18. 完成のお祝い

「王子がここに来るって、どういうことかしら?」

「詳しい目的は分かりかねますが、ルシアナ様の悪評を流す意図もあるものかと」


 私が問いかけると、そんな答えが返ってきた。

 もうグレール王国にも私の立場が知られているはずだから、こうなることは不思議ではない。


 念のためにと社交界に出る機会を作っておいて本当に良かったわ。


 ここアルバラン帝国の社交界は、基本的には帝国で爵位を授かっている貴族しか参加出来ない。

 けれども、それは主催者の裁量によって変わってくる。


 たとえばユーラス侯爵家が明日開くパーティーでは、広く交流を深めるという侯爵様の意思によって影響力を持つ平民までが招待されている。

 私はレナ様の友人として招かれているけれど、何かの手違いでアルカンシェル商会の長としても招待状を頂いた。


 招待されれば、エスコート役を伴うことが出来るけれど、エスコート役の態度次第では招待された人の評価も地に落ちる。

 今までも何度かレオン様と参加したことがあるけれど、私達の評価は高かったと聞いている。


 だから、帝国内で名が知れてないマドネス王子が悪評を流そうとしたところで、意味が無いとは思っているけれど……。

 対策は多ければ多いほど確実になるから、今回も慎重に行動した方が良さそうね。


「念のために王子の噂を流した方が良いかしら?」

「事実を話すくらいは良いけれど、敢えて広める必要は無いわ。馬鹿な人以外は、必ず裏を取ってから噂を広めるから」


 私の疑問に、そんな答えを返してくれるレナ様。

 王国では簡単に噂を鵜呑うのみにする人も大勢いたから不安になっていたけれど、帝国は違うらしい。


「そうなのね、ありがとう」


 お礼を言って、この場にいる皆に向き直る私。

 まだ歓喜の様相は変わっていないから、私達もその輪に混じることにした。


「ちょっと危ないわよ!?」

「大丈夫よ、少し怪我しても治せるから」


 ここ帝国では、ちょっとしたお祝い事でもお酒が飛び交ったりする。

 少し変わった風習に見えるけれど、宙に投げることで神様に届けるという意味があるらしい。


 ここ帝国で祀っている神様はお酒が大好物みたいだから、お酒を使うことにも納得ね。

 ちなみに、神様の文を横取りすることになるから、この場で飲むことは許されないらしい。


「ルシアナ様もやりますか?」

「ええ、貰ってもいいかしら?」

「もちろんです」


 酒瓶を受け取って、思いっきり振ってみる私。

 こうすると勢いよく瓶の口から中身が出るのだけど、そこそこ高級なものだから勿体なくも感じてしまう。


 でも、こうして神様にお礼をすれば次も良いことが起こるから、遠慮しないで瓶の蓋を開けた。




    ☆




 みんなで馬車の完成を祝った日の翌朝。

 私はレオン様とユーラス侯爵家の屋敷に向かっていた。


 今乗っている馬車は、試作品を元に作った馬車だから、今日の移動は快適だ。

 普通の馬車ならガタガタという音のせいで声が聞こえないことも大きいけれど、今は小さい声でも問題なく話せている。


「ユーラス家のパーティーに参加するのは久々だな」

「ええ。少し緊張していますわ」

「皆良い人なのだから、多少の失態くらいは問題無いだろう」

「そうですわね。でも、失態は良くありませんから」


 そんなことを話している間に、目的のユーラス邸に着いたみたいで、馬車が止まった。

 この馬車には、何かあった時にすぐに止まれるような機能もあるから、普段よりも強い減速感に襲われた。


 移動にかかる時間が半分になったことの代償ね。


「お待たせしました。到着致しました」


 御者さんの声が聞こえてきて、レオン様が先に馬車から飛び降りた。

 そのまま彼が踏み台を用意してくれたから、手を借りて降りていく私。


 馬車寄せには他の貴族や商家の方々もいるから、似たような光景がいくつもある。


「ありがとうございます」

「ああ。では、行こう」


 レオン様のエスコートで敷地の中に入っていく私。

 それからすぐに、ユーラス家の使用人さんが会場への案内を始めてくれた。



 無事に会場入りが出来た私達は、最初に主催のユーラス侯爵夫妻様に挨拶に向かった。


「本日はお招き頂きありがとうございます」

「こちらこそ、娘の招待を受け入れてくれてありがとう。是非楽しんでください」

「私も素晴らしい時間になるように努めさせて頂きますわ」


 挨拶を終えたら、他の方々との挨拶にも向かう私達。

 その途中で私達が挨拶を受けたりすることもあった。


 それから少しして、パーティーのはじまりを告げる曲の演奏が流れ始めた


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