第三十六話、神々の思惑と期待

「神様、にゃ?」

「はい、今回ステラ司教の起こした事件じけん。我々から素直にれいを言わせて貰います」

 神々が、それもアリシエル教とグラヌス教の主祭神しゅさいじんが自ら頭を下げた。その事実に周囲に居る人々が大きくざわつく。それは、カルロとて同じなのだろう。大きく目を見開いて硬直こうちょくしている。

 もちろん、僕だっておどろいている。神様が、自ら問題もんだいを認めて頭を下げたのだ。それこそ人々からしたら驚天動地だろう。

 だが、今はそんな驚いている場合ばあいじゃないだろう。

「にゃ、礼は素直にけ取っておくにゃ。でも、神様でも問題に思っていたなら神々でこの問題を解決かいけつする気は無かったのにゃ?」

「……はい、それに関しては我々でもかんがえてはいました。ですが、これ以上我々の都合に人間を巻き込んでらぬ影響を与える事を危惧きぐして動けずにいました」

「でも、それでも―――」

「それに、我々神々は正直期待もしていました」

「にゃ、期待?」

 神々が、僕達に期待だって?その言葉の意味いみが気になって、僕は話の続きを素直に聞く気になった。

 なので、僕は黙って続きをつ。

 僕が黙り込んだのを見て、アリシエル神は薄く微笑ほほえんだ。

「はい、我々神々はこまった事に自分の出来できる事をイコールでやるべき事と結び付けてしまう悪いくせがあるのですよ。我々神々はその気になれば、世界だって思うように操作し管理出来てしまう。だから、出来るならやるべきだとね」

「それは、本当に困った癖だにゃ」

 僕が思わず口に出してしまった言葉に、神様は二柱揃って苦笑くしょうした。まあ、正直そうだろうと思う。自分自身でも認めている悪癖あくへきを、他人から正直に認められるというのもなんというか。微妙な気分なのだろう。

 だが、まあ今はそれは良い。問題は話の続きだ。

「それは困った事に私とグラヌス神のちちであるエル=グラムとて同じこと。自分には運命の管理や輪廻の管理かんりが出来る。だから、自分はそれをやるべきだと。そう言って全ての巡り廻るものの管理を始めたのです」

「……………………」

 僕は、その言葉に何も答える事が出来なかった。無論、誰もその言葉に何かを言う事が出来なかった。出来る筈が無かった。

 誰もが、一度は自分のきている意味を考える時が大なり小なりる。恐らくは神様も同じだったのだろう。

 そして、神々はそのこたえを自分が出来る事とむすび付けてしまったのだ。

 何をしたいかではなく、何が出来るか。それを以って自分と定義ていぎした。してしまったのであろう。

「恐らく、我々神々はそのような力を持って偶発的ぐうはつてきに生まれてしまっただけの単なる一種族でしかないのかもしれません。それがどれほどひくい確率の上での話でも」

「そして、それを我々神々は自分の存在理由に直接結びつけてしまった」

 アリシエル神の言葉の続きを、グラヌス神が引きいだ。そう、神々はそれを自身の存在理由に結び付けてしまったのだろう。

 そして、それこそが間違まちがいに直結してしまったと。

「俺とアリシエル神は永らく人間世界の管理方法に関してあらそいを続けていた。だがある日俺とアリシエル神は見てしまった訳だ。そして、気付きづいてしまった。我々神々が管理などしなくとも人々は己のおもうままに生きていけると」

「…………にゃ、確かに 僕達は神様に管理かんりされなくちゃきていけないような情けない生き物じゃないにゃ」

「ああ、そうだ。それに気付いてから俺達はかんがえるようになった。そして、同時に期待を抱いたんだ。だからこそ、俺達はためす事にした」

「にゃ?試す?」

「ああ、我々神々が管理などしなくとも人々ですべてを解決出来るのか。その試練として我らの代理を立てた代理戦争を企画きかくした。まあ、我々の予想を外れて滅茶苦茶になったのは否めないがな」

「はい、我々の代理戦争はステラ司教の独断どくだんで予想を超えた大規模な宗教戦争へと発展しました。ですが、同時にかった事もあります」

 分かった事?僕が思わず首をかしげた。

 その時、隣で黙って聞いていたカルロが答えた。

「今回の戦争をとおして、俺達が必死にあらがう姿。貴方達神々はそれを見て何かを期待していたんですね?」

「はい、我々神々は。いえ、私とグラヌス神はこの戦争あらそいを通して己の力だけで人が争いを克服出来るのではないかと期待きたいしました」

「そして、お前達は俺達に期待に見事応えてくれた。だからこそ、俺とアリシエル神は期待に応えたお前達に何か褒美ほうびをやろうと思う。さあ、好きな褒美を選べ」

 そう言って。解答を待つアリシエル神とグラヌス神。

 だが、そんな二柱に対してカルロは首を黙って横にった。

「俺達は褒美が欲しくて戦争をめた訳じゃない。俺達は、ただ平凡へいぼんな日常へ帰りたくて戦争を止めたんだ。だから、かえるんだ。貴方達神々は黙って俺達人間を見守っていてくれ」

「……………………ははっ」

「……………………ふふっ」

 カルロの言葉に、少し黙り込んでから二柱揃ってわらいだした。

 だが、カルロは至って大真面目おおまじめだ。大真面目に、意識を失い倒れている王女様を抱き締めながら二柱の神を見詰みつめている。

 僕も、意識を失い倒れているミーナの傍に静かに寄り添い見守みまもる。

 やがて、一通り笑い終えた神々は涙を滲ませた目をこすり頷いた。

「分かりました。では、これからは我々は人々のいとなみを黙って見守る事へと変更しましょう。もう、貴方方を管理したりしません」

「俺達の期待にこたえてくれたんだ。その程度の報酬くらいあっても良いだろう」

 そう言って、アリシエル神とグラヌス神は互いに笑い合ってえていった。

 そうして、神々の降臨という思わぬハプニングこそあったものの僕達の戦いは無事終わったのだった。

「ああ、全て終わった。もう帰ろう。俺達の日常にちじょうに」

「にゃ、帰るにゃ。僕達の日常へ」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る