第4話 シャルロットが見るもの

 シャルロットはお茶を飲みながら物思いにふけっていた。

 ここのところシリルとの遭遇率が高い。

 しかも以前のような剣のある視線はなく、時々声をかけてくる。


(この間のあれ、見られちゃったからかなあ)

 先日の夜会であれだけ苦しんでる姿をみたら、嫌いな相手でも気になるだろう。

 あのきつい侮蔑を湛えたまなざしで見られなくなっただけでも、ずいぶんありがたい。精神的な負担が減るというものだ。


 あの時は予期せぬ「死」を体験してしまったせいで醜態をさらしてしまった。


 ジェラルドの知り合いに声をかけられて顔を上げたとき、その後方で談笑している男性が目に入ってしまったのだ。できるだけ人をみなくて済むように下を向いていたというのに。



 馬車で移動中に落石があり、壊れた馬車の破片と大きな岩に腹部を押しつぶされ死に行く男性の姿が、談笑している男性の姿に重なって見えた。

 と、ともに自分の腹部が重くえぐられるような痛みに襲われた。彼の味わう苦痛、恐怖を我が事のようにシャルロットは感じ取っていく。

 シャルロットは他者の死を予見するだけではなく、彼らの味わう苦痛をそのまま体験しているかのように感じ取ってしまう。これまで何度も何度も死を体験した。恐怖と痛みで壊れてしまいそうになるのをモーリア夫妻がいつも寄り添ってくれた。

 そして「死」を見ることがないように社交に出なくて済むように手を尽くしてくれた。おかげでほとんど死を体験することはなくなった。


 本当は一歩たりとも屋敷を出たくはない。本音を言えば部屋から出たくない、使用人に死を見ることがあるからだ。

 それでも、こんな自分を引き取り大切に大切にいつくしんでくれた侯爵夫妻のためにこの力を利用してほしいと自ら申し出た。王宮で国王に仕えるジェラルドにとって、王族とこの国を支える重鎮たちに死の影が迫っていないか確認することは非常に有益になるだろう。


 しかし、ジェラルドは反対した、シャルロットの身を犠牲にしてすることではないと。

 それでも自分を苦しめるだけのこの忌まわしい能力が何かの役に立つのなら、誰かの命を救うことができるのなら、自分も救われると説得した。

 そして時折、王宮の夜会に参加することになったのだ。ただし、国王にも側近たちにもその事実は知らせていないらしい。

 夜会などでさりげなく顔を合わせて確認し、シャルロットが予見すればその情報をもとに死を回避するように手をまわしているということだ。

 この能力を知られると、国に利用され生涯苦しむことになりかねない、ジェラルドはシャルロットのことを思い、すべてを秘密裏に行ってくれた。


 シャルロットの負担を考えていつでもやめるように言ってくれてるが、王族や貴族といえども年がら年中、事故や暗殺対象になるわけではない。まれにしか起こらないからと続けさせてもらっている。

 今回も王族はじめ重鎮たちに異常がないことを確認し、さっさと王宮を後にしようとしていたところ予想外に見てしまった。


 馬車に乗って遠出を避けるように忠告してあげたかった。

 しかし、だれかれ構わず声をかけることはジェラルドから止められている。言っても信じてもらえず不審者と思われる可能性、もし信じてもらえた場合シャルロットの力が公になってしまう事、そして何よりすべての人の死をシャルロットが背負うことはないと言ってくれた。

 それでも知っていて黙っているのは後ろめたく罪悪感で胸がつぶれそうになる。


 ジェラルドはその気持ちをくんで相手の素性が分かった場合は手紙で危険を知らせてくれるようになった。その後どうするかは当人にゆだねることになるが注意だけでもするようになるだろう。

(馬車での外出をやめるか、道を変えるか・・・計画変更してくれてたらいいな)


 一人でも助かる命が増えれば自分の苦しみも報われると思った。

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