53. 新しい発見

「大丈夫……?」

「ごめんなさい。怒りでどうにかなってしまいそうだったの」


 頭を抱えたまま動かなかった私を心配したのか、手紙を届けてくれたレナさんから声がかけられた。


「貴女が分かりやすく怒るなんて、珍しいわね」

「こんな手紙を送られて、怒らない人は居ないと思うわ」


 今すぐにでも送り主を怒鳴りたくなるような内容の手紙をレナさんにも見やすいようにする私。

 彼女も中身に目を通すと、深いため息をついていた。


「これは酷いですね。返事はどうされますか?」

「お断りします、とだけ書くつもりよ」

「いつも書いている理由、今回は書かないのね。一応、相手は王家よ?」

「滅びるのも時間の問題だから、書くだけ無駄よ」


 国王が倒れてから、マドネス第一王子とサリアス第二王子の両者が王に即位したとする宣言を出している今の状況。

 馬鹿でも少し考えれば、王位争いが起こることはすぐに分かる。


 実際に、サリアス王子はアスクライ公国と同盟関係を結んで、マドネス王子を捕らえようと動いている。

 この対立が無くても、今は亡き国王が大暴れしたことで王宮に仕える使用人の大半が辞めてしまった。


 今の王宮の使用人は、聖女候補の専属になっている侍女以外は、私の商会から出した内部調査のための人だけになってしまっている。

 無能な国王を支えていた貴族達も、王国を離れてアスクライ公国に入っているから、今の王家にかつての栄光は欠片も残っていない。


 だから、マドネス王子が中心となる王家が残る未来はあり得ないのよね……。


「書くだけ無駄……確かにそうね」

「返事を書いたから送っておいてもらえるかしら?」

「分かったわ」


 レナさんが部屋を後にしてから、今月の報告書に目を通す私。

 これは各支部から送られてきた報告書をレナさんが纏めてくれたもの。


 私が纏めるよりも見やすくなっているから、すぐに情報が頭に入ってくる。



 簡単にまとめると、売り上げの動向はこんな感じ。


 先月売り上げが落ちていたカーリッツ公国での売り上げは、普段の倍近く。

 アルバラン帝国での売り上げは先月から少し増えている。

 アスクライ公国での売り上げはグレール王国だけの時と変わらないけれど、利益は十倍以上になっていた。


 重税が無いとこれだけ変わるのね……。

 分かっていた事でも、こうして実際に数字を見てみると驚いてしまう。


 それから十分ほどかけて報告書を読み終えた私は、一度休憩してから魔道具開発に戻ることにした。




「ルシアナ様も休憩ですか?」


 休憩室に入ろうとしたとき、私に続けて休憩に来た広報担当の人にそんな声をかけられた。

  

「あなたも休憩かしら?」

「ご一緒しても宜しいでしょうか?」

「ええ」


 頷きながら、金属でできている容器に水を入れようと水魔法を使う。

 まだ上手く魔力を調整できないから、普段は食器を洗うために使われている流しの中で使ったのだけど……。


「あっ……」


 慌てて魔力を止めた時には、流しから溢れそうなくらいの水の塊が出来上がっていた。

 その塊は、そのまま流しの中に吸い込まれて行って、水飛沫を上げていた。


 でも、必要な分の水は容器に残っているから、そのまま火を出す魔道具の上に持っていく。


「貴女の分も淹れていいかしら?」

「良いのですか? ありがとうございます」


 お湯が沸くのを待っている間に、雑談を交わす私達。

 そんな時だった。


 ボンッという音が聞こえたと思ったら、容器の蓋が吹き飛んできていた。


「危ないっ!」

「何よこれ……」


 声が聞こえた時には、蓋が顔の目の前に迫っていたから、咄嗟に手で防ぐ私。

 直後、手に熱いものが当たった感覚がしたと思ったら、蓋が床に落ちる音が響いた。


「ルシアナ様、大丈夫ですか?」

「ええ」

「驚きました……。何もしなくても蓋が飛ぶなんて」

「これは調べた方が良さそうね。

 蓋をこれだけ飛ばす力があるということだから、原因を見つけられたら摩道具に応用出来るはずよ」


 そういえば、普段は蓋の隙間から湯気が出ているけれど、今日は出ていなかった。

 溜まった湯気の力で蓋が吹き飛んだのかしら……?


 この予想があっているかは分からないけれど、確かめるために実験した方が良さそうね。

 

 でも、その前に。

 ちょうどお湯が沸いたから、お茶を淹れる準備を進めることにした。

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