国内唯一の男 Ⅲ

 城内剣術訓練の日、ナタリアの指導はアートに対して明らかに激しく成っていた。


「殿下、今まで控えめにしてた分頑張って貰いますからね」


「ええー、俺は戦場に立たなくても良いんじゃない?」


「そういう訳には行きません!」


アートに付きっきりな分、クリスとエマは汗もかかずに涼しい顔で剣を振っていた。


「エマ、アートが私達と一緒に入浴しなかった訳が分かったわね」


「そうね、身支度から全て自分でこなすと母が聞いて来てから、貴方も見習いなさいと煩かったのよね」


「あのね・・・エマはアートの事をどう思ってるの?」


「好きよ」


「そうなんだ・・・」


「クリス貴方もでしょ?」


「私じゃエマに勝てないだろうしな」


「一緒に貰ってもらう?」


「良いの?」


「私が第一夫人だけどね」


「うう・・・決めた! 私卒業までに第一夫人に成れるよう頑張る」


「頑張ってね、私はマイペースで行かせて貰うわ、もうキスまではしたしね」


 エマが突然カミングアウトした事により、クリスは衝動的にエマへ向かい思い切り剣を振り下ろしていた。

突然の行動にギリギリで剣を合わせるエマ。


「ちょっと何するのよ」


「何時?何時なの??」


「何がよ?」


「キスよ、キ・ス!」


「そんな事親友でも言える訳ないでしょ」


エマ渾身の力でクリスを押し返す。


「殿下、あの2人を見て下さい、魔道士のエマでさえ真剣に取り組んでるのですよ」


「・・・剣に必死過ぎじゃないか?」


「殿下どんどん行きますよ」


 あの2人は何故あんなにも必死なんだ!! しかし余りにも厳しすぎる


 3時間の剣術訓練を終えたアートが辺りを見回すと、クリスとエマの姿は無く2本の剣だけが無造作に放置されていた。


「ナタリア、クリスとエマは?」


「エマが剣を捨てて逃げたのをクリスが追いかけて行きました」


「サボりだ! 俺は駄目であの2人は見逃すのか?」


「クリスは殿下より動けますし、エマは魔道士ですからね」


笑顔で話すナタリアに返す言葉も無く、剣を渡し自室へ向かうのだった。


 数日後の魔術訓練日、アートは大広間へエマを迎えに行った。


「エマお待たせ」


「行きましょうか」


背もたれの高いソファーから立ち上がったのは2人だった。


「珍しいね、クリスも行くの?」


「たまには魔術の訓練も見とかない・・・いかなと・・・って」


「風邪でも引いたのか? 顔が真っ赤だぞ?」


「アート耳貸して」


コショコショとエマがアートに耳打ちする。


「チュウゥ?え、なになに・・・キ・ス?」


「エマ言わないでー」


「キスって俺とクリスが? なんで?」


「ヒッ」


クリスが涙ぐみ始めるとアートが必死に取り繕う。


「クリス泣かないで話を聞いて、俺は誰ともキスした事なんて無いから何故クリスとかなと思ってさ」


「え?? エマとはキスしたのよね」


「いや」


エマの表情が引きつって来た所で出た言葉が・・・。


「実は小さい頃アートが昼寝をしてる時頬にね・・・えへ」


「ううう、エマー」


「アート先に行くね~」


更に顔を赤くし握り拳を作ってるクリスを後目に走り去ってしまった。


「クリス、俺は内緒でエマだけ特別な事などしないから安心して欲しい」


「アート」


「俺達は兄妹みたいな者じゃないか!」


清々しい笑顔でドヤ顔を見せるアート。


「貴方は弟よ、私剣振ってくるわ・・・ふん」


 クリスは何を怒ったんだろう、まぁ今は良いか訓練行かないとだしな。


 アートが魔法訓練場に入ると警告なしに炎の矢が飛んで来る。


「シールド」


アートの一声で周辺に見えない防御壁が展開される。


「殿下遅いですよ」


「ゴメン、今日は何をするの?」


「殿下は魔力の収束、それを剣に付与して出力の自在化です」


