ちんちんの方は全然覚醒してませんわ!

守備から戻って来るなり、ブライアン君が外野手用よりも小さいグラブを持って、急いでブルペンに向かっていったと思ったら、チェンジになるとそのままマウンドに上がった。



1番ライトで先発し、3点リードの8回にセットアッパーとしてマウンドへ。



なんという二刀流スタイル。






ビシュッ!!



ギュルルルル!!



ズバァンッ!!



「ストライーク!」



151。



いきなり150キロオーバーとは。すごい身体能力。そのストレートとスライダー、チェンジアップを投げ分け、内野ゴロと外野フライ2つで見事3者凡退でピッチャーとしての役目を終えた。








さらに。






カッキィ!!






グイーン!!






バコーン!!





ブライアンの4打席目。120メートルのフェンスを超えて、打球は1週間前にペンキを塗り直したバックスクリーンにぶち当たった。



大きなストライドで軽くガッツポーズをしながら、あっという間にダイヤモンドを1周してベンチに帰ってきた。



「ナイスバッティーン!!」



「ブライアン!ナイスー!!」



「オッケー!カンペキー!!」



ベンチに戻り、ふうっと一息をついた彼は交代を告げられてベンチ裏に下がって右肩をアイシング。



翌々日には、遠征から戻った1軍本隊への合流が言い渡されたのだった。




ですから、また病院に行きまして詳しい検査をしなくてはいけない。薄い青色の羽織ものを身に着けて、輪切りの検査からのスタートですよ。脳波を調べるペタペタを貼られたりしてさあ。


待ち時間はほぼないのに、トータル2時間以上掛かる検査ですから。だりぃなぁとは思いつつも、帰ったら今日はステーキですから。


それを楽しみにして頑張りましたわよ。


そして診断結果を聞こうと部屋に入ったら………。


「あれ?………これってもしかして……」



何かすごい不安になるお医者さんの様子。



レントゲン写真なんかもあるわけですから、この辺りに何か怪しい影がなんて言われるんじゃないかと、気が気でなかったのだが。


「新井さんの体。……若返っているかもしれませんねえ」


「なぬ!?」


「分かりやすく言うとですけど」


そんな風に言われたのだ。


いやいや、俺はずっと若いつもりでんがなと、軽く笑ったのだが、スマートな四角い眼鏡をしたお医者さんは、その間に分厚い資料を開いて、スライド式のテーブルでパソコンをカタカタとやり始めた。



「ハヴァーネイションアウェイキング。植物状態や昏睡した人間が飛躍的に運動能力を高める事例がいくつかあるんですよ」


初めて聞く言葉。冬眠と覚醒という言葉を合わせた造語らしい。




アスリートに限らず、突発的に起きた身の危険に対して、本能的に緊急シャットダウンするケースが稀にあるらしい。


ヤバい!死ぬ!!


と感じた瞬間に、体が一種の冬眠状態に入り、一か八かの賭けをする。


それこそ体中の全細胞が入れ替わり、体の作りが変わってしまうレベルのアップデートに全てを賭けるイメージなのだそうだ。



「世界には、子供頃に事故などが原因で命に関わる危険にさらされたアスリートがいるんですよ」


先生が例に上げたのは、サッカーのワールドカップでドイツ代表を優勝に導いたゴールキーパー。


現在世界ランキング1位。スペイン出身の女子テニスプレーヤー。


NBAの強豪チームを牽引する年俸20億円、身長2メートルの最強ポイントガード。


彼らはかつて、水難事故やスキー場での遭難事故、交通事故などで意識を失って病院に運ばれた経験があるようなのだ。



その3選手は、チームのメディカルチェックなどの数値では、実際よりも肉体年齢が若く、反射神経と動体視力に優れている共通点があるのだそう。


それが俺にも見て取れる部分があるというのだ。


確かにその3選手はまさにその2つの技能を存分に生かせる競技で活躍しているが。


ともかく今の医学では何も根拠や研究の余地がない範疇でありますから。


よく分からんかったが、とりあえずはそんな奇跡が起こったらしい。


もし今後、同じような人間が出てきた時の事例として資料を保存するだけで、公表とかはしないようにしようというところで収まった。



確かに6年眠り続けた後、覚醒したとでもならないと、起きてすぐに爆食したり、運動できたりという説明は付かないのかもしれませんわね。




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