第48話 おしおきという存在 その一
ドヤ顔で得意そうに胸をそらすフレア。
アレスは何だかなと思った。
神だとか魂を分けたと聞いても微妙なのだ。
「何か不満かしら?」
「いや、意味はわかるんだけどね。で、具体的には何をすれって事なの?」
呼び名を探せと言われても探し方も解らなければ、何かすら理解できないのだ。
「てか、それって本当に僕がやらないとダメなのかな?」
「何を言う? 秩序ある幸せな世界を作るのは決められた事」
「単純にまだ時期じゃないって事は?」
「それは無い」
フレアが言うには、アレス転生と共に世界は動き出したそうだ。
「新しき世界を作るために、再生への最後の道のりを歩む」
そう予言を成就するために。
「そのためには力を持たないとダメね」
そう言って腕輪を示すと「力を解放するために、しばらくは制限させてもらう」とアレスに告げた。
「それより、みんなが心配してると思うんだけど、帰らせてもらえないかな?」
いきなり拉致されて来たのだ。誰かに行き先を告げたのならともかく、ローザやイネスも心配しているだろう。特にイネスと繋がりが感じられないのだから。
「うーん、すぐに帰してあげたいけど、もうしばらく待ってね。まだ邪魔な連中が多すぎるのよ」
誰が邪魔なんだろうか? と思いながらも囚われたかごの鳥。一人ではどうしようもなかった。
※※※
フレアと会ったあと、改めて与えられた部屋は客室だった。
慌てて仕立てられたのか、調度品はバラバラで一貫性が無い。まるで普段は使われていない場所に設けられたセットみたいだと思った。
「どうもチグハグなんだよな」
アレスは誰とも無く呟くとベッドに横になった。
考えれば考えるほどまとまらない。
くそっ! いきなり神だとか能力を全部探せとか、意味わかんねーよ。
正直混乱している。
その時だ。
「……坊ちゃん」
どこからか自分を呼ぶ声に気が付いた。
「だれ?」
慌てて回りを見渡すが、魔道具を使わずランプの灯りで照らされた室内は暗い。
「ここです」
じっと隅の暗闇に目を凝らしたとき、揺れる闇精霊が見えた。思わずポケットの中の皮袋を握り締める。手首に付けられた腕輪で魔力が出せない現状、身を守る手段は叩きつければ発動する精霊石のかけらだけなのだから。
「えっ? ……ドヴォルグさん?」
「へい、お久しぶりです」
現れたのは、以前ローズウッドに忍び込んで来たドヴォルグだった。
「何で、ここに?」
「へへっ、エルフのお嬢に言われて、情報を集めておりました」
ドヴォルグが言うには、カーラの命令で探っていたそうだ。
「この国は表向きとは大違いで、どろどろしてまさあ」
その時にアレス排除の情報を得て、見張っていたらしい。
「流石に離宮に忍び込むのには苦労しましたが、ほらっ、頂いたコイツがありますからね」
と、懐から黒い精霊石を出して見せ、アレスにカーラから渡されたと言った。
「『ガンドルフ』がコイツを持てば鬼に金棒ですぜ! もっとも肝心な場面ではヘマをしちまいましたがね。あの時、あの男からは特にいやな感じは無えから、大丈夫だと思ったんだが……本当に申し訳ねえ!」
闇精霊を使うドヴォルグは、害意や敵意を感じ取れるそうだ。特にいたる所にいる騎士には気を使って注意していた。
「だからって言うのは理由にもなりませんが」
肩を落とすドヴォルグ。
アレスがさらわれた時。現れた騎士からは何かを害する気配は感じられなかったと言う。
もしもの時には助ける予定だったそうだが、カーラの指示でギリギリまでなるべく手を出すなと言われていたようで間に合わなかった。
「それにしても妙な所だここは」
「ん? どういう事?」
「ああ、坊ちゃんは感じませんか? ここは生き物の気配がしねぇ、まるで死人の住みかみてえだ」
そう言うとドヴォルグはぶるっと身体を震わせ続けた。
「世界の果てにある、死の国みてぇじゃないですか?」
※※※
「坊主の誘拐を手引きした連中が判ったぞ」
小突かれるばかりでは堪らんと、探りを入れていたギレアスが情報を掴んで来た。
アレスの身柄は現在フレア神の元と判っているが、そこには手引きしたものがいるのだ。
「手を出してきたのはジョセフ皇子だ」
「……そう。ジョセフ皇子なの? たかが人族の皇族風情で大した事をしてくれるわね」
室内に冷気が吹き荒れた。
「ひっ!」
周りから悲鳴が上がる。
「ローザ? 凍らすのはまだ早い」
見事な笑顔のイネスに諌められて押さえつけるローザ。ゆらゆらと揺れる魔力を押し込めると「すまぬ」と一言答えた。
「くくく、なに、構わぬ。我も気を抜くと国ごと燃やしてしまいそうじゃ」
「ふふふふふ……」
「くっくっくっ……」
青ざめる仲間たちに軽く視線を送ると「そうね、ルオーさん」と怯えるルオーに告げる。
「な、ななな何でしょうか?」
「ねぇ? お仲間は何人くらい集められるのかしら?」
「へっ?」
「そうじゃな、ルオーよ。ククリの里から呼んでおけ! 屈強な戦士をな」
「はっ?」
「ええ、なるべく一杯ね」
「ローザ? ちなみに、エルフには声を掛けるのか?」
「……ふっ、馬鹿ねイネスぅ、もう呼んであるに決まってるじゃない?」
「あっはっはははは! 見事じゃ!」
「どういたしまして。くくくくくっ」
一体この二人は何を始めるのだろうか? いや周りには解っていた。
怒らせたエルフと妖精を止める事など誰にも不可能な事を。
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