第37話 4章・一年生・前編_037_写経?
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4章・一年生・前編_037_写経?
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木々の緑の色が濃くなった春爛漫の四月の今日この頃。
座学は適度にこなし、実技に没頭している。ある日は朝早くから夕方まで彫金に没頭し、ある日はポーション作り、ある日は刻印の音に拘って気づいたら夜になっていた。
僕たち魔法学校生にとって闇曜日は休みではない。校内の工房でどれだけ技術を向上させられるかの時間だ。おそらく騎士学校も同じだと思う。
五月に入ったら、試験漬けになる。今の内に基礎を固めて、試験に備えなければいけない。サークルに手を出す余裕なんてない。
もっとアオハルな時間を過ごせると思ったけど、魔法学校はそんなに甘くなかったよ。舐めてました、すみません。
ハンマーで鏨を叩く。カンカンカンカンカンカン。
正確に魔術紋を刻むのはそれなりにできるけど、ドルガー先生のような音がどうして出ない。
カンカンカンカンカンカンカンカンカン……カンカンカンカンカンカン……カンカンカンカンカンカンカンカンカン……カンカンカンカンカンカンカンカンカンカンカンカンカンカンカンカンカンカン。
魔術紋を刻むのに音は関係ないと思うけど、気に入らない。数十年の研鑽にたった数年の僕が敵うわけないのだけど、気に入らないんだ。
あの精密機器のような音。まったくムラのない音が、出したい。
「おい、ランドー」
不意に肩を掴まれる。ルーク君だ。
今日もボサボサの髪をしているね。
「やあ、ルーク君。どうしたの?」
「根を詰めすぎだぞ」
「心配になるくらい没頭していたわ、ランドー君」
そんなに没頭していたかな……。ん、もう夜? え、夜? はー……またやってしまった。
「もう夜だったんだね」
「おう、何度も声をかけたんだけどな」
「毎回生返事だったわ」
「そっかー。ごめん。納得できなくて、つい」
「は? それで納得できないのか? 俺からすれば、二年生でもそこまで彫れる奴はいないと思うけどな」
ルーク君の視線の先には金属板がいくつもあり、そこにびっしりと魔術紋が刻まれていた。僕が刻印したもののようだ。知らないうちにこんなに刻んでいたんだね……。
リンさんとは寄宿舎が違うので途中で別れて、ルーク君と寄宿舎に戻って夕食を摂った。食事はギリギリの時間だった。危うく二人が夕食を逃すところだったのを詫びて部屋に戻った。
窓を開けると、フウコが入って来てホーウと鳴いた。今日は遅かったねと、僕を気遣ってくれる。優しいいい子だ。
フウコに特上大トロを含むトロ丼を出してあげる。
「たくさん食べてね」
「ホーウ!」
無我夢中で食べるフウコを撫でる。手触りがいい。スベスベのフカフカ。
フウコのフカフカの羽毛に顔を埋めると睡魔が襲って来る。
「はぁー。風呂入りたい……」
トイレ事情は少しだけ、ほんの少しだけ改善している。穴から桶にランクアップしていますね。肥溜めへの移動が少しだけ楽になった? 僕が運ぶわけじゃないから、いいんだけどね。それでも水洗トイレがほしい。穴も桶も臭いんだよ。本当にキツい臭いなんだよね。
いつの間にか寝てしまった。今日もフウコ目覚ましで目覚めることができた。
今朝は出汁巻き卵と塩シャケ。
「美味しいね」
「ホーウ」
フウコも美味しいと喜んでいる。特にこの出汁巻き卵の出汁の具合がいい。甘い玉子焼きもいいけど、出汁というものいい。卵料理で嫌いなものはない。
今日も朝から工房に入って金属板に向かう。カンカンカンカンカンカンカンカンカンと鏨を叩く。とめ、はね、はらい。魔術紋はそこそこ綺麗に刻印できている。一般的なら合格じゃないかと思う。だけど、ここで満足したら、僕の成長はない。せっかく魔法学校などという御大層なものに入学したのだから、何か一つはものにして卒業したいんだよね。
あと、彫金はしばらく休止。刻印の腕が上がれば、それは彫金に繋がると思っている。刻印は言わば基礎の積み上げ。正確に魔術紋を彫り込む技術は、彫金の役に立つ。彫金でもいいけど、あれは応用を要求していると思うんだ。デッサンも必要だけど、それ以前に鏨とハンマーと自由自在に操る技術が必要だ。そのために僕は刻印に時間を費やしている。
「刻印って写経に似ているのかな……」
写経なんてしたことないけど、丁寧に文字を写すのと彫るのとは似ている気がする。
ガチッガチッガチッとしたところが似ているのかな。あと無心になれるところ。彫っている間は、本当に雑音が耳に入ってこないんだよね。面白いくらい、周囲が気にならないんだ。
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