第47話 元男爵令嬢の行く末 1
戻ってきたシリルはその事件を聞いて足元が崩れそうなほどの恐怖を覚えた。
シャルロットの部屋に飛び込んだが、あれから三日たったのにもかかわらずシャルロットの意識は戻っていなかった。
「シャルロット・・・目を覚まして。帰ってきたよ?」
シリルは涙をこぼしながら、頬を触った。血の気の通わない白い肌は冷たかった。
冷たい頬を、冷たい手を、意識が戻るよう願いながら必死にさすった。
そんなシリルを見ていたジェラルドは今後についての相談があると執務室に誘った。シャルロットのそばを離れたくないというシリルに
「シャルロットには聞かせたくないだろう?」
といい、シリルも了承した。
「父上、元ブトナ男爵令嬢は今どうなってるんですか?」
「地下牢で鎖につないである。今後の処理をシリルと相談しようと思ってな。」
正直、感情に任せて元男爵令嬢を裁いてやりたかった。しかし、侯爵として感情の赴くままに手を下すわけにはいかないと踏みとどまった。
シリルに相談をしたのは次期侯爵としての判断、決断を見極める意図もあった。
「そんなもの決まってます!私がこの手で処分します!あの時にもっときつい罰を与えておくべきだったんだ。」
「それではお前の手が汚れることになるぞ。」
「構いません!平民が貴族令嬢を悪意を持って傷つけたんだ、殺される所だったんですよ?!今だって・・・助かるかどうかわからないのに!」
ジェラルドだって同じ気持ちなのだ。だがそれではいけない。
「シャルロットが元気になって事の顛末を聞いた時、お前にそんなことをさせてしまったわが身を責めるだろう。」
「シャルロットのせいではありませんよ。自業自得だ!」
「確かに貴族法で貴族を害した平民を個人で処罰しても良いとされている。だから我々が処分したからと言って罰される心配はない。」
「じゃあ!」
「しかし、そのことをシャルロットには言えないだろう?」
「当たり前です。」
「我々はシャルロットにどれだけ隠し事をするのだろうな。」
「・・・。」
「そしていくら隠していてもどこからか漏れる。今回は逃げた女を我が家の犬と護衛が追いかけて確保したところを皆が見ているから余計にだ。」
貴族が真っ当な理由があれば平民を処罰することは罪に問われないとしても平民を処分したというのは世間に周知される。
清廉潔白だけで貴族社会を渡っていけるわけがなく、きれいごとでは済まされないこともある。しかし事情の知らない世間に、あの侯爵家は気に入らないことがあれば平民を平気で処分する家だと認識されるのだ。
理由を大々的に広報できれば納得もされるが、シャルロットの名誉のため昔のことを広めたくはなかった。
「では、どうすれば・・・私はあの女を絶対に許せません。」
「もちろんだ。よく考えてみろ。我々が出来ることを。」
「・・・・。騎士に連絡し、大々的に屋敷から連れ出してもらいます。」
「そうだ、そうすればもう事件は私たちの手を離れたことがわかるだろう。」
平民が関わる事件の調査を司るのは第4騎士団。彼らが調査し、報告を上げ刑罰内容を決めるのは法官、そしてそれを決裁するのがジェラルドだ。
爵位、王宮内での地位をフルに生かせば刑罰に私情をはさむことなど簡単だった。しかもおそらく極刑だ。死罪が決まっている相手にほんの少しだけ、希望と絶望を与えるだけだ。
「力の使いどころを誤るな。」
「わかりました、勉強になります。」
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