第四話 情報通達会
「あ、光沢くん!無事だったんだ」
会議室Bという部屋に入ると、そこには既に光沢神歌が居た。
「ああ、君は……確か、楠田くん、だったよね?」
そう確認してきた。
「そうだよ。僕の名前を覚えてるって、かなり記憶力が良いんだね」
そこまで話して、泰久はあることを思い出す。
(そういえば昨日、『まだ一人が起きてない』って言ってたな。もしかして光沢くんがその最後の一人だったんだろうか?)
そう思ったのとちょうど同じタイミングで、レイアが神歌に話しかける。
「光沢様。予定よりは少々早いですが、そろそろ
「……そうですね」
光沢とレイアは会議室を出てどこかに歩いていった。
二人が部屋を出てすぐに、レイアと全く同じ顔をした人間が入ってきて、部屋の入口に控えた。
「あの……貴方は……?」
「汎用管理人格のレイアです」
その言葉に泰久は困惑する。
「いや、レイアさんはさっき出ていったと思うんですけど……」
その質問に、無表情のままレイアは答える。
「『レイア』は汎用管理人格の識別名であり、ただのデータの塊です。先程まであなたと話していたのは、『レイア』が操る機体のひとつに過ぎません」
(ちょっといまいち話がわかりにくいけど……)
「つまり、どこかにレイアさんの本体があって、その本体が『レイアさんの形をした機体』を操っていた、ってことで良いんですかね?」
「厳密には違いますが、その認識で構わないかと」
沈黙が起こる。
それから少し時間が経つと、その沈黙を破るようにドアが開いた。
「おはようございま〜す」
「あ、ど、どうも……おはようございます……」
板倉が元気そうに入っていて、清水がおずおずと続く。
「あ、二人共。こんにちは。光沢くんとはもう会った?」
泰久がそう聞くと、二人共驚いた顔をする。
「え?!神歌が居たの?!」
「あの人もここに居るんですか?!」
「うん。さっきまでここに居て、レイアさんと一緒に何処かへ向かったはずだけど……」
出ていったはずの光沢を探すために会議室のドアに向かう。
「いえ。その必要はありませんよ。今終わったところですから」
ちょうどドアの前に青髪が居た。
その後ろには、少し顔色の悪そうな光沢くんが居た。
「ちょっと神歌!大丈夫?!」
倒れ込みそうになっている光沢に板倉が駆け寄る。
「ああ、大丈夫だと思いますよ。彼の力を抑えるために
そう言った青髪を板倉は睨みつける。
「そんなに睨まれてもこの決定は変えられませんよ?これ別に僕が決めてるわけじゃあ無いんですからね?」
青髪はそう言いながら会議室の中の椅子に座る。
光沢も板倉に支えられながら席に着いた。
(このまま何が会議みたいなのを始めるつもりなのかな?)
泰久も部屋から出ていくことを取り止め、先程まで自身が座っていた席に着く。
その数十秒後に、残りの二人が入って来た。
名前は確か……石井さんと許斐さん……だったはずだ。
「じゃあみんな揃ったみたいだし、話を始めるとしようか」
青髪がそう言って、僕達に紙を配る。
「その用紙はこの部屋を出るときに捨ててもらうからね。絶対に持って帰らないように」
そう言われて、僕達は用紙を見る。
そこには今後一週間ほどの間の僕たちの予定が書かれていた。
「これは……
表の中には4日後に不可侵領域へ行くという予定が入っていた。
「そう。どういう訳かは分からないんだけど、
本人も不思議そうにしながら青髪は言った。
「そうなんですか……まあ、僕は特に反対しませんけど……」
泰久はそう言う。
「ぼ、僕も特に反対するつもりはありません……けど……」
清水は何か言おうとしていたが、声がすぼんでしまい最後の方は聞き取ることが出来なかった。
「俺は特に……」
「あたしとしてはむしろこれから何をすべきか決めてくれるんだったら嬉しいな〜。正直こっちの世界のことあんまり知らないから自分でやることを決めるのは大変だし」
他の二人はそう答えた。
(ってなると残るは……あの二人か)
少しグッタリとして椅子に座っている光沢とそれを支えている板倉の二人に全員の目が向く。
「お二人はどうかな?」
青髪がそう聞いた。
「私は反対」
板倉がそう言い切った。
「少なくとも、どういう理由で神歌をこんな状態にしたのかを聞かないとあなた方のことを信用できません」
はぁ、と頭を掻きながら青髪は答える。
「これは果たして僕が独断で伝えて良いものだろうか……?っていう不安はあるけど、一応その理由は伝えることが出来る。ただその場合、僕がこのことを喋ったとバレたときに『君に脅されたから言った』っていうことにさせてもらうけど、構わないかな?」
板倉の表情がそのことを怪訝に思うようなものに変化する。
「でも、私達まだ高校生、16歳とかですよ?そんな子供がその管理者を脅すって……それで話は通るんですか?」
青髪はニヤリと笑い、板倉に向かって鉄パイプを投げる。
「少し力を入れてそれを曲げてごらん」
