第22話 はじめての依頼人

 ツリーイェンの受付嬢が、ここのギルマスになってくれるだなんて。


「腕の心配かい? あんたのトーテムに頼らなくても、魔物はやっつけてきたよ」


 手土産として、ギンコさんは魔物の素材を大量にくれた。


「どうして? 手が早いじゃないか」


「察しがいいね、パロン。実は、早い話が監視対象になってる」


 ツリーイェンから持ってきたお酒を囲み、ギンコさんはパロンと語らう。


「この村が?」


「違う。コーキが、だ」


 どうも、ボクはとんでもない大活躍をしていたらしい。


「で、怪しい動きがないか監視しろってさ」


「王都が、動いたんだね?」


「そういうこった。どっちかっていうと、『見守ってやってくれ』ってニュアンスだったけどね」


 ボクが変な組織や国家に利用されないよう、見張っていてほしいと。


「アタシも同感だ。コーキは、お人好しだからさ」


「言ってるそばから、なにか厄介ごとが来たよ」


 息を切らせて、中年の男性が息を切らせて走ってきた。


「なにがあった?」


「村が、流行り病に!」


 これは、のんびりしていられない。

 依頼人が言うには、村はツリーイェンと王都の近所にあるという。

 到着したものの、村には活気がない。みんな衰弱している。

 もう村人の三割は、病の犠牲になってしまったそうだ。


「ありったけの毒消しを持ってきたけど、効くのかな? 数も心配だよ」


 村は、想像していた以上の危険度だった。「治療ならお任せあれと」意気込んでいたパロンが、弱音を吐くほどに。


「とにかく、診せてもらおう」


 みんな、顔に斑点があった。


「く……」


 パロンが、苦い顔をする。


「この人たちは、長くないかも」


「ええ!?」


 村に広まった病は、パロンの薬でも延命処置しかできないそうだ。


「そんな。ここに来た意味が、ないなんて」


 なにもできずに、帰ることになるとは。


 苦しんでいる少女が、ノドの渇きを訴える。

 しかし、水が汚染されているために、飲料水を取ることができない。

 ポーションでごまかすが、子どもは余計に咳き込んだ。苦いためだ。


 せめて、甘いものを。でもグミだと、飲み込みづらいかも。ノドに炎症を起こしているから。


「待ってて」


 自分の身体からツタを伸ばし、ボクはブドウを生成する。


「ボクから伸びてきたブドウを、お食べ」


 子どもに、ブドウを食べさせてみた。

 抵抗するかなと思ったが、子どもは喜んで口にする。


「お、おおおおお!」


「コーキ見て!」


 少女の顔から、斑点がなくなっていく!


「治った! ウソみたい! 長寿のハイエルフさえ恐れる、大災害級の病なのに!?」


 これ、治ったんだ。ボクにも役に立つことができた。

 この調子で、ボクはどんどん自分からブドウを育てる。


「はやく、ブドウをみんなに」


 ブドウを食べた人々は、次々に体調がよくなっていく。


「ありがとうございました! なんとお礼を言っていいやら!」


「礼には及びません。もしよければ、我々と交流を」


「はい! ぜひ! うちは海が近いので、海産物などをご提供できます!」


 海か! 海の幸なんて、最高だ! それだけで、十分だよ。大収穫だ。

 しかし、やっておかなければならないことが。


「この病の発端は、わかりますか?」


「それが」


 村長によると、よくわからないという。


『コーキさま、わたしに診させていただけませんか』


 肩にいるピオナのゴーレムから、そう提案が。

 ピオナなら、わかるというのだろうか。


「やってみよう」


 最後の患者を、検査する。直後にブドウを食べさせて、元気にした。


『わかりました。この海岸沿いにある岩山に、毒を持ったイソギンチャクが生息しています。その魔物を倒さなければ、大繁殖してしまうでしょう』


 よし、ではイソギンチャク退治だ。

 魔物は、岩山にダンジョンを作り、繁殖していたようである。


『コーキさま、あそこです!』


 毒々しい紫色のイソギンチャクが、ウジャウジャと巣を作っていた。


「うわ。これが人に寄生していたのか」


 本来なら、動物に取り憑いて数を増やすという。この世界では火葬文化があるから、そう大量発生は防げていた。しかし、刺されたら三日と持たない。その上に、接触感染までするという。


 空気感染しないことが、せめてもの救いか。そうでなければ、我がネイス・クルオン村も危なかった。


「仕留めるよ! 【サンダーソード】!」


「【アタック・トーテム】!」


 ボクとパロンの連携で、魔物を無事に倒す。

 他に残っている毒素や、残存している魔物はいないか確認した。どうやら、大丈夫らしい。


「どこから、沸いてきたんだろう?」


「わからない。でもまだ世界には、こんな怖い魔物がいるのかも」


「なんか、物騒だね」


「いや。アプレンテス地方周辺くらいだよ。ヤバイ魔物が出るのは。それよりも、ワタシたちだけで対処は難しいかも」


 ボクたちに足りないのは、戦闘力だもんね。


「冒険者ギルドができたのは、ちょうどよかったかも?」


「そのようだ。まずはギンコに頼んで戦力をよこしてもら……」


 パロンが言いかけて、ボクたちは悲鳴を聞いた。


「女性の声だね」


「なんか男らしい声だけど!」 


「村の向こう側だ!」


「よし」


 急いで、声のする方角へと走る。


「うわあああ!」


 赤と黒の軍服を着た女性が、モンスターに襲われていた。

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