ザブーン城攻略 Ⅱ

 翌日の夕方には首都から出兵した500人の後方数キロにまで到達していた。

そこからは距離を詰めず速度を合わせて付いて行くのだった。


「やっぱり合流はしないんだ」


「迷ったけどね」


「私はアートの考えに付いて行くから大丈夫よ」


 きっとザブーンでの反乱は一部だと思う。

正規兵が雪崩込めば多くの参加してない人達まで命を落とす事に成ってしまうだろう。

 

 首都を出て3日目を迎えた。


「このペースだと明後日にはザブーンの城を包囲するだろうな」


「アートの考えてる事は想像出来るけど、軍隊の前に出ないと駄目じゃないの?」


「それには考えがあるんだ」


 昨日はペンダントを使って飛ぼうとしたが反応が無かったけど、大分距離も縮まったし今日なら行けるかも知れない。

アートは胸のペンダントを握りしめリリスが攫われた時の場所を思い出した。



 突然の事過ぎて馬もリリスも息をするのも忘れたかの様に微動だにしなくなった。


「よし!」


「何が良しなの? ここは何処よ」


「覚えてないのかい? 以前リリスがザブーンへ連れて行かれそうに成った所だよ」


「なるほど今日中には着くわね・・・しかし凄い距離を飛んで来たものね」


「気合さ気合」


 今はまだ本当の事を隠しておこう。


 本当ならザブーン城の近くに飛びたかったが行った事無いからな・・・

でもこの距離なら数時間も有れば辿り着く事出来るだろう。


「アートは忍び込むつもりなのね」


「うん、その時にお願いがあるんだ」


「心得てるわ、透明にすれば良いのね」


 リリスはやっぱり頭が切れるな。



 城が見える高台に着いた所で2人は馬を降りた。


「ここからは歩いて行こう」


「そうね」


今のザブーンがどうなっているか分からない以上馬で入るのは危険だろう。


「ザブーンは前回の私誘拐と、今回の殿下暗殺と一体何が起こってるの?」


「ザブーンはゾネス皇国が出来る前からの先住者が多い街なんだ・・・」


俺は簡単だがザブーンに付いての説明をした。


「平和そうな国も色々と抱えてるのね」


「それを壊そうと考えたのが陛下、俺の母上なんだ」


「とても勇気のある決断よね」


「基盤は作ってくれるみたいだけど、後は俺への丸投げっぽいのがな」


「解決方法は考えてるの?」


「できる限り穏便に済ませたいんだけどね」


「危険な感じがするけど大丈夫なの?」


「どうかな?」



 城の近くまで来るとリリスの魔法で姿を隠した。


 街の状況は思ったほど混乱無く、それでいて避難する為の準備は進んでいる様だ。


「城門は閉まってるな」


「衛兵もいるわね」


「失礼するよ」

 

俺はリリスの腰に手を回し抱き抱えると一番上のテラスへと転移した。


「リリス中を見て・・・リリス?」


「アートったらいきなり姫様抱っこなんて・・・」


「ごめんごめん、思わず反射的にね」


「それで中がどうしました?」


2人で窓から中を除くと領主に宰相らしき者と数人の衛兵、それにケイトが跪いていた。

全ての声が聞こえて来る訳では無いがケイトは戦を止めようと説得してる様であった。


「アートどうするの?」


ケイトの言葉は届かず衛兵に連れ出され様としてる。

そろそろ限界か・・・考えてる暇は無い。


「こんな場所から失礼するよ」


「何者だ!」


衛兵達がアートへ槍を向ける。


「客人だ良い、お初ですアート殿下」


「初めまして話し合いがしたくてやって来ました、ケイトも久しぶりだね」


「アート・・・」


「皆部屋から出ていくのじゃ」


「しかし・・・」


「殿下と話をするだけだから大丈夫じゃ」


衛兵達とケイトが部屋を出て行くとリリスも窓の外から入って来た。


「リリス嬢も一緒でしたか」


「時間も無い事だし率直に聞くけど、何故俺を狙った?」


「あの女に・・・いや陛下にも家族を失う苦しさを思い知らせようと思いましてね」


「事情が分からないんだが?」


 先代はリリス誘拐の責任を取り自ら娘に後を取らせ、自分は首都へ赴き陛下に謝罪をしたと言う。

その言葉は聞き入れられず極刑にて命を奪われたそうだ。


「ちょっと待て、その話は可怪しいぞ?」


「どこがですか?」


「ここの先代は許されたにも関わらず、自ら犯した事への償いとして教会に入ってるはず」


「それは本当ですか?」


「嘘は言わないよ、誰から聞いた話なんだ?」


「ケイトです」


 ケイトはリリス誘拐にも関わっていたよな、しかし先程は戦を止めようとしていた。

何を考えているんだ?


「因みにリリス誘拐の案は先代から?」


「提案したのはケイトです・・・ハッ」


 本人に聞くしか無いか。


「衛兵、衛兵」


「お呼びでしょうか」


「先遣隊まで行き白旗を掲げさせよ、後ケイトを直ぐ連れて来るのじゃ」


「殿下申し訳ありませんでした、とんでもない間違いを犯す所でした」


「俺こそ戦争を止めてくれて感謝するよ」


それから朝まで探したが結局ケイトの姿を見つける事は出来なかった。



その日の昼にはミーナが乗り込んで来た。


「遅かったな」


「殿下が何故ここに?」 


状況の飲み込めないミーナは複雑そうな顔をしてるが、それが当然の反応だろう。


 俺は事情を全て話しケイトが他国から送られた間者である可能性が強いと伝えた。

更に陛下への恩赦を俺から頼んだのだった。

このままではミーナが辛すぎるか、俺は意を決して話す事にした。


「ミーナ話が有るんだ」


アートはミーナと2人だけに成るとエマを祭殿に連れて行った事、創造の魔女と言う人物に預けた事を話した。


「この事はまだ秘密にしときたいんだ、母上にも話さないで貰えるかな」


「承知しました、創造の魔女ですか・・・」


ミーナの表情が急に柔らかく成った。


「知り合い?」


「私どもの友人です、天才魔道士がエマに才能が有るとは嬉しい限りですね」


「どんな人物なの?」


「それはお会いするまで楽しみにしとくのが宜しいと思いますよ、私もエマは修行に行ってると思う事にします」


話を終えリリスの所へ戻ろうとした時


「殿下、本当にありがとうございました」


振り返ると彼女は素敵な笑顔をしながらも涙を流していた。



 翌朝、残りの処理をミーナが引き受けてくれたので俺とリリスは帰れる事と成った。


「帰りは楽だな」


「そうね・・・」


「どうした? 調子でも悪い?」


「別にー」


帰りも2人きりの生活が出来ないと知って機嫌の悪いリリスであった。


「行くか」


アートはペンダントを握り馬上から最後の野営地を想像した。

成功すると次はリリスがと交互に転移して行く。


「予想より早かったね」


「そうね・・・」


昼過ぎには首都近郊に付き、街中へ入って行った。


「リリスは疲れてるだろうからアカデミーに戻っててね」


「アートは?」


「馬を返したら陛下に謁見してくるよ」


「頑張って怒られてね」


 流石に一緒に付いて来るとは言わないんだな・・・

やっぱ怒られるんだろうな、最近自由に振る舞い過ぎてる自覚あるもんな

はぁ・・・行きたく無いな


馬を返し、そんな事を考えてたら城門に着いてしまったのであった。




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