第48話陞爵?

幸運な事に今回は怪我もない。

結局今回の戦いで、俺自身は直接的に敵とあいまみえる事は一度も無かったが、とにかく勝ててよかった。

全身の力が抜けどっと疲れが押し寄せてくる。

俺は無傷だったが、多くの兵の命が絶たれ、あたりには土地ぼこりと血の匂いが充満している。

気が緩むと、途端吐き気が襲ってくるが、多くの兵が周りにいるので必死に堪え、レクスオールの陣へと戻って来た。

戦後処理と言われても正直何をどうしていいのか全くわからないので、ギルバートさん達に丸投げして少し休ませてもらう事にした。

分かりきっていた事だが、戦争が起きると人が死ぬ。

そして今回のように数千の兵が当たれば、当然数千の命が散る。

この非現実的な事象は、紛れもない現実。

今回、レクスオール軍に被害はあまり出ていないと思うが、ベルメール軍にはかなりの被害が出たはずだ。

そして敵とはいえサンドニ軍の兵士の命を多く奪ってしまった。

割り切らないといけないのはわかるがこの時代に来てまだ三ヶ月程度で元の時代の感覚が抜け切る事はないので、こればかりはどうしようもない。

俺達はその後数日その場にとどまり、ようやくレクスオール領へと帰還する事ができた。

レクスオール領に入ると住民が皆歓迎してくれ、屋敷に帰るとリティアが涙を流して迎え入れてくれた。

リティアを見てようやく家に戻ってくる事ができたと実感する事ができた。


「では行ってまいります。ラティス様はお疲れを癒やしてください」


それからギルバートさんとユンカーは報告があると言い残しすぐに王都へと向かい、その間俺はゆっくりさせてもらう事ができた。

戦争をした後すぐに出立出来るギルバートさん達の体力には驚きを隠せないが、家でリティアに作ってもらった料理を食べると久しぶりに味や匂いが感じられて、ようやく尖った神経が落ち着いた気がした。

まだ三ヶ月しか経っていないが、ここが自分の家だと感じられる。

気がついたら戦ってばかりな気がするが、久々に元の生活同様、ゆっくりした生活を送っていたが、王都まではかなり距離があるのか、ギルバートさん達が帰って来たのは、それからひと月近く経ってからだった。


「ただいま戻りました」

「王都って遠いんだね」

「それもありますが、今後の処遇について聞いてまいりましたので少し時間がかかってしまいました」

「そうなんだ」

「ラティス様! お喜びください! この度の功績を鑑みて准男爵に叙爵される事が決定いたしました」

「ああ、そうか」

「ラティス様、れっきとした貴族となられるのですよ。嬉しくないのですか?」

「いや、それはもちろん嬉しいけど」

「それと、准男爵になられると同時に、今までの領地に加えメルベール男爵領を拝領することとなりました」

「ベルメール領? なんで?」

「はい。ベルメール男爵には後継がおらず、今回の叙爵で寄子の中でラティス様が最上位となられるゆえ、ベルメール領を拝領することとなりました。合わせてベルメール軍の人員もレクスオール准男爵家へと接収することとなりました」


このタイミングで准男爵となるのはレクスオール戦記に記されていた通りなので、驚きは無いかったし、ベルメール男爵領を引き継ぐのは、おかしな事ではないが、問題は今回の叙爵に為に王都まで出向かなければいけなくなった事だ。

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