第4話

キンッ――――


金属がコンクリートの床にぶつかる小気味の良い音が、大きな部屋の中に響く。

部屋の奥にいた『装甲蟻』が触角をピクリと動かし、その音の鳴った方へと頭部を向けた。

『装甲蟻』は、その目で小さな筒状の物体……ショックグレネードが床にぶつかり、跳ね上がった様子を確認できただろう。

瞬間耳をつんざく爆音と、周囲を白く塗りつぶすほどの光が部屋の中に満ちた。


『行け!行け!行けッ!!』

『オラァァァ!!』


間髪入れず、ベリが機体のブースターを吹かし、素早く『装甲蟻』に接敵する。

ベリは『装甲蟻』が動きを取り戻すよりも先に、大上段に構えたメイスを頭部に叩きつけた。

メイスが『装甲蟻』の外骨格を砕き、頭蓋の中の脳を叩き引き裂く水音が鳴り響く。

その脇をロッグの黒い機体が通り過ぎる。

背より剣を引き抜くと、刀身が伸びる。

普段折りたたまれているそれは、一瞬で3mの巨大な剣へ変形する。


『チェストォ!』


ロッグの機体が身体を回転させ、遠心力を乗せた刀身をもう1体の『装甲蟻』に叩きつける。

強固な『装甲蟻』の外骨格は、しかし剣の重さと速度の乗った一撃に耐え切れず、胴体を両断された。

真っ二つになった『装甲蟻』は、青白い体液や内臓を周囲にぶちまけていく。

これで、殺した『装甲蟻』は2体……残りは1体だ。


ガギギギギギギッ・・・・・・


ショックグレネードの奇襲から立ち直った、『装甲蟻』の最後の1体が動き出す。

金属が擦れるような音を立て、『装甲蟻』は胴体から生えた巨大な六本の脚で一気に加速し、剣を振りぬいたロッグの機体へと突き進んだ。

顎を開いた『装甲蟻』がロッグの機体に食いつこうと迫りくる。

ロッグが剣を構えなおすよりも早い。

ベリがフォローに入る時間もない。


『でゃぁぁぁあッ!』


だから、この場を何とかするのはネクの役目だ。

引き抜いた剣を構え、そのまま体当たりをするように『装甲蟻』へ突き立てる。

ガキンッ!と耳障りな音を立てる……切先は『装甲蟻』に突き刺さらずに逸れ、目論見の外れたネクの機体は体勢を崩して、踏鞴を踏んだ。

ネクが息を呑む、咄嗟に身じろぎするより早く、『装甲蟻』はネクの機体に頭部を向けた。


『もらった!』


だが『装甲蟻』の顎がネクの機体を噛み砕くより早く、体勢を立て直したロッグの機体が割って入る。

彼は剣を手放し、そのまま機体の左の拳で『装甲蟻』の頭部を殴りつける。

ロッグの機体の左腕からガゴンッ!と爆発音が鳴り、薬莢が飛ぶ。

左腕に備え付けられた、杭打機パイルバンカーから放たれた金属杭が『装甲蟻』の頭部を貫いたのだ。

頭部を破壊された『装甲蟻』の身体が痙攣して滅茶苦茶な動きをする。

それにネクの機体は突き飛ばされる。

ネクが立ち上がり様子を伺う頃には、『装甲蟻』の動きは弱弱しいものとなっていて、すぐに動かなくなった。

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