李先4  拓跋嗣よりの信任

拓跋嗣たくばつしが即位すると、そばに侍る旧臣らに、拓跋珪たくばつけいよりの信任が高かったものは誰かと問う。


ここで王洛児おうらくじが答える。

李先りせんなるものが、最も先帝に信任されておりました」


拓跋嗣が李先と引見し、問う。

「卿はいかなる功にて、先帝に知られることとなったのか?


李先が答える。

「臣は愚細にて、才行にも目ぼしき所なく、ただ忠直をもって先帝陛下を奉ったのみにございます。さしたる異能なぞござりませぬ」


拓跋嗣は問う。

「試みに、旧事について語ってみよ」


李先が答える。

「臣は聞いております、ぎょうしゅんは、民を教化するのに子であるが如く接した、と。夏禹かう殷湯いんとう周武しゅうぶの三聖王にいたしましても、賢人を頼ることで、天下よりの信任を得られました。いま陛下はおん自ら陛下に慎ましく仕える者たちをおねぎらいになられました。ならば天下万民はみな陛下のおん徳を慕い、士大夫も夫人らもみな陛下を讃え、拍手とて惜しみますまい」


間もなくして再び召喚を受け、韓非子かんぴしの二十二篇や太公望たいこうぼうの兵法十一事を講読するよう命じられた。

さらに有司に命じる。

「李先の知識たるや、みな軍國の大事を動かすにふさわしい。これより宮廷内に常駐すべく命じよ」


李先には絹五十匹、絲五十斤、雜綵五十匹、御馬一匹が与えられ、安東將軍あんとうしょうぐん壽春侯じゅしゅんこうとされ、奴僕の家族を二十二世帯分与えられた。




太宗即位,問左右舊臣之中為先帝所親信者有誰。時新息公王洛兒對曰:「有李先者,最為先帝所知。」太宗召先引見,問曰:「卿有何功行,而蒙先帝所識?」先對曰:「臣愚細,才行無聞,適以忠直奉上,更無異能。」太宗曰:「卿試言舊事。」先對曰:「臣聞堯舜之教,化民如子;三王任賢,天下懷服。今陛下躬秉勞謙,六合歸德,士女能言,莫不慶抃。」俄而召先讀韓子連珠二十二篇、太公兵法十一事。詔有司曰:「先所知者,皆軍國大事,自今常宿於內。」賜先絹五十匹、絲五十斤、雜綵五十匹。御馬一匹。拜安東將軍、壽春侯,賜隸戶二十二。


(魏書33-14)




ここには李先がすごいと言うより、どれだけ拓跋嗣が皇帝後継者としての引き継ぎを受けていなかったかがまざまざと示されていて……こわ……むしろなんで拓跋嗣は運営し切れたんですか……

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