5.無人島生活十日目を迎えました
なんだかんだでこの島で暮らすようになってから早十日目となっていた。
最初はこの先のことを考えて、どうしようもなく途方に暮れていたものだが、今となってはなんだか懐かしい記憶となっていた。
もう十日、まだ十日という微妙な期間ではあったけど、それだけ今の生活に慣れたということなんだろう。
それに――
俺の側にはいつもニコニコ笑いかけてくれる美人で可愛い女の子がいる。
多分、それが一番大きかったんだろうな。
彼女がいなかったらおそらく、というか、間違いなく、今の俺はない。
自分たちが住む家とかを嬉々として作っていることなんかなかっただろうし、そもそも、既に餓死かなんらかの中毒症状を起こして死んでいただろう。
本当に、エルフィーネ様々だった。
だけど――
そんな彼女ではあったけど、一点だけ、本当にやめて欲しいと思っていることがある。
それが、寝相の悪さだ。
いびきとか歯ぎしりなんかはあるはずないんだけど、エルフィーネはとにかく寝相が悪い。
今はまだ丸太小屋のリフォーム中だったから、相変わらず洞穴生活だったんだけど、朝起きると、毎回毎回、俺は抱き枕にされていた。
酷いときなんかは、俺の上に乗っていたことすらある。
色んな意味でやばかった。
目が覚めたとき、間違って彼女の柔らかくて形のいいお尻を触っていたことすらあって、あのときは本当にやばかった。
たぎり狂いそうになる煩悩を抑えることに非常に苦労させられた。
これ以上、あんな日々を過ごしていたら、間違いなく欲求不満で憤死するか、我慢できなくなって暴発して、エルフィーネに八つ裂きにされることだろう。
なので俺は今、非常に困っていたのだが、寝ている最中に絡みついてくる当の本人はまったく覚えていないらしいから、なんというか、これはもうどうしようもない。
しかも、
「私、その……抱き枕がないと、よく寝られないんです……」
ということだった。
恥ずかしそうに俯く彼女を見ながら、俺はただ、
「ま、まぁ、気にしなくていいよ」
と、照れ笑いを浮かべることしかできなかった。
◇◆◇
「こんなものかな?」
俺は目の前の光景に満足して、一人、ニヤッとしながら呟いていた。
「本当に綺麗になりましたね」
「うん。これもすべて、エルが頑張ってくれたお陰だよ」
「あら? 何を言ってるんですか。私たち二人、ですよ?」
少し口を尖らせ、可愛らしく笑うエルフィーネ。
「……そうだね」
そんな彼女に、俺は苦笑した。
そして、もう一度、視線を前へと向けた。
そこには本当に見違えるように綺麗になった床板が広がっていた。
結局、床板をすべて張り替え、壁や天井の埃などを払い落とすのに七日もかかってしまった。
改修作業に必要な道具なんかは、ささっと召喚して準備したり、森の中から材料を集めたりしたので、そちらは簡単だったんだけど、いざ、腐った板を剥がすのには苦労させられた。
思いの外腐食が進んでいたらしく、バールで引っぺがしたら途中でへし折れたりボロボロになったりと散々だった。
そうしてすべての床を剥がしてみたら、等間隔に張り巡らされた外壁外へと伸びている丸太だけの姿となり、エルフィーネが頑張って整地してくれた地面が見えるようになった。
その状態で防腐処置を施したり、整地のときに出た木材を使って床板を張ったりして、どうにかここまでこぎ着けたというわけだ。
それから、この張り替え作業と並行して、風呂場やキッチン、トイレなんかの整備も進めていた。
見たところ、この丸太小屋にはそういった設備がまるで備わっていなかったし、召喚した当初から調度品なんかもまるっきりない状態だったから、すべて一から準備しなくてはいけない。
まぁ、どうせあったとしても朽ち果てているだろうから、使えないしゴミになるだけだから、その方がありがたかったんだけどね。
そんなわけで、最終的な完成予想図なんかも地面に書いて、実際に場所決めをしていったわけなんだけど――
例によって、トイレの場所を決めようとしたとき、
「私には必要ありませんので、ユキの一存で決めてくださって結構ですよ? ただ、ど~してもって言うのでしたら、そうですね。家の裏手辺りに作るのはどうでしょうか?」
などと、死んだ魚のような目で言われてしまったものだ。
本当にこの人、意味がわからない。
ただ、彼女の示唆する通り、トイレに関しては場所選びは慎重になった方がいいだろうね。
何しろ、この島では水洗トイレなどというものは作れないからだ。
下水を作って、それを海に流すようにすればいいかもしれないけど、家作りとか一段落したら、普通に海水浴とかもしてみたかったし、そんな汚物まみれの海なんか入りたくもない。
だから、いい方法が見つかるまでは、汚い話だけど、汲み取り式にする必要がある。
そのため、匂いや衛生面を考えねばならなかった。
そういった理由もあり、寝所のすぐ近くに設置するのははばかられたのだ。
「それでどうしますか? とりあえず、中も外も綺麗になりましたし、あとはベッドとか用意すれば、今日からでも住めそうですが」
「そうだね、どうしよっかな」
物思いから現実へと意識を戻し、俺は改めて周囲へ視線を投げた。
精霊魔法を駆使してすべっすべに磨き抜かれた床材が一面に張り巡らさせている。
色合いはオーク材のような明るい茶色。
手触りもよく、さすがシルフィーといったところか。
エルフィーネ共々、いい仕事をしてくれる。
この床材を張るとき、釘などは一切使用しなかった。
というのも、金槌になりそうなものと一緒に召喚しようと思ったんだけど、なんかうまくいかなかったのだ。
だから仕方なく、この床材よりも固くて丈夫な木材を使って、木製の釘を打ち付けることにした。
他にも、どうやらこの森は本当に資源が豊富らしく、空気に触れると固まる性質のある樹液とかも採取できたので、それを接着剤代わりに使ってある。
一応、ウンディーネに毒性の鑑定も行ってもらっているので、安全性は申し分ない。
そうやって、床の張り替え作業は完了したわけだ。
なので、せっかく綺麗になったわけだし、この丸太小屋は全面、土足禁止にした。
その方が長持ちするだろうしね。
「土足厳禁だから、絨毯とかの敷物もあると、雰囲気出そうだよな」
今後遭遇するかもしれない魔獣どもの毛皮を敷けば、転んだときにも安全だろう。
あとは、エルフィーネが言うように、直近で欲しいのはベッドだけど。
俺は部屋全体を見渡した。
当初イメージした家の大きさは十畳そこらだったけど、結局、この丸太小屋は二十畳ほどの広さだった。
そのため、思ったよりも内装はいじれそうだった。
大きめのベッドを置くこともできるし、タンスなんかも普通に設置できるだろう。
それと、召喚したときには調度品はまったくなかったけど、なんか、この家には煙突があって、隅っこに暖炉が設置されていたのだ。
そこは思いの外、保存状態もよく、普通に使えそうだったので、そのまま使わせてもらうことにした。
もっとも、この常夏の無人島で使う機会があるかどうかわからないけどね。
ともかくそんな家だったのだが――
今更ながらに大事なことに気が付いてしまった。
家を召喚してリフォームしたはいいんだけど、俺とエルフィーネって同じ部屋で寝泊まりしていいの?
俺は、一人脂汗を流し始めた。
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