第14話

 セイラもとい、セシルと恋人関係になってから半月が過ぎた。


 季節も春から初夏に移り変わりつつある。おかげで日差しが強くて、日焼け止めクリームがあればと思う。この世界には似たようなお化粧品があるようなんだが。目をひん剥く程には、お値段が高い。なので、対策として長袖を着たりつばの広い帽子を被ったりはしている。学園ではできないが、別邸にいる間はそうしていた。

 セシルはセシルでカツラをつけているから、キツくなってくるだろうとは思っている。仕方ないので夏季休暇の期間は別邸に来ないかと誘ったのだった。


「……セシル、真夏になったらカツラはきついんじゃないの?」


「はあ、確かにきついですが」


「じゃあさ、私のいる別邸に来ない?あそこなら、気兼ねなく過ごせると思うの」


 そう言うと、セシルは目を開いて黙ってしまう。どうしたのかと思ったが。しばらく、沈黙が続く。


「……あの、いいんですか?」


「何が?」


「いえ、私が行ったら。ルイゼに迷惑が掛かるのではと思いまして」


 私はそれを聞いて、苦笑いした。セシルは心配してくれたらしい。


「大丈夫よ、あなたが私の友人なことはお祖父様も知っているわ。姉上やロバート先輩もね」


「はあ、なら。いいんですが」


「まあ、セシルが恋人なことはまだ話せていないけど」


「それは仕方ないですよ、ルイゼ。私は表向きは女ということになっていますから」


「わかってはいるのよ、けど。歯痒くはあるわね」


 私が言うと、今度はセシルが苦笑いする。今は王城にある彼の部屋にいた。実はライカ殿下にセシルもとい、セイラの部屋に行くと言ったら。王城に行くのと同義だからと許可証をもらった。これのおかげで王城に自由に出入りできるようになっている。


「……では、ルイゼ。夏の休暇に入ったら。あなたの別邸に滞在させてもらいますね」


「うん、私としてはいつでも歓迎よ」


「ははっ、そういう事を他の人には言わないでくださいよ」


「わかった、約束するわ」


「約束ですよ?」


 私は頷いた。今、セシルはカツラを外している。つまりは素の彼なわけで。


「え、ええ。約束する」


「では、ルイゼ。もう、遅いですし。別邸まで送って行きます」


「あ、もうそんな時間なのね。準備をするわ!」


 私は慌てて、立ち上がる。カバンにテーブルに広げていた教科書やノートなどを仕舞い込む。しばらくして、何とか片付けは済んだ。


「終わりましたか?」


「うん、何とかね」


「行きましょう」


 セシルが立ち上がり、カツラを被り直した。私は髪を同じように直す。そうしていたら、セシルにいきなり後ろから抱きしめられた。


「セ、セシル?!」


「……ルイゼ、少しだけ。こうさせてください」


 しばらくは黙ってされるがままになっていた。セシルはただ、それ以上はしてこなかった。


 抱擁が終わると、私はセシルと二人で停車場に向かう。手を繋いでだが。まあ、付き合い始めてまだ半月だし。キスはもうちょい、先かなあ。ぼんやりと思いながら、セシルとふと夕焼け空を眺めた。


「わあ、綺麗ね」


「そうね」


「セシル、あ。セイラの方がいいかしら」


「いいですよ、セシルで。二人きりの時くらいは本名で呼ばれたいですし」


「……そうね、そうするわ」


 私が頷くとセシルは笑った。はにかむような照れるような笑い方は可愛らしくて、少しキュンとなる。男なのにズルいというか。まあ、一人でムカッとしながらも馬車に向かう。

 たどり着くとセシルが御者に声を掛けた。御者は手早く、タラップを用意したりする。待っている間も彼は繋いだ手を放さない。


「……セイラ様、できました!」


「わかったわ、ダン。行きましょう、ルイゼ」


「うん」


 私が頷くとセシルは扉を開けてエスコートをしてくれた。中に先に乗り、彼は後で乗ってくる。扉が御者により閉められた。席に座ろうとしたら、セシルは隣にやってくる。そのまま、腰掛けてきたのだ。驚いて声が出ない。何食わぬ顔でまた、手を繋いでくる。口をパクパクさせていたら、馬車がゆっくりと動き出す。セシルはにっこりと笑いかけてきたのだった。


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