初めての冒険 Ⅹ

 翌日は晴天に恵まれ、クリスにとっては絶好の作戦日和と成った。


「アート、これからリリスと甲板に出るのだけど一緒に行かない?」


「行きたいけど調査の結果を纏めないと行けないからな」


「そう・・・」


「クリスがリリスの護衛をしてくれるなら、エマ手伝ってくれないかな?」


「私?」


「エマも甲板に行くの?」


「いいえ、暇だから!大丈夫だから!」


「それならお願いしよう、食事終えたら部屋に来て」


「うん、任せて」


エマは笑顔で自分の胸を叩いた。


「ふぇぇぇ」


「よしよし、まだチャンスは有るわよ」


その片隅で半べそのクリスを優しく宥めるクリスだった。



 爽やかな風の注ぎ込む部屋ではアートが記載した調査結果を、エマが正式な用紙に纏めていた。


「良くこれだけ調べたわね」


「まぁね」


「貴方は小さい頃から頭良かったものね」


「良い事を教えて上げる、国のトップと言うのは意外と暇なもので、物心ついた時からスパルタで様々な事を叩き込まれた」


「ふーん、大変なのね」


「それで今も壁にぶつかってる・・・」


 アートは今直面してる問題をエマに説明した。


「大型鉄甲船ねぇ」


 ルナレアの軍港を視察した際に、キャサリン大将から直々に頼まれた案件である

帆を張らない鉄甲船は風の魔石を後方へ作動し動力としても動かす事が出来ないでいるのだ。


「魔石を大きくすれば重量も増える・・・どうすれば良いのかな・・・」


「そう言う時は視点を変えてみるのが王道よ」


「視点か・・・視点、視点」


「魔石は風しか無いの?」


「いや火・水なども有るけど、水、水・・・それだ!」


アートは立ち上がりエマを指差した。


「ん?」


「水だよ水の魔石、これなら行ける」


「そうなのね、おめでとう」


「ありがとう、エマは頼りに成るな」


理解は出来てないが、役に立った事が分かると素直に喜ぶエマであった。


「ああ、もう昼過ぎてるね昼食をとって少し甲板で休もう」


「そうね、付き合うわ」


ご機嫌なアートはエマの手を引き、急いで食堂へと向かった。



 一方甲板では昼食を済ませた3人がバカンスを楽しんでいた。


「2人は水着で寒く無いのですか?」


「まだまだ大丈夫よ」


「私は限界かも・・・クシュン」


「リリス頑張って、必ず休憩で甲板に来るはずだだから」


「ええ」


リリスは水着を提案した事に強く後悔していた。


「いたいた、3人共まだ甲板に居たのか」


「アトム・・・とエマ」


「休憩ですか、今飲み物をお持ちしますね」


「出来れば温かい物を頼む」


「私も温かい物が良いわ」


「かしこまりました」


キャロルが船内へと消えて行く。


「所でリリスは顔が青いけど具合いが悪いの?」


「いいえ大丈夫よ」


「そうそう、私達はバカンスをエンジョイしてるの、私を見て何か言わなければ成らない事があるでしょ?」


「・・・風邪を引かない様に?」


「ちがーう!」


見かねたエマがアートに耳打ちする。


「ふむふむ、クリス水着似合ってるけど時期外れだと思うよ」


「もう良いわ!」


クリスは涙を拭きながら部屋へと戻ってしまったのである。


「やっぱり寒かったのかな、取り敢えず座ろうか」


「ええ」


「エマは寒く無いかな?」


「少し肌寒いわね」


アートは自分の上着をエマに掛けた。


「ありがとう」


得意げな顔でリリスを見つめるエマ。


「クシュン」


「リリスも風邪引く前に着替えておいで」


「そうするわ・・・」


2人だけに成った甲板に聞こえて来るのは、穏やかな波の音とカモメの鳴き声だけだった。

エマは意を決すると唇を舌で濡らし口を開いた。


「ずっと伝えたい事があったのよ」


「何?」


「お待たせしましたー」


「チッ」


「キャロル、ありがとう」


キャロルは2人にホットティを渡すと側に腰掛けた。


「何の話をしてたのですか?」


「エマが・・・」


「あーあー何でもないのよ何でも」


慌ててアートの言葉を遮るエマである。



