第一章 ―― 邂逅 ~ Chance meeting ~ ――
第1話 謎の小人 と 白の本
小鳥のさえずるような音で青年は目を覚ます。それと同時に誰かが棒か何かでつついてくる。
つんつん。つんつんつん。
恐る恐る、刺激しないように慎重につついている。
全身に感じるひどい
するとそこには見たことない景色が広がっていた。
つんつん。つんつんつん。何かがまたつっついてくるが、姿は見えない。
ゆっくり体を起こすも、まだ血の巡りが悪いせいか、頭がぼんやりしている。覚醒しきっていない体はあちこちが鉛のように重だるい。自分がどうしてこんな見知らぬ森の中で眠っていたのか思い出そうとするも、記憶が交錯していて、
つんつん。つんつんつん。いい加減
「なんだ、さっきからしつこいぞ! 誰だよ!?」
先ほどからちょくちょく棒状のものでつつかれていたが、青年の声に反応する者はいない。おかしい。たしかに棒か何かでしつこくつつかれたんだが……これはあれか。ポルターガイスト的なやつで、自分は幽霊的な存在の攻撃を受けているのか?
かさ、と葉っぱを踏む音がして、音がした方を振り向くと……なんか、いた。
木陰からちょこんと顔を出すようにして、青年の方をじっと観察しているのは、青年がこれまで見たことがない生き物だった。小人、とでも言い表せるだろうか。大きさはせいぜい40㎝ほどのそいつは、青年の先ほどの声音にすっかりびびってしまったのか、警戒するような目つきで青年をじっと見つめている。その瞳は紫で、体は白色。日焼けしてない白色ではなく、雪のように真っ白な色をしている。その出で立ちは明らかに人間のものではない。
一方の青年もまた、見たことがない謎の生物との出会いに困惑していた。
もしかして、宇宙人? UMA的なやつ? 何にしろ、話のいいネタになるかも。
……などと呑気なことを考えていた。この時はまだ夢の中の出来事なんだと思っていた。
「お、おいお前。俺の言葉がわかるか?」
宇宙人ならもしかしたら言葉が通じるかも……そう思って声をかけてみたが、反応はない。変な小人はなおも、青年をじっと見つめたまま、木陰から動こうとしない。
謎すぎる小人に構っていても仕方ない。青年は小人を放置して、現在自分が置かれた状況を整理することにした。
夢にしては随分変わった設定の夢である。自分が倒れていた場所。
体の方はだいぶ覚醒してきたが、記憶は未だ
記憶喪失になってしまったのか!? しかも、こんな……どこかもわからない森の中で。
たぶん、おそらくこれは夢だ。青年――アユムはそう結論付けることにした。
もしもこれが……見知らぬ大森林で遭難したあげく記憶喪失なんて事態が夢じゃなかったとしたら…………思わず背筋がぶるりと震えた。
よそう。こんな状態では悪い想像をするばかりだ。
幸い、謎の小人もこっちを観察してるだけで、攻撃してくる様子はないし、何か状況がわかる手掛かりを探してみよう。もしも夢だったとしても、何かのアクションを起こすことでシーンが進むはずだ。
着ていたズボンのポケットをひっくり返すも何も入っていない。
そんな時、謎の小人が棒で足元をつついてきた。アユムに攻撃の意思がないことがわかったのだろうか、瞳からどことなく警戒の色は弱まったような、いや気のせいかもしれない。
小人は棒で何かを指し示す。そちらに何かあるとでも言いたげにズボンの
小人についていくと、先ほどアユムが倒れていた場所のすぐ近くに一冊の本が落ちていた。手帳と言いうよりはハードカバーの小説ぐらいのサイズの本だ。
「お前、探し物手伝ってくれてたのか? ありがとう。……さっきは怒鳴ってごめんな」
アユムがつぶやくと、小人はぱっと嬉しそうな表情を見せると、頭についていた小さい角状の物体が突然、桃色に発光した。光はすぐに消えてしまったが、謎の小人はやはり謎の生態を持っているらしい。言葉は通じないが、どうやら照れているようにも見える。ひょっとすると結構内気な性格なのかもしれない。生来シャイな性格のアユムは小人に対して不思議な親近感を覚えた。
小人が見つけてくれた本を手に取って調べてみる。厚さはアユムの親指の長さ程。表紙はかなり硬くしっかりしている作りだが、文字もイラストも何も描かれていないまっさらな状態だ。流し目に最後までパラパラとページを捲ってみたが、代わり映えしないまっさらなページだけが続いている。文字も絵も何も書かれていない、白一色のページが延々と続いているだけの奇妙な本。この本は一体何なのだろう…… 疑問は晴れない。なんの手掛かりにもなりそうにない。少し期待してしまっただけに、ひどく損した気分である。アユムががっくり肩を落としていると、小人が何やらズボンの端を引っ張ってくる。頭の角みたいな部分が先ほどとは違って青い光を帯びている。何かを伝えたいみたいだけど、アユムには小人が何を言わんとしているのか理解できない。すると、どういうわけか持っていた本が一瞬、きらりと光り輝いた。
「な、なんだ……!?」
まるでこのページを開きなさいと言わんばかりに、本の中央あたりのページが微かな光を放っている。不審に思いつつ光っていたページを開くと、先ほどまで真っ白だったページに文章が記載されていた。アユムが書いたわけではない。文章が一人でに浮かび上がって来たのだ。
「……どういうわけだ? さっきまで何も書いてなかったのに……しかも、これ手書きっぽい文字だな。しかし、字が汚くて読みづれぇ……んーと…………、
『名称:イトミク。分類:亜人種。属性:念。大きさ:0.4m。重さ:0.3kg。
解説:幼い少女の見た目に反して強いサイコパワーを持つレムレス。頭のツノで感情を読み取るらしい』
……これってもしかして、お前のことなのか?」
ふむふむ……ところどころ、意味のわからない用語が混ざってるが、どうやら本に書いてある文章は、おそらくこの謎の小人のことを解説した文章みたいだ。解説がざっくりしすぎてよくわかんないが、この小人……イトミクという名前なんだろう。イトミクは角を赤く発光させたまま、しきりにズボンの裾を引っ張って何かを伝えようとしている。頭の小さな角で感情を読み取ったり、表現したりするらしい。言葉こそ通じないが、角の光で気持ちを読み取れるかもしれない。かなり
「お前、イトミクっていうのか……。頭の角の光で気持ちを……ふーん。さっきは桃色に光っていたから、照れていたわけか。ふっ、意外と恥ずかしがりやなのかお前。えーと……平常時は紫、黒は怒り、緑は友好、青は恐怖を表すみたいだな。今は青く光ってるから……」
その時、突然、それまでの
……かと思えば、次の瞬間。付近の草葉の陰から子犬のような小さな獣が飛び出してきた。
一瞬の出来事だったが、子犬はアユムたちの頭上を飛び越え、そのまま木立の中へ消えていった。一体、何だったんだろう……。
ぼんやり立ち尽くしていたアユムの腹の辺りにイトミクが体当たりしてきて、アユムは背中から幹にぶつかって倒れた。イトミクの突然の攻撃に面食らいながらも、アユムは体を起こしてつぶやく。
「なっ……お前、急になんだよ!?」
ついさっきまで友好的な態度を見せていたから油断していたが、よくわからない謎の生物であることには変わりない。
そんな考えが頭をよぎった直後――うなりをあげる
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