第44話 夜明け前
「ラティス様よろしいでしょうか」
「うん、どうかした?」
「はっ。ベルメール軍の半数以上はリクエ軍の兵士です。聞いて回ったところ、既存の兵との訓練もあまりしていなかったようです。残念ながら軍としての練度は低いようです」
「そうか」
「皆ラティス様が後方で控えている事を聞いて喜んでいます」
「喜んでる?」
「はい、元々リクエ軍の兵はメルベール男爵に降ったのではなくラティス様に降ったのですから」
「グラディス。わかってると思うけど外ではその事は言っちゃダメだよ」
「もちろんわかっております」
グラディスの話でなんとなく、ベルメール男爵が討たれてしまった理由がわかった気がする。
いきなりの大軍の編入。
俺みたいに敵が来るのをわかってなければ、いきなり増えた大軍を訓練しようとは考えないかもしれない。
数が数千ともなれば訓練だけでも大変だろうし。
つまりは烏合の衆。
人数は多いが練度は低い。
しかもまだ編入されたからそれほど日が経っていないのでベルメール男爵への忠誠心も低いのだろう。
このせいで数に劣るサンドニにやられたんだろうな。
「グラディス、ここだけの内密の話だけどいざとなったら旧リクエの兵をまとめる事はできるか?」
「それは……私だけでは難しいかと思いますが、ラティス様が前に出られるのであれば可能かと思います」
「俺が前に……そうか。まあ頭の片隅にでも入れておいてよ」
「はっ」
俺が前にか〜。できればこのまま後に控えたままがいいんだけど、そういう訳にもいかないのかな。
そして戦いは続き運命の五日目を迎えた。
俺の神経は過敏すぎるほどに尖って、昨日は全く眠れなかった。
今日起こるのか?
怒ったら動くしかないが、色々想定してみるが、どういう形でベルメール男爵が討たれるのかわからないので、頭の中はまとまらない。
「ラティス様、いよいよですかな」
「明日かもしれないけどね」
「まあ、なるようにしかなりません。兵たちにはすぐ動けるようには申し付けております」
「助かるよ」
全身がヒリヒリするようなプレッシャーを感じながら最後尾で戦況を伺うが、昨日までとそれほど変化は見て取れない。
相変わらず、サンドニ軍は弓隊中心に攻撃してきているので、ベルメール軍の最前線に被害は出ているものの大勢に影響が出る感じではない。
ベルメール軍も全軍押し上げる様子もなく時間だけが経過し一日が経過してしまった。
「どうやら今日も終わったようですな」
「ふ〜そうみたいだね」
「これで決まりですな。明日ですか」
「そうだね。明日だろうね」
これで決まりだ。レクスオール戦記が間違っていない限り明日戦いが終わる。
ついに俺たちの出番が来るという事だ。
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