実力テスト Ⅲ

 用心しながら路地裏を覗き込む5人の少女達は誰も居ないのに気付き驚きを隠せないでいた。

そんな中、光魔法の使えるリリスだけは何が起きたのか予想出来たので肩を竦め諦める決意をしたのだった。


「気配が無いし、飽きちゃったから帰るわ」


「リリスが帰るなら私も帰ろうかな」


リリスにエマが同意すると残りの3人も諦めた様で、誰からともなく寮へ向かい歩き始めたのだった。


「気付かれてたのかな?」


「走って逃げたのかもね、帰って来たら追求されるの嫌だな」


エマとクリスの会話にティナが不安そうな顔を見せる。


「きっと大丈夫よ、こちらからは触れないでおきましょう」


リリスの提案に全員が頷くのであった。



 街を一回りしたアートとトレシアは手土産を買い、世話に成った大屋敷へと足を運んだ。


「殿下、良く来て下さいました」


「久しぶりです、キャロルと待ち合わせをしてるのですが待たせて貰って構わないですか?」


「どうぞどうぞ、トレシアちゃんも久しぶりですね」


「こんにちは」


トレシア丁寧に頭を下げる。


「少しお姉さんに成った感じね」


メイドの言葉に機嫌を良くしたトレシアは満面の笑顔でアートを見つめた。


「良かったね」


「はい」


玄関を上がると2人は広間の長ソファーへと案内された。


 メイドが紅茶の入ったカップを置いて行くとトレシアは目を擦りながら大きな欠伸をした。


「少し疲れたかな?」


黙って頷くトレシア。


「キャロルが戻るまで寝てて良いよ」


靴を脱ぎ頭をアートの膝の上に載せ、ソファーで横に成ると直ぐに眠りへと落ちて行った。


 寝顔はまだまだ幼い少女だな・・・親の事も心配だろうに泣き言を言わない強い娘だ。


アートは時が来たら必ずトレシアの力に成ろうと誓うのであった。



 1時間程でキャロルが戻って来るとアートがトレシアを抱え大屋敷を後にした。


「トレシアも眠ってしまったし帰ろうか」


「そうですね」


大屋敷の裏手に回り込むとトレシアをキャロルに預けた。


「ちょっと失礼するね」


そう言うとキャロルを抱きしめペンダントを握った。


 一瞬でアートの部屋の外に飛んで来るとトレシアをキャロルから受け取る。


「キャロルも疲れた?」


「え?」


「随分顔が真っ赤だから、疲れで体調が悪いのかなと思ったんだ」


「だ、大丈夫ですよ」


「それなら良いんだ」


「早く寮に入りましょう」


「そうだね」


キャロルはそそくさと寮の玄関へと向かい歩き始めるのであった。



 キャロルとトレシアが使用してる部屋へ入ると、トレシアをベッドに寝かせる。


「母上からお礼の言葉を授かって来ました」


「お礼?」


「鉄甲船の改修許可が出たそうです」


「それは良かった、これで更に安全な海の警備が出来るね」


「私からもお礼を申し上げます、本当にありがとうございます」


「照れるから良いよ」


恥ずかしさを隠そうと振り向き、部屋を後にしようとしたアートの腕をキャロルが優しく掴んだ。


「キャロル?」


「無理なのは分かってます、でも・・・」


「でも?」


「いいえ何でも無いです」


「俺も覚悟はしてるつもりだよ」


「本当ですか!?」


「ああ、無事にトレシアを故郷に帰して上げよう」


「そ・・・そうですね」


キャロルの顔から笑顔が薄れて行くのだった。


「今日はありがとう」


そう言って部屋を後にしたアート。


「何も分かって無いなぁ」


髪飾りを触りながら独り言を呟くのだった。



 夕食前当然の事ながらトレシアは5人の少女達に囲まれていた。 


「トレシア、今日は楽しかったかしら?」


ティナの言葉に笑顔で答える。


「何処に行ってきたの?」


「ええと・・・ルナ・・・違った内緒です」


「言えない様な所に行ったのかな?」


リリスが少し興奮気味に乗り出して来る。


「そうだ! ちょっと待ってて下さい」


トレシアは輪を抜け出すと自分の部屋へと走って行った。


「どうしたのかしら?」


「きっと直ぐに戻って来ますよ」


「キャロル、貴方にも聞きたい事が」


「すみません、今は夕食の支度がありますので失礼しますね」


キャロルが立ち去ると入れ替わりにトレシアが戻って来た。


「何処に行ってたの?」


「今日買ったお土産を取りに行ってたの」


「お土産?」


クリスが聞き返すとトレシアは大きく頷いた。


「キャロルに教えて貰って決めたんだ」


一つずつ安産の人形、お守りを渡して行く。


「これは?」


ティナが受け取ったお守りを見て首を傾げる。


「安産のお守りなんだって、姉様方には幸せに成って欲しいから買って来たんだけど・・・」


トレシアの言葉に顔を見合わせた5人は、肩を竦めながらため息を付くしか無かったのである。



 リリスが部屋で考え込んでいると扉が突然ノックされた。


「少し話があるんだけど居るかしら?」


「ティナ?」


扉を開けるとティナと一緒にミーヤが立っていた。


「話ってなに?」


「長くなるんだけど・・・」


「良いわよ」


リリスが2人を手招きで部屋に呼び込む。

3人がそれぞれの場所に落ち着くとティナが話を切り出す。


「実はトレシアの事なんだけどね」


「うん」


「彼女は今目まぐるしい速度で成長をしてると思うのよ」


「確かに感じるわね」


リリスは今まさに考えてた事がティナの口から出てくるとは思わず、動揺を隠すのに必死だったのである。


「人として大人に成りつつあるのよね、そこからサキュバスとしての魅力も増して来ると思う」


「それでも相手は9歳よ、ティナは大袈裟じゃない?」


余裕を見せるリリス。


「それなら良いのだけどね」


「ミーヤはどう思うの?」


「私は特に何も・・・リリスの呼吸が荒く成ったなと・・・」


「私の事は良いの! それに荒く成って無いし!」


ミーヤは基本独占欲や人に対しての競争本能と言う物が少ないので、トレシアが害を及ぼす存在に成らない限りはどちらが上でも良いと思っているのであった。


「それにしても2人は似てる所がありますよね」


「私がティナと?」


「似てる訳無いでしょ、断然私の方が優れてるしアートも好いているわ」


「それは無いでしょう、私は裸で寝た中なのよ」


「勝手に潜り込んだだけでしょ」


「譲らない頑固さとかそっくりですよ」


『そっくりじゃない!』


息が合う2人に感心するミーヤであった。



 一方キャロルの部屋では・・・


「キャロル、今日はありがとう」


「どういたしまして、楽しかった?」


「はい」


トレシアは1枚の紙を見ながらベッドに寝転んでいる。


「この良い子に成る方法のお陰でアートも凄く優しかったです」


「それは良かった、でも紙の事は秘密だからね」


「分かりました」


キャロルはトレシアの笑顔を見て複雑な気持ちに成った。

これが彼女の性格であって、目の前に努力してる者がいるとお節介を焼きたく成ってしまうのである。


「あーあ、自分の事も解決してないのになぁ」


複雑な表情でトレシアを見つめるのであった。



 翌日の放課後、発明研究室では新たな開発についての案を求めていた。


「こんな者が欲しいなどが有ったら聞かせて欲しいんだ」


 何も無ければ俺の作りたい物を提案するか・・・。




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