安倍晴明物語番外編集
夢月みつき
安倍家の日常~赤く染まった頬~
「安倍家の日常」
ちょうど、十三話の事件が終わって、ひと段落ついた頃の話です。
本編にはあまり、描かれない晴明や美夕達の日常を書いてみました。
番外編は出来るだけ、本編絡みじゃ無い話にしたいと思って書いています。
他サイト様のイベントで書いた物です。
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ここは、都の
ここには鬼と人の
今日は早朝から、晴明が弟子の道満の霊力を高めるため。
修行を兼ねた法力くらべをしていた。
二人の青年、晴明と道満の前に木箱が二つ置かれている。
「道満。この木箱の中身は、何だと思う?」と晴明がすました顔で聞いた。
道満はにやりと笑い「
扇でパタパタとあおぎながら、涼し気な紫の瞳で道満の顔を見つめる。
「……本当に橙か?」扇をパチンと閉じ、木箱を交互に扇の先で軽く叩く。
その何でも、知っている紫のまなざしに道満は焦り始め、冷や汗を流し始めた。
「じゃあ、晴明ちゃんはなんだって言うんだよ~っ!?」と彼は口をとがらせて晴明を見る。
紫と茶色の瞳が交差する。その瞬間。
カタカタッ!
二つの木箱が勢いよく開き、中からハツカネズミが飛び出した。
「あっ! ねずみ!!」
晴明は素早く術をかけ、ねずみを捕まえた。
先ほどまでは生き物の気配や精気は全く、感じられなかった。
中身は、橙そのものだったはずだ。
晴明が術で橙をねずみに変えたのだと、道満は悟り悔しさで
顔を真っ赤にして晴明を睨んだ。
「にゃろう~! 陰陽術を使ったな?」
「私は、勝負の厳しさを教えただけ…さあ、そろそろ朝餉の時刻だ。
美夕と白月を待たせては、悪いからな。ゆくぞ。道満」と晴明は音もなく静かに立ち上がり、きびすを返す。
「ちぇっ! 解ったよ。美夕ちゃんと白月ちゃんを待たせちゃ悪いからね。行くよ!」
とまだまだ、諦めきれない様子で道満は晴明を横目で見ながら、
食事をする部屋へと向かった。
部屋の障子を開けると、美夕と鬼神の式神、
「晴明様、道満様。どうぞ。今日はお休みですので、たくさん卵を買いましたよ。」
と美夕はにこやかに言った。
「私は、
と白月は、自分の箱膳を持ってすうっと姿を消した。
「白月ちゃんもいても良いのに。」と道満が言うと。
「そうだな、しかし。白月なりの私達への配慮なのだろう。」
と晴明が、静かに言い箱膳の前に座った。
今日の朝餉は、
川魚の焼き物、新鮮な産みたての卵だ。
「うまそ~! 美夕ちゃん。いつも、ありがとね! いっただきまーすっ!」
道満は先ほどの不機嫌さが吹き飛んでいて、にかーっと笑うと手を合わせて食べ始めた。
「いただきます。」と晴明と美夕も、手を合わせて朝餉が始まった。
道満は強飯に汁物をかけて、卵に
晴明はあさりを食べながら、汁を静かにすすり強飯を一口口に運ぶ。
美夕はその様子をいつものようにちらっと見て、漬物をかじりながら微笑んでいる。
そんな朝の平和な食事風景。
朝餉が終わり、美夕が食器を炊事場で洗っていると、道満が入って来て美夕に言った。
「美夕ちゃん。水冷たいでしょ。何か手伝うことない?」
美夕は微笑み「大丈夫ですよ。それに、殿方に炊事仕事をさせるわけにはいきませんから。」と道満に言う。
その瞬間、道満は美夕を大きな身体で後ろから、
抱きしめてあごを頭の上にのせた。
「――道満様っ? どうしたんですか。いきなり」と美夕が頬を赤く染めている。
彼女の小さな胸が、ドキドキと鼓動して脈を打っている。
「俺とだんご屋に行かない? うまいだんごなんだ。」と大男の道満はまるで、少年のような純真な笑顔を見せた。
「良いですよ。おだんご好きですし!晴明様と白月さんにも聞いてみましょうか?」
と美夕が微笑みながら言うと、道満はガク―ッとうなだれ、
思わず小柄な美夕に少し体重をかけた。
「お、重い…」と美夕が眉根を寄せ、少し身をよじる。
道満ははっと気がつくと「重くしてごめん。でもね、美夕ちゃん。
晴明ちゃんと白月ちゃんは、いいんだよ……俺が一緒に行きたいのは、美夕ちゃんだけなんだ。」
と頬を染めながら、美夕の頬にちゅうっと口づけをして。
まるで、大型犬のような潤んだつぶらな瞳で見つめて来た。
「ど、道満様。私は……!」
と道満の口づけと熱視線に美夕は、頬を染めて酷く動揺したが。
晴明のことが、脳裏に浮かんで道満の気もちに気づかず困り、目を泳がせて困っていると。
何となく黒い霧がただよってくる気配がして、美夕と道満は横を見た。
すると、晴明が綺麗な微笑みを浮かべ、腕組みをして立っていた。
「道満。美夕に何をしているのだ?」
晴明は「ん?」と、道満に顔を近づけて見ている。
口元は笑っているが、目が全然笑っていない。
「せっ、晴明ちゃんには、美夕ちゃんは渡さないよ!?」
と少し震えながらさらに道満は、美夕を必死に抱きしめる。
晴明の左手が伸びてきて、道満の耳が強く引っ張られた。
「痛ててて! やめろ~!!」
抵抗するが、あえなく美夕から引きはがされた。
ガルルとうなる道満に「そら、あっちへ行け!」と軽くあしらい追い払うと。
「大丈夫か? 炊事場は冷えるだろう。
「ほら、ここもこんなに冷えている。」と晴明は、片方の手のひらで
美夕の頬を軽くさすった。
「晴明様まで…お気遣い嬉しいです。でも、大丈夫ですよ。私のお仕事ですし」
とにっこり微笑み、頬をさらに赤く染めた。
ドキドキと胸が高鳴り、心が温かくなる。
晴明は穏やかに微笑むと、「美夕、終わったら火鉢で身体を温めるのだぞ?
だんご屋なら私が今度、もっとうまい店に連れて行ってやろう。」と言った。
「ありがとうございます。晴明様!」と美夕は花のように微笑みかけた。
美夕は、別々の日に晴明と道満に連れられて両方のだんご屋に行き、
美味しいだんごと茶を
化け物とさげすまれて来た混血の自分でも、こんなに優しい方達に恵まれて。
とても、幸せだなあと美夕は今、身体中に幸福を感じているのだった。
(了)
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ここまでお読みいただきありがとうございます。
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