第43話 ある令息の独白
あの時、どうしてあの女に手を出そうとしたんだろう。
あれから一年たっても後悔し続けている。
あの日、社交界である意味有名な女を見つけた。
あまり社交の場に出てこないが、たまに来たと思えば常に父親が側におり隙がなかった。
その日は父親がおらず、一人で壁際に立っていた。チャンスだと思い、親切を装って媚薬を入れた水を勧めた。すぐに薬の効果が出てきた女を体調不良といい、部屋に連れ込んだ。
そこから転落人生が始まったのだ。
ややこしいドレスを脱がす前に男に踏み込まれ、思いきり殴り飛ばされた。這う這うの体で逃げ出したが、しっかりと身元を突き止められた。
父親からは謹慎を言い渡され、後継者から外された。それでも俺は高をくくっていた。後継者は外されたが、籍は抜かれなかったからだ。このまま家を出て行くつもりはない、少しくらい疎まれようともここに居着く限り貴族として生きていける。何なら責任を背負わない分楽な生活ができるかもしれない。そう思っていた。
そんな俺のもとに近づいてきた女がいた。
謹慎がとけてせめて誠意を見せろと、父の知り合いの商家に送り出された。追い出されないためにしぶしぶ従った俺が行きつけにしている酒場で声をかけられた。
魅惑的な身体に派手な顔つきのきれいな女が、俺を褒めそやしてくれる。俺の話を聞いて、頑張っているとほめてくれる。これは俺に気があると思うだろ?
だから誘ったんだ、喜んでついてきたんだ。本当なんだ。
女が支払いするからと、今の俺では敷居の高い高級宿に二人で入った。そしていざ事に及ぼうとしたとき、女が自分で服を引き裂き、大声で叫びだした。助けてと。
高級宿にはやとわれた護衛がいて、すぐに護衛と従業員が部屋に飛び込んできた。女は全身を震わせ、涙を流しながら俺に乱暴される所だったと訴えた。
現状はどう見ても女の訴えた通りにしか見えない。俺がどんなに否定しても、女に騙されたと言っても信じてもらえなかった。
そして今、俺は鉱山で働かされている。
ああ、俺を嵌めたのは女じゃなかった。モーリア侯爵家だ。
大切な娘を穢そうとした俺をはじめから許すつもりなどなかったんだ。軽い処分で済んだなんて俺は何もわかっていなかった。
俺はいつまでここにいるのか監督に聞いた。
すると俺が襲ったことになっている女への慰謝料を払い終えるまでだと言われた。金額を聞いて俺は絶望した。
俺はもう二度と日の目は見られないかもしれない。
本当に俺は馬鹿だった。
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