初めての冒険 Ⅶ

 昼に成ろうと言う所でキャロルが宿屋へやって来た。


「やっと発見しました」


ロビーの椅子に座っているクリスとエマの元へと駆け寄る。


「お待たせしました、明日から軍施設の立ち入りが出来るように成りました」


「お疲れ様」


「アトム様は一緒じゃ無いのですか?」


「部屋に迎え行ったんだけど、リリスと出かけた後だったわ」


「エマさんも大変ですね、取り敢えず荷物を置いてきますね」


不貞腐れるエマを見て同情するキャロルであった。


 2階にある部屋へ入ると背負袋から着替えを取り出し、軍服を脱ぎ始める。


「やっと楽な服に着替えられるわ」


そんなご機嫌で着替えてるキャロルの事を、息を潜めじっと見つめる者が1名いた。


「何よあのダラシない胸は・・・」


「ん? 誰?」


辺りを見回すキャロル。

焦ったリリスは、思わずアートを抱きしめてる腕に力を入れてしまった。


「い、痛い痛い」


「アート? アートいるの?」


「キャロル戻ったんだね・・・って何故下着姿なのーーー」


「しくじったわ」


リリスが不可視化の魔法を解くとベッドの上で重なり合う2人の姿が現れた。


「ななな、何をしてるのですか!」


「少し眠ってただけだよ」


「私は添い寝してただけです」


「2人共昼間からハレンチ過ぎます」


「それよりキャロルの姿に目のやり場が無いのだけど・・・」


「いやーーー」


この悲鳴を聞きつけクリスとエマが飛び込んで来た。

勿論その後はアートにリリス、2人揃って床に座らされ説教されたのは言うまでも無かったのである。



 昼食後5人揃って街に調査へと出た。

街には新鮮な魚介が並び活気のある商売が行われていた。


「この街の特産は新鮮な魚介と聞いたけど、王都へはどうやって運び込んでるのかな?」


「この街で水揚げされた海産物は王都に持ち込まれる事がありません」


キャロルの話では、王都に運ぶ分は直接ルナレアで水揚げして運び込むと言う事らしい。


「街の住人と近隣の村人などが魚介を求めてやって来ます、後はザブーンの街と交易があります」


「ザブーンか・・・」


「ザブーンは農業や狩猟が主な収入源と成ってますからね、お互い有益なのでしょう」


「そのザブーンなのだけど、王都との繋がりは浅いのかな?」


「元々は先住民が収めてた領土で、先代女王の時までは従属領として独立していた経緯があります」


 なるほど・・・。


「それ故に排他的であり、他国の人間を嫌う傾向があります」


 俺が跡を継いだ時の障害に成る可能性もあるな。


「最近では殿下に反対する組織へ力を貸してると言う噂も出てます」


「ありがとう、今回は近づかない方が良さそうだ」


「はい」


 リリスを危険に巻き込む訳には行かないからな。


 5人は街を一通り見て回り最後に検問所の建物に入っていた。


「ルナレアに比べたら随分と簡素だね」


「この街へ入るには国民の証か、リリス嬢の様に滞在許可書が必要ですからね」


「一元の船は入港出来ないと言う事か」


 ここまでの船旅で軍船を良く見かけたし、入国に関するシステムもしっかりしてるので他国からの密入国は難しそうだな。


「陽も暮れて来たし、今日の所は宿屋へ戻ろう」



 俺は旅をして行くうちに思う事が膨らんで来ていた。

それは・・・リリスの言動に釣られてクリスとエマが異性に対して、興味を持ち過ぎてるのでは無いかと言う事だ。

 実際夕食の席で、2人共普段では着ない様なドレス姿で現れてるのが証拠である。


「クリスとエマは随分と気合入ってますのね」


「そうでも無いわ、王宮では普通の身だしなみですよ」


「うんうん」


 嘘だ・・・。


 その言葉のやり取りを聞いていたキャロルは、自分の服を見ながら肩をすくめている。


「キャロル気にしないで平気、元が良いのだからどんな服装でも輝いてるよ」


キャロルはアートの言葉に、染まった頬を隠すように両手で覆ったのだった。


「アート!」


「私も褒めて欲しいのに・・・」


「ああ、クリスとエマも素敵だよ」


「アート、私は?」


「勿論リリスも素敵さ」


 かなり面倒だ・・・早々に軍の施設に行って寝室を借りるかな。


「そろそろ失礼します」


「アート早いのね、部屋は私とエマと同じ3名部屋だから間違えないでよ」


「いやいや、軍の施設を借りるから大丈夫よ」


「アトム様、言われて無かったので手続きしてませんよ?」


「・・・今からは?」


「無理です」


「・・・こっそりとか?」


「無理です」


 失敗した!!


「諦めて下さい・・・うふ」


アートは席に座り直し、できる限り粘る事を誓ったのである。


 深夜皆が部屋へ行き上げると同時に、アートは外の空気を吸う為庭へと出た。


 随分と寒い季節に成ったな、後数ヶ月すればアカデミーに入学か・・・憂鬱だ。


「またお会いしましたね」


声のした方へ振り向くとケイラがカップを2つ持って歩んできた。


「こんばんは」


「食堂から外へ出て行くアトムが見えたので、寒いでしょうから温かい飲み物を持参したわよ」


「ありがとう」


アートは受け取ったカップに口を付ける。


「温まるよ、ケイラもこの宿だったのだね」


「偶然ね、でも私は夜が明けたらザブーンへ向かいますけど」


「道中の無事を祈ってます」


「ありがとう、アトムも何時か遊びに来てね」


「必ずと約束するよ」


そこから1時間ほど世間話をした後、クリスとエマが待つ部屋へと戻ったのである。

 



 翌朝目覚めると案の定と言うべきか、アートの両脇にはクリスとエマが潜り込んで来ていた。


「毎回の事か・・・クリス、エマ朝だよ」


「おはよう、お腹空いたわ」


「私はもう少し抱き合っていたいなぁ」


「それなら私もー」


「ダメダメ、2人共起きないとリリスやキャロルを待たせてしまうよ」


仕方ないと言う感じでベッドから這い出る2人の姿を見ない様にと、予め目を閉じてたアートであった。


 朝食の席ではアートが予定を発表していた。

キャロルとアートが軍港に入ってる間は、残った3人が街の食糧事情や貧困具合いなどを調査する事と成った。


「皆さん、街の外へ出ても街道からは大きく外れないで下さい」


「それって危険って事?」


アートの言葉にキャロルは真剣な顔で頷いた。


「最近この辺りの治安が悪化してると聞きます、山賊と言う輩が出没するそうです」


「軍では対処してないのか?」


「この街から1歩出るとザブーンの領地に成り、都市ザブーンはかなり離れた場所にあります・・・」


「なるほど、手がまわらないと言う事だな」


「その通りです」


 この現状は母上も知っている事だろう、しかし元々は先住民が独立的に統治してきた土地、纏めるのにも難しい事情があるのだろう。

この問題は俺の代で解決するべき事だな。


「3人共キャロルの言葉を忘れない様にね、クリスとエマは街中でもリリスから目を離さない様に頼むよ」


「任せといて」


「分かったわ」


 同じ土地で住む者同士でも、平和な時間が続く程一体と成れない状況が出来上がったのか・・・。


「私は別に平気ですよ」


「いやいや、リリスが一番危険なのだから自覚してな」


「はーい」


 好奇心旺盛なのは結構だが暴走してトラブルを呼び込まなければ良いのだが・・・




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