、今は興味がない。妹に何かない限りは、この生は神のみぞ知る。
今は研究を行なっていないし(気分によっては再開するが)、日々自堕落に過ごすことに慣れてしまった。妹と健康に平和に何事もなく過ごすことができれば問題ない。
ふぅ、今日も程よく採集ができた。
ひとりで薄暗く、湿った空気の森林にいると謎の安心感に包まれる。
空気中の水の動きで隠れている生き物よりも先に気づくこともでき、不安要素が取り除かれるからかもしれない。
まあ、風の動きでもわかるし、体温の熱の動き、地面の振動、空気中の魔力の流れでもわかるけど。
目が向かなくても、死角はない。
魔力を持つ魔術師の恐ろしいところよな。
知り合いの剣士はなぜか魔力がないのに気づきやがる。そいつは「感覚?」などとほざきやがったが。研究内容にいいかもな。そいつの脳のニューロンの電気の動きでも調べるか。
死にはしないし、なにより大事な研究材料を壊すほど馬鹿じゃない。
まぢで気になってきた。
……そろそろ、組合に戻って素材を換金してもらうか。
土魔術と空間魔術を使い、簡素な筒を生成。風魔術で周りの空気を筒の中に圧縮。そこに持ってきた燃料を混ぜ、火魔術で燃焼。それを風魔術で後方に勢いよく放出。
空気を圧縮し階段、道を作って空間を動くこともできるが、俺自身はあまり体力がないのでしない。
こっちの方が速く移動できるので楽だ。魔力消費量と燃料は多いが、どちらも尽きない量があるからどれだけ使っても構わない。
これで飛ぶと速い分、自身に掛かる圧力が大きく、風で受け流す必要があるがそれもどうでも良いことだ。
意識を魔術の維持と景色を眺めることに割いていると、約3キロほど先で剣戟の音がした。
道はあるが簡易的なものだし、整備もされてはいない。まず、外の国とを繋ぐだけの道であり、他国に行くには面倒臭い手続きが必要となる。森林の中を無理矢理開拓しただけの舗装もされていない。馬車での移動も揺れて、不便である。その道を使う人がまずいない。
では、その道を移動手段に使うのはどんなやつか。
亡命者くらいか。
そして、それが襲われているとなると……
だいぶ面倒くさい案件でしかないな。
向かいたくはないが、うちのお嬢様の命令だ。
『危険な目に遭っている人は助ける。助けれる力を持っているなら助ける。助ける力がなくても頑張って助ける』
はぁ……。
憂鬱だ。
向かった先では、豪華な一台の馬車を囲む20名ほどの見窄らしい、しかしよく整備がされているような武器をもつ賊のようだ。
馬車を守る騎士らしきものがあるが、それも3人。御者台で御者らしき人が倒れている。馬も1頭倒れており、もう1頭いる馬は逃げたのだろう。
これでは移動することもできない。
馬車側が全滅するのも時間の問題だろう。
おっ、賊の呼び声で馬車から豪華な衣装を着たお爺さんが降りてきた。
あの爺さん、馬鹿か?
賊が弓矢を持って狙ってこない理由がないだろ?
ほら、森林の中から狙ってんじゃん。
時間がないから、落ちながら黒いローブと鬼火が光る骸骨マスクをつける。
爺さんを狙い飛んでいく矢を寸前で空間に固定し止める。勢いよく落ちたため、着地で土が飛ぶ。風魔術で勢いは殺したつもりだったが。
「ご老人、助けはいるか?」
「むっ……ありがとう。助かる」
それでは、人助けではなく、悪人の断罪を始めよう。
「さあ」
「お前の罪を教えてやる」
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