10 実験してみた〈過去〉
今でも思い出す。
——コハルに男の子の服を着せて育てたら、男の子のようになるか実験してみたの。
それを聞いたときの、ガンと響くような衝撃をコハルは覚えている。まさに、
そのとき、小学生中学年だったろうか。
姉と写った幼稚園の頃の写真を見ると、コハルは半ズボンを履いている。髪は、耳のまわりを短く刈り込んだショートヘアにしている。
となりにいるミフユはワンピース姿。髪はコハルほど短くはない。サイドは三つ編みにして小さなリボンをつけているし。
——ある日、コハルが「ズボン、はくの、いや」って言い出して。幼稚園で誰かに、「コハルちゃんは女の子なのに、どうしてズボンばかり履いてるの?」って言われたんだろうね。
そこで最初の言葉を、母は残念そうに言ったわけだ。
——男の子の服を着せていたら、男の子のようになるか実験していたのに。
母は、コハルの受けた衝撃など気がついてもいないようだった。そんな神経の人だったら、実験という言葉は口から出ない気がする。
そのままのコハルではダメなんだ。子供心に思った。
その後、この世界の子供たちが、まったくもって愛なんてなくても行為で生まれると知り呆然とした。まさしく自分が、そうだと思えたからだ。
母は父の悪口も、よくこぼした。たしかに父は、つまらないウソをつく見栄っ張りだった。
結婚して早々、父は、いろいろやらかしているから、母がコハルを妊娠した頃には愛なんて、とっくに尽きていたはずだ。
姉、ミフユが生まれたときには、愛というか何かは、まだあったろう。
ともかく、この世に生まれた意味を、姉はコハルほど考え込む必要はない。
コハルは、ため息をついた。
きっと、母は男の子が欲しかった。
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