愉快な訪問者 ②

「それにしても久しぶりだね」

「いつも会社で会ってるじゃない」

「違う違う!ヒフミン家くるのが!」

「そうだっけ?」


 顎に手を当て記憶を辿る。そう言われればそんな気が……。


「ま、いいじゃない。それより映画を見るなら早く観ましょう」

「あっ!待った待った。まずは雰囲気作りだよ、ヒフミン」

「雰囲気?」


 首を傾げる私の前で秋葉は買ってきたポップコーンや飲み物をテレビの前に設置し始めた。


「ああ。そういう……。でも私、朝ごはん食べたばっかなんだけど」

「演出だよ、演出。映画にポップコーンは欠かせないし。それにヒフミンが食べれなかったらアタシが全部食べちゃうし!」


 なるほど。メインである映画を楽しむ為に舞台からこだわる。それは普段の私が日曜日を怠惰に過ごす為に努力することと似ている。


(ならば)


 私はカーテンを閉めると、部屋の電気を点けた。こうすれば、スイッチ一つで部屋は真っ暗。気分は個室映画へと早変わり、なのです。


「おっ!いいねいいね!雰囲気でてきたね!」

「でしょ?じゃあ、ここ、座って?電気消すから」


 私と秋葉が並んでソファに腰掛ける。そして、部屋の電気を消すと同時に、B級映画鑑賞会が幕を開けたのでした。ちゃんちゃん。


(サメにゾンビにトマトによくわからない生物。基本なにかに追われてるわね、この人達)


 秋葉が持ち込んだDVDは、あっという間に半数を見終えてしまった。B級映画なんて言われていたが、ふたを開けてみればどの作品も普通に楽しめている。まあ、私。ある特定のジャンルを除けば大抵の作品は楽しめる人間なんですけど。


「なあなあ、ヒフミン。なんでB級映画って変なのに追いかけられる話ばっかなのかな?」


 丁度揚げたての人食いドーナツが暴れまわる話を見終わった頃、秋葉がそんなことを聞いてきた。いや、私にそんなこと聞かれても困るんですが……。


「よくわかんないけど、低予算だと一番作りやすいんじゃない?凝った話にしなくていいし。……いや、よくわかんないけど」

「ふーん。じゃあさ、次は趣向を変えてこういうの観ようよ!」

「えっ!!」


 そう言って彼女が差し出したのは、私が唯一楽しめないジャンル。ジャパニーズホラーのディスクだった。


「いや、その。別のにしない?」

「えぇ~。それだと後は……ちょっとエッチなヤツしかないよ?」

「それがいい!ヒフミ、エッチなヤツ観たい!」

「なぁんだ。ヒフミンはスケベだなぁ。じゃあお楽しみは最後にとっとくってことで」

「ホント!エッチなヤツがいいから!寧ろエッチなヤツしか観たくないから!」

「まあまあ。あ、ホラ。始まったよ、ヒフミン」

「…………!!」


 ……その後私がどうなったか、ですか?勿論秋葉には、お風呂に一緒に入ってもらいましたし夜のトイレにもついてきてもらいました。その日は私の部屋に泊まってもらい、一緒に出社しました。


「またやろーね!ヒフミン!」


 鑑賞会終了後、彼女はこう言っていました。途中までは楽しかったし、たまになら私もやぶさかではありません。ただ、次は家にあげる前に手荷物の検査をする。その一点は忘れないように心に誓いました。南無南無。

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