閑話③ 25日目 露天風呂(中編)




 予定通り、露天風呂の工事に着手した。


 まずは浴槽になるデカい穴とその周辺すべてを粘土材で塗り固め、風呂場の外周と浴槽の外枠には拾ってきた大小様々な石を配した。


 これだけでは味気ないので、タイルの代わりになりそうな丸っこい小石なども大量に拾ってきて、それを浴槽周辺の床へと隙間なくびっしり埋め込んだ。


 そこまでできればもう、終わったようなものだ。

 最後の仕上げとばかりにイフリートの熱でカチンコチンに固まらせれば完成となる。


 あとは水を引き入れる水道管を設置すればいいだけなので、泉から引っ張ってきた水道管から風呂場へと自動で水が流れるように専用のものを設置した。


 こちらは竹を半分に割ったものをたくさん用意し、家の東側をぐるっと一周させるような形で配管工事を行った。


 風呂に水を入れたいときだけ水が流れるように、スイッチ方式を採用した。


 泉から引っ張ってきている水道管の出口下には、半分に割った受け皿のような竹が設置されていて、それを風呂場に繋がる竹の方へと動かしたときだけ、受け皿の下に配してあった水道管に水が流れる、といった仕組みだ。



「さて、あとはこいつか」



 試しに水を張ってみた露天風呂は特に問題なさそうだった。


 一応、浴槽の下に排水口も作ってあるので、そこから流れた水は外堀へと繋がるようにしてあるが、その排水口から水が漏れ出ているという形跡も見られない。


 ならば、残すテストはあと一つだ。

 つまり、実際に水を熱して使ったらどうなるか、である。


 今回からは、この露天風呂に使用する水は事前に熱した水を入れ込むというやり方は取らないことにした。


 理由はいくつかあって、水の引き入れ方法が変わったからということもそうだが、それよりも、灼熱に焼いた石を水の中に突っ込んでお湯にする方が手っ取り早いということに気付いたからだ。


 この方法は既に何度も試しているので信頼度も高い。

 若干、ゴミなどがお湯に浮いてしまうので、そこは石を投入する場所の近くに板を立てることである程度防ぐつもりでいる。


 そういったわけで、真っ赤っかに焼けた石を投入場所に慎重に入れて行く。

 途中で温度を確かめながら、適温になるまで入れて、手を止めた。


 正確な時刻はわからないけど、大分日も傾いている。

 夕日に染まった銅色の海を眺めながら入るには丁度いい頃合だろう。



「うん。亀裂が入ってる感じもないし、大丈夫そうかな?」

「そうですね。ですが、本当にこういうお風呂が実際に使われている場所があるだなんて、実物を見ても信じられません」

「まぁ、エルはそうだろうね。何しろ、湯浴みという文化がなかったわけだし」


「えぇ。いつも、水浴びでしたからね。ですので、未だにお湯を身体に浴びるということに慣れてはいないです」

「でも、嫌な感じではないんでしょ?」

「はい。とても気持ちよくなれますから。お陰で、夜はぐっすり眠れますし」



 そう小首を傾げてニコッと笑うエルフィーネは今日も綺麗で可愛かった。



「それじゃぁどうしようか。飯食う前に入っちゃうのもいいし、食ってからでもいいけど。多分、このままほっといても水みたいに冷えることはないからね。何しろ、ここは常夏の島だし」


「そうですね。では、せっかくだから先に入ってしまいましょうか。どんな感じなのか、気になりますし」

「わかった。じゃぁ、俺は夕食の支度してるから、先に入っちゃっていいよ」



 そう言い残して、俺は風呂場の外周を囲うように張り巡らせてあったついたての外へと出て行こうとしたのだが、エルフィーネに腕を掴まれてしまった。



「あの、ユキが先に入ってください。私は準備がありますので」

「準備?」

「はい。あの……深くは聞かないでください」

「へ?」



 どこか恥ずかしそうに頬を赤く染めて俯き加減になってしまうエルフィーネ。

 俺はいまいちよくわからなかったが、とりあえず指示に従うことにした。


 エルフィーネが外に出て行ったのを確認し、素っ裸になると縁側テラスに服を置く。

 続いて手桶で風呂からお湯を掬って身体にぶっかけ、洗い場で身体を洗った。


 今では例の石けん代わりになる植物の葉液ようえきを固形化することにも成功していたので、身体を洗うのが楽になった。

 しかも、この石けん、身体にすり込むように洗うと美肌効果や日焼け防止効果まであるから一石三鳥だった。


 そうして身体も綺麗に洗い流してから湯船に浸かった。


 目一杯お湯を張ってあったから外に流れ出るが、身体を洗うときに出たお湯同様、それらはすべて、風呂場の外周に掘られている側溝を伝って堀へと流れていくようにしてあるから敷地内が汚れる心配はない。


 しかし、この方法でずっと使い続けていくと、やがて外堀から海へと流れ出た水によって、せっかくの綺麗な海岸が汚くなってしまうことが予想される。


 なので、下水の見直しもしたいところだったが、とりあえず今は無心になって風呂を堪能してみた。



「いやぁ、快適だ。こんな大自然の中で、しかも、身体伸ばして入れるとか、本当に久しぶりだな」



 ていうか、ここまで気持ちのいい風呂って初めて入るんじゃないかな。


 この島に来てからは最初こそ湯船に浸かる努力はしたけど、結局、身体にお湯をぶっかけて汚れを洗い流すだけになってしまったし、島に来る前は旅行なんてほとんど行ったことがなかったから大浴場とか露天風呂なんて、入った記憶もなかったからな。


 だから、覚えていることといったら、狭いユニットバスで膝丸めて入ってたことぐらいか。


 そうやって考えると、俺、今物凄く幸せなんじゃないだろうか?


 色んなことが嫌になって会社辞めたけど、そのあとで異世界召喚スキルなんていうおかしなもん手に入れて、エルフィーネみたいな見たことも聞いたこともないような絶世の美女であり、美少女であり、そしてメチャクチャ可愛くて、身体もエロ――スタイル抜群で。


 そんな子と一緒にこうやって二人きりで毎日楽しく過ごしている。


 時々おかしなのに絡まれたりもするけど、でも、それすら生活に色を添える重要なイベントに思えた。


 だから俺は多分、今とっても幸せなんだと思う。

 元の世界に住んでいる誰よりも。



「ふ~ん? ま、楽しくて何よりね」



 と、物思いに耽っていたら、いきなり目の前にミューミルが現れた。



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