第12話 実技試験
翌日。アユムはマリーと一緒に街の中心部にあるユニオンへやって来た。
人混みが嫌いなのか、出不精なのかわからないが、マリーは散々アユムについていくのを渋っていた。地図だけ渡して行ってこいとごねていたが、アユムが散々口説き落とし、とうとう根負けしてついてきたのだ。サングラスをかけて顔をすっぽりフードで覆い隠すという怪しい変装でついてくる彼女を見て、アユムは苦笑いする。ユニオンに苦手な人でもいるんだろうか。
入り口で怪しい格好のマリーと別れて、アユムは試験会場に入る。試験会場にはアユムを含め十人程度がいて、みんな『万点屋』を読んでいた。考えることはみんな同じらしい。
そうしているうち、とうとう試験の
実際に問題を見るまではアユムも半信半疑だったが、マリーの言葉通り、試験問題は『万点屋』に載っていたものが、順番だけ所々変えつつもそのまんま出題されていた。これでも一応国家資格というのだが、今のアユムに国の制度を心配している余裕はない。万点屋を解きまくった記憶を頼りに、凄まじいスピードで問題に解答していく。走り出したペンは止まらなかった。
試験が終わると、ロビーの電光掲示板に合格者の受験番号が点灯する仕組みになっているのだが、アユムを含め全部の番号が点灯していた。試験ってなんだろう……と思うアユムであったが、何はともあれ無事に筆記試験合格である。この後の実技試験で合格すれば、晴れてレムレスを操るためのライセンスを取得できるのだ。
実技試験が行われるのは屋外広場だ。学校の校庭と同じくらいの広さのグラウンドに受験者が集まってくる。やがて試験官らしいおじさんがやって来て、メガホン片手にアナウンスを始める。
実技試験の内容は至ってシンプル。試験官の操るレムレスを倒す。ただそれだけ。
一応、倒すまでに掛かったタイムも計測されるらしいが、とにかく倒せば合格できる。
試験官も相手が初心者であることは承知しているので、かなり手加減するのが普通。野生のレムレスでもだいぶレベルが低いものを相手取るのと同じくらいの感覚である。
ただし、使用できるレムレスは一体のみ。ルビー:カーバンクルの能力には未だ未知の部分が多く、イトミクの方が幾分、能力についても把握している。そうした理由から今回はイトミクで挑むことにしたため、ルビーカーバンクルはお留守番である。とはいえ放置していると騒ぎを起こしかねないため、観客席でマリーの監視下に置かれていた。
受験者たちの戦いの様子を見ていたアユムは、レムレスは本当に色んな種類がいるんだなぁと思っていた。能力にしたって、空を飛べるものや、水地に適してそうな種類もいる。見た目だけで言っても、人みたいなものから鳥や猫みたいな動物っぽいもの、よくわからないものまで様々だ。マリーから聞いた話によれば、レムレスは共通して結晶石に反応する魔力生命体とのことだが、そう言われてもアユムには、こんなに色んな種類の生物がレムレスという一つの括りで纏められるのがなんとも不思議に思えた。
そんなことを考えているうちに、アユムの番がやって来た。
「次。レムレスを結晶石から召喚して」
試験官のおじさんが結晶石の封印を解いて繰り出したのは、ポッピーという鳥型のレムレスだ。スズメやツバメ程度の大きさで小鳥で体は緑っぽい色をしている。その他には尾羽根が体と同じくらい長いのが特徴だ。
アユムも試験官に合わせて召喚する。結晶石から現れたイトミクはやる気十分の様子で、頭の角も興奮色に発光している。
「認定試合、はじめ!」
試験官の掛け声で試験試合が始まった。
レムレス同士の戦いは通常素早さに応じて行動順が決まる。
試験官の繰り出したポッピーは見かけ通り、素早い動きで先制攻撃を仕掛けた。上空から勢いよくイトミクへ突撃してくる攻撃は体当たりというより、コンドルダイブと呼ぶべきか。だが、動きは直線的なためかわすのは容易い。動きを観察しながら、アユムの指示でイトミクは冷静にポッピーのコンドルダイブを回避する。
応撃を仕掛けようと念力の動作に入ったが、ポッピーの素早さはアユムの予想の上を行っていた。
ポッピーは空中で旋回し、勢いを弱めることなく再びイトミクに迫る。一度は避けることができても、続けざまの攻撃には対応できない。
ポッピーの鋭い一撃がイトミクにまともに命中した。
ちょっと本気出しすぎたかな、と試験官のおじさんは後悔する。
素早い動きを得意とする飛行型のレムレスに対して、イトミクのような念属性攻撃を主体とするレムレスは基本的に相性が悪い。三次元的な飛行能力を念力で捕捉するのが難しいからだ。一撃目をかわせたまでは良かった。……が、所詮こんなものだ。ライセンスを得れば、街の外へ自由に出られるようになる。このレベルでは怪我人を増やすだけだ。
試験官の思惑通り、ポッピーの攻撃を正面からくらったイトミクはもはや立つこともかなわず、がくりと膝をつく。ここらが潮時だろう、試験官はそう思った。
……おかしい。
膝をついたイトミクがそのままピクリとも動かない。ふと、受験者の方を見ると、彼は企みが成功したようにニッと笑っていた。
「今だイトミク!」
アユムの掛け声とともに、膝をついていたイトミクの姿がぐにゃりとひしゃげ、霧のように姿を消す。
試験官が気づいたときにはもう遅い。ポッピーの背後に現れたイトミクは両手を掲げ、渾身の念動力でポッピーを地面に叩きつけた。落差もあいまって、相当なダメージが入り、ポッピーはあっけなく戦闘不能になってしまった。
実技試験はアユムの合格である。
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