板倉は暫く投げられものを見つめていたが、少しすると両手でパイプを持って力を込め始めた。
するとパイプは一瞬でポキリと折れた。
「え……?」
板倉は自分の手の中にある折れたパイプを見つめながら呆然とする。
(あれ……?板倉さんってこんなに)
「君達は今、生物学的には人間じゃ無い。この世界では君達のような生き物のことを【超人】と呼んでいるんだ」
――――――――――――――――――――――――――
遥か昔に、とある一人の少年が居た。
その少年は生まれつきなのか、異常なまでに身体能力が高かった。
誰の遺伝なのかを調べようと様々な人、機関、組織が彼の両親を探したが、ついぞ見つからなかった。
その少年はすくすくと、とても人間とは思えない速度で成長していった。
そしてある日突然、少年は自身の育った村を出て行った。
村全体で育てたような子供だ。どこへ行ったのか全員で探した。
しかし、結局彼は見つからず、村は子供をひとり失うことになった。
それからだろうか。
世界各地で異常な身体能力を持つ【超人】が出現し初めたのは。
近代になって遺伝子関連の技術が発展すると、【超人】達が通常の人間と生物学的に違うものだということが分かってきた。
さらに時代が進み、【魂】の研究が盛んに行われている現代になると、超人と通常の人間の魂にも差異があるということが分かってきた。
しかし、現代になっても何が超人を生み出す原因となっているのかは分かっていない。
――――――――――――――――――――――――
「っていう感じなんだよね」
空中に映し出されている映像を止めて青髪はそう言う。
「この話に出てきた『少年』については色んな噂が有るから気になったら調べてみると良いよ。ただ、噂ごとに『成長したあの日の少年』の見た目がバラバラだから正直どれも信憑性は無いけど……」
「つまり」
話を遮って板倉は言う。
「私達がその【超人】だと言うんですか?」
「そーゆーこと」
青髪は板倉を指さしてそう言った。
(けど、それはちょっと変だな……)
泰久はその話を聞き、ある点に気が付く。
「で、でも……さっきの話だと【超人】っていうのは生まれつきのものなんですよね?僕達は小さい頃からそんなとんでもない力を持ってた記憶は無いですよ?」
清水がそう言うと、青髪は首を振る。
「普通は、というより、僕達の世界で生まれた超人はそうなんだけどね。どうやら他の世界で生まれた場合は訳が違うらしいんだ」
「というのも、別世界から連れてきた人は超人、もしくはそれに準ずる能力を持っていることが多いんだよ。【世界を渡る】っていう行動が肉体や魂に何らかの影響を与えるのかもしれないけど、その辺りはまだ分かっていないことの方が多いかな」
僕たちにも分かるようにそう言った。
「分かりました……私達の話は一旦もう良いですから、どうして神歌にあんなことをしたのかだけ教えて下さい」
板倉は光沢を支えながらそう聞くと。
「それはそういう指示が出ているから……としか、言えないな。申し訳ないけど、僕は末端側の人間だから上層部の考えは分からない。予想くらいは出来るけどね」
コクリ、と板倉は頷いた。
「多分だけどその子『超人』の中でも特別な存在なんだよ。僕は研究の関係上何度も『超人』の身体データを見たことがあるけど、そんな僕でもあの子のような身体データは見たことがなかった」
「……だから、危険だとでも言うんですか?」
板倉はそう言い返す。
「そうだね。少なくともそれが国の決定だということはほぼ間違い無いと思うよ」
その言葉を聞いて、その場に居る全員が黙り込んだ。
「これで納得してくれたかな?」
板倉は、ゆっくりとだが頷いた。
「じゃあ不可侵領域行きの予定について詳しく話すよ。出発は4日後の午前10時。集合場所はこの建物の1階にあるロビーだね」
それを言うと、石井が質問する。
「ロビーはどこにあるんですか?」
「ちょっとこの建物の中は複雑だからね……分からなかったらレイアに聞いた方が良いと思うよ」
Bは納得したような雰囲気で頷いた。
「他になにか質問はあるかな?」
青髪は聞くが、特に出なかった。
「じゃあ、僕はもう帰らせてもらっても良いかな?正直僕も自分の研究に専念したいというか……」
「大丈夫ですよ。こうやって色々と話をするのも大変でしょうし」
僕がそう言った。
「じゃあ僕は自分の研究もあるからこの辺で失礼させてもらうよ。皆、ちゃんと予定通り集まるように」
そう言って部屋から出て行った。
「……じゃあ、私達もそろそろ解散しよっか」
板倉さんがそう言う。
「そうだな……俺もこの予定表をじっくり見ておきたい」
学生Aも賛同した。
特に、反対する様子の人間はいない。
「じゃあ、各自部屋に戻って自分のやるべきことをやること!それじゃあ、解散!」
僕たちは順番に部屋から出て行った。
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