58. もう一つの技術
「ルシアナ様、上手くいったのかしら?」
「大成功よ。みんなにも乗ってもらいたいくらいよ」
本部に戻るとすぐに、レナ様が声をかけてきたから、笑顔でそう返す。
すると、彼女も笑顔を浮かべて、こんなことを口にした。
「それなら、私も乗ってみたいわ」
「扱いが少し難しいから、最初は庭の中だけでお願いするわ」
「分かったわ」
レナ様に続けて私も乗り込んで、操作を説明する。
特に難しいことは無いのだけど、さっきの私達のように車を横倒しにしないように、曲がる時はゆっくりにするように伝えた。
「これは良いわね。馬車と違ってすぐに止まれるから、人を轢いてしまうことも少なくなりそうね」
「ええ。でも、馬車よりも速いから事故を起こした時に怪我をしやすいのよね」
「調子に乗って早くし過ぎないように気を付けないといけないわね」
そんなお話をしている間に一周を終えたから、工房の人達にも試してもらう。
全員、満足そうにしていたから、問題も無さそうね。
だから、これからはこの車を作るように指示を出した。
そんな時のこと。
カーリッツ帝国から戻ってきた人――ジークさんから、私と話がしたいという申し出があった。
「話って何かしら?」
「鉄道についてです」
「鉄道? 聞いたことが無いわ」
危険なものかしら?
そんな不安が浮かんできたから、すぐに面会の時間を作った。
危険な状況でもすぐに対応できるようにと、レオン様にも同席してもらっている。
相手が殿方だから、という理由もあるけれど。
「詳しく聞かせてもらえるかしら?」
「はい。カーリッツ公国では御者不足を補うために、二本のレールを道に埋め込み、その上に馬車を走らせているようです。
車輪を円錐を組み合わせた形にすることで、直線でも曲線でも真ん中を走り続けるそうです。
魅力的なのは、後ろに荷車を何台でも繋げられることです」
テーブルの上に広げられた写真を指差しながら説明してくれるジークさん。
帝国とアスクライ公国の間で物のやり取りが増えたから、馬も御者も足りなくなってしまっている。
人の移動も盛んになっているから、乗り合い馬車だっていつも満席だ。
そんな問題も、この鉄道というもので解決出来るらしい。
横に避けることが出来ないから事故が多発していることも教えてくれた。
「鉄道専用の道を作ったら、事故は無くせそうね」
「そうだな。それに、例の動力があれば人が一人だけで大量の荷物を運べるようになる」
「ええ。この鉄道というものを私達の国にも作りましょう!」
「あのー、そんなすぐに決めて大丈夫なんですか?」
「こういうものは早さが大事なのよ!」
決めたら即行動。
レオン様と手分けして、庭に鉄道の実験用設備を作ることにした。
情報は十分すぎるくらいジークさんが持ってきてくれたから、私達は欠点を減らしていくだけ。
まずは、同じ間隔で穴を空けた木の板を何枚も用意して、錬金術でレールも作っていく。
木の板に固定するための金具も錬金術で作っていく。
別れ道の形が複雑だから、その部分に使うためのレールも錬金術で。
曲線は……真っ直ぐなレールを曲げれば良さそうね。
レールの幅は、馬車の車輪の幅と同じ一メートルより少し大きいくらいに決めた。
私の背丈より短いけれど、馬車の車輪の幅と同じくらいの方が都合が良さそうなのよね。
「荷車の幅はどうしますか?」
「安定させることを考えたら、三メートルが限界だろう。それよりも少し短くした方が良いと思う」
「分かりましたわ」
レオン様に言われた通りの大きさの荷車を作るための部品も用意する。
どれくらい作業していたのかしら?
実験のための装置が完成したときには、すっかり陽が傾ていた。
「金属同士だと滑る気がするが、大丈夫なのか?」
「とりあえず、試してみましょう」
夕食の時間までは余裕があるから、そのまま実験に入る私達。
まずは車単体で動かしてみたのだけど……。
「車輪の角度を変えなくても曲がるなんて、すごいですわね」
「ああ。これなら操作も楽になる」
……問題が起きることなく動き出していた。
「揺れも少ないな。つなぎ目で少し揺れるくらいか」
「この技術、すごいですわね……」
でも、水で一杯にした荷車を五台繋げて引こうとしたら、問題が起きてしまった。
「加速が鈍いですわね……」
「ちょっと様子を見てみる」
中々早くならないから、レオン様が様子を見るために飛び降りてしまった。
その直後、こんな言葉が耳に入った。
「車輪が空回りしている」
「車を重くした方が良さそうですわね……」
一度動きを止めてから、馬車の試験用に用意してある
それからもう一度試してみると、今度は車単体の時の半分くらいの勢いで速くなっていった。
「成功だな」
「ええ。もう遅いですし、私はそろそろ屋敷に戻りますわ」
「俺もそうしよう」
もう陽は落ちてしまっていたから、屋敷に戻るために車から降りる。
レオン様も今は私の屋敷で暮らしているから、そのまま一緒の馬車に乗り込んだ。
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