 数十分ほど満喫した後、アートは立ち上がり部屋へ戻ろうとエマを促した。


「エマさんも中々やりますね」


「そ、そんなんじゃ無いわ」


「ふふふ、顔が真っ赤ですよ」


「キャロル貴方ね」


「2人共元気だなぁ」


仲の良い2人を見て勝手に安心するアートだった。


「戻ったらクリスとリリスを探して一緒に部屋へ来てくれるかな」


「かしこまりました」


キャロルと別れ部屋に戻った2人は作業を再開したのである。


 

 扉をノックした後入室した3人は、肩を寄せ合い話し込んでるアートを見て驚いたのである。


「クリスさんとリリスさんをお連れしました」


「ありがとう、3人にも手伝って欲しいのだけど良いかな?」


「もちろんよ」


クリスの後にリリスも快く快諾した。


「2人にはリリス誘拐時の事を報告書として上げて、キャロルはルナレアの正確な軍事力を纏めて欲しい」


「かしこまりました」


「分かったけど、アート達は仲良さそうで楽しそうだけど仕事はして無いの?」


「もちろん仕事をしてるよ、今はエマの意見も聞きながら鉄甲船の動力に付いて纏めてたんだ」


「魔力に関しては私の専門でも有るからね、力に成れて嬉しいわ」


エマは皆の前で過剰に喜ぶのであった。


「リリスどうするの?」


「形勢は不利な様ね」


「大丈夫ですよ、あの方は女心を分かって無い様子ですからね」


キャロルの言葉に内心ホットするクリスとリリスだったのである。


「何をコソコソ話してるの?」


「なんでも無いわ」


「うんうん」


「あはは、皆様可愛いですね」


キャロルの微笑ましい笑顔が場に不釣り合いでこの上無かったのである。


「んん? まぁ仕事してくれれば良いけどさ」



 それぞれが思惑を抱えながらも仕事は順調に進んだ。


「アート、そろそろ夕食の時間ですよ」


キャロルの言葉に全員が顔を上げた。


「そんな時間か、今日はここまでにしよう」


「はーい」


「クリスは机に向かうのが苦手なのに良く頑張ってくれたね、リリスも客人なのに協力ありがとう」


「気にしないで下さい、埋め合わせはしっかりと請求させて頂きますので・・・ふふふ」


「私もー」


「私もよ」


「分かった分かった、考えとくよ」


「さぁ皆さん、食堂へ向かいましょう」


 キャロルは常に状況が見えてて助かるな、彼女にも何かお礼を考えた方が良いだろう。



 食事の席でキャロルは1つの提案を打ち上げた。


「本日は皆様大変お疲れだと思いますので、この後浴場を貸し切りに致しましたのでゆっくりとお入り下さい」


「有り難いけど他の方に迷惑じゃないか?」


「他の方々には前倒しで入って頂いてますのでご安心下さい」


「それなら甘えようかな」


「まずはアトムからどうぞ」


「ありがとう、早速使わせて貰うよ」


アートが席を外すとキャロルが小声で話し始めた。


「チャンスです、アトムは天然朴念仁な所があるので単体で落とそうと思っても無理です」


この言葉に3人は素直に納得する。


「まずは女性を意識させなければ終わりは見えて来ません、深い仲に成るのは学園生活でチャンスはあります」


「なるほど・・・」


クリスが大きく頷いた。


「まずは皆さんが異性である事、更に好意持ってる事をアピールしましょう」


「私やるわ」


エマは天井に向かって何かを決意した。


「学園では他の女性も増えますから、ここでしっかりと自分達をアピールしといた方が宜しいと思います」


「流石大人ね」


リリスも関心してる様であった。


「私は皆さんの健闘を祈ってますね」


「え?」


「キャロルは来ないの?」


「それは不安だわ」


「しかし・・・」


「私達は友達でしょう?」


クリスがキャロルの手を握る。


「分かりました、ご一緒して出来る限り協力致します、今より1歩でも良い関係に近づきましょう」


『おおーー』


結託した4人の事など知らずに、湯船で伸び伸びするアートであった。





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