 この世界の魔法には火>氷>風>土>雷>水の6属性と闇・光と存在する、なお続きは水>火である。

魔道士は6属性全てを使えるが個人によって得意属性は代わる。

光属性を使える者は少なく魔道士と言うよりは神官と言う扱いである、得意魔法は体力や魔力の回復、怪我の再生などに成る。

 アートは光属性の魔法が使えるのだが、回復と再生以外に攻撃と付与まで出来る特殊な存在であった。

勿論他国には極秘とされている。

 そもそもゾネス皇国が魔族と戦ったのは、初代皇女が民兵を集め出兵した時だけである。


「殿下の付与魔法も強力に成りましたね」


「ありがとう」


「それだけの魔力なら剣で一刀両断だって可能かも知れませんね」


「まだまだ頑張るよ」

 

 しかし、俺が光魔法を扱えるのは神が関係してるのだろうか・・・?。



 他種族国家フリーシア2代目女王、ヘレン・フリーシアの王宮。


「お祖母様失礼します」


「よく来ましたねリリス」


リリス・フリーシアはヘレンの前で跪いた。


「元気にしてましたか?」


「はい」


「今日は貴方にお願いが有り来てもらいました」


「お祖母様の頼みでしたら何でも致します」


「ゾネス皇国が皇太子を据えたのは知ってますね?」


「噂は聞いてます」


「丁度貴方と同じ歳で来季からゾネス皇国アカデミーに入学する予定に成ってます、そこで貴方には留学して貰い、彼の様子を探って頂きたいのです」


「その国は多種族国家では無かった記憶がございますけど?」


「エルフやドワーフと違い、精霊族である貴方なら見た目も大丈夫でしょう」


「分かりました」


 ヘレン・フリーシア(旧姓ヘレン・アバレス)、元々精霊の里の1つで長をしていたのだが、エルフ族のコナ・フリーシアと婚姻した際に他種族からの迫害を避けるために、エルフやドワーフなどを纏め国家にした経緯を持つ、コナが亡くなった後は国を引き継ぎ女王と成った。


 リリス・フリーシア、他種族国家2代目女王の孫娘である。

属性魔法に長け、更に光属性である転移や透明に成れる魔法を使う事が出来る。

 髪は短く癖がある銀髪で青い瞳が特徴、性格は明るく人懐こいと言う精霊族にしては珍しい者である。

とても可愛く同年代の異性からは憧れの存在と成っていた。

因みにヘレンの依頼が無ければ国を出て冒険に出る予定で、彼女の積極的な一面が有ると言う所を表していた。


「お祖母様は彼に何かを感じたのですか?」


「彼の出現は私の決断を促しただけで、彼の国は前々から文化や技術など目覚ましい物がありましたからね」


「かしこまりました、私としてはとても楽しみです」


リリスは丁寧な礼をすると王宮を後に里へと戻って行ったのだった。


「マイペースな娘だけど大丈夫よね」


女王ヘレンは少し不安そうな顔を見せるのだった。



 その頃、ゾネス皇国執務室ではアートにとって重大な事が話し合われようとしてた。


「来季のアカデミー入学に、サラスタ帝国のティナ皇女が留学したいと正式に申し込まれて来た件ですが、受け入れる事にしました」


「かしこまりました、専用の寮を直ぐに建てる算段を致します」


「いや構わない、建てても断って来るでしょう」


「何故ですか?」


「目的はアートだろうからね、どうせなら港町での出迎えを任せてしまいましょう」


「その時は私共が護衛をさせて頂きます」


「2人は我が護衛、アートにはクリスとエマがいるでしょう」


「それは・・・」


「陛下少し不安ですね」


そう言い終えると、ナタリアとミーナは考え込んでしまった。


「仕方が無い、3人には城外に慣れるため早めに出発させ調査を頼んだらどう?」


「アート殿下初めての城外ですね」


「明案ですね」


こうして3人の冒険は突然と決められたのであった。




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