第40話 不穏な手紙 3

 シリルはシャルロットの部屋を訪ねた。

 最近はノックをしても返事をしてくれない。掛布に潜り込んでしまう。

「入っていい?大事な話があるんだ。」

「・・・体調が悪いから。またにして。」

「どうしても今話したいんだ。入るね。」

 シリルはベッドのそばまで行くと跪いた。

「シャルロットに謝らないといけないことがあるんだ、シャルロットの具合が悪くなった夜会の事・・・」

「聞きたくない!出て行って!お願い!」

「大丈夫だから聞いて。あの日、何も心配する事はなかった。」

「・・・。」

「確かにあの日シャルロットに薬を盛った最低な人間がいた。」


 掛布の中でびくっと身を竦めるのがわかる。そして嗚咽も漏れてくる。

「でもはぐれたシャルロットを探してた僕が間に合ったから、シャルロットの身には何も起らなかったんだよ。ただ、そんなことをされたと聞くのも気分が悪いだろうと思って、話さなかったんだ。ごめん。」

「・・・本当?」

 掛布の中からくぐもった声が聞こえてくる。

「うん。でもそのまま家に帰るわけには行かないし、宿に泊まったんだよ。黙っていたせいで苦しませて本当にごめんね。」

 そろそろとシャルロットは涙に濡れた顔を出した。


「嘘・・・ついてない?」

「ついてない。」

「よかっ・・・た。」

 顔を覆って泣き出した。

「本当にごめん。」

 ぎゅっと抱き寄せた。

「私・・・貴方に合わせる顔がなかったの。もう結婚できないと思ったの。消えてしまいたかった・・・」

「・・・うん。」

 シャルロットははっとして

「でもどうして急に?・・・なぜわかったの?」

「おかしな手紙が届かなかった?脅迫めいた手紙がまた来たんだよ。きっと誰かが陥れようとしている。」

「ええ!来たわ!」

「その手紙残してる?」

「あるわ。処分したかったけど捨てて見つかるのが怖かったの。」

 弱ってふらついたシャルロットをシリルは支えた。

 シャルロットは本の間からくしゃくしゃになった手紙を取り出した。


「読んでいい?」

 シリルは手紙を広げた。

 はらわたが煮えくり返った。

「ひどいことを・・・絶対許さない!」

「うん・・・でもあの日、助けてくれてありがとう。」

「本当に間に合ってよかった。」

「うん。あの・・・薬って・・・私どうなってたの?何も覚えてないの。」

「え?ああ、なんていうか・・・ぐったりしてたかな。」

「そう。その程度の薬でよかったわ。おかしな姿見られなくてよかった。」

 ホッとしたように笑うシャルロットに罪悪感で一杯だった。 


 話すなら今しかないと思った。しかし先ほどまでの絶望したシャルロットを思い出すと、話せなかった。

 揺れ動いていた気持ちが定まった。とても不誠実な事かもしれない、でもあの日のことは墓場まで持っていくと決めた。


 生涯シャルロットを幸せにすることが自分にできる唯一の贖罪だ。

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