第18話 るい
【もうすぐ会えるよ、玲奈】
玲奈をそっと降ろして、俺は片足をかけた。
下には誰もいない、これなら迷惑にはならない。
【何やってんの!】
背中を凄く強い力で引っ張られた。
もうどうでもいいから、見もしなかった。
その瞬間、思いっきり引っ叩かれた。
【涼ちゃん、死んても何もならないよ、バカ!】
誰だ?もう意識も無く、感覚もない。俺は自分自身で命を絶とうとしている。自ら呼吸を止めている。
立て続けに、引っ叩かれた。
もうさっきから誰なんだよ。仕方なく見上げると、
えっ、るい?
【涼ちゃん。冷静になって!】
とどめていた感情が溢れ出す。
るいにしがみつき、泣いた。子供のように。
るいの服はビショビショだ。でも、るいは、
ただ包み込んでくれている。暫く何も言わずに。
【涼ちゃん、泣くだけ泣いて。覚悟してほしいことあるから】
覚悟、俺にとっては小さなことだ。
るい、もう少し泣いてていいかな?
るいに包まれてると、なんか落ち着く。
【少し冷静になった?辛い現実を経験したね、パラレルワールドの最も辛いルート選んじゃっね】
えっ?ルート?
少し覚えている。ルート。ユキが話していた。
【あのね。パラレルワールド、今いくつも発生してるの。心配になって来てみたら案の定。間に合って良かった】
【間に合って?間に合ってないだろ、玲奈が、玲奈が!】
今度はさらに強く引っ叩かれた、もう何回目?
【いくつも発生してるって言ったでしょ?これが
涼ちゃんの望む未来?違うよね!涼ちゃん!】
【ついて来る覚悟ある?記憶消えるかも知れない】
やり直せるのか?この悲惨な未来を?それは俺が何よりも望むことだ。俺はどつなってもいい。玲奈の未来を守れるなら。
【るい、教えて!どうすれば?】
迷いなどない。
【いいの?やり直すの?】
るいは、真剣な表情で見つめて、両肩を強く
握った。
【その選択肢以外何がある?俺はどうなっても
いい、頼む、何としても変えたい!未来を】
るいは、手を強く握ってきた。
【解った。じゃ、つかまって。行くよ、パラレルワールド!絶対に離さないで、確証なくてもいい?】
【大丈夫、頼む!】
この未来をやり直せるなら、なんでもいいと
思った。るいが俺には最期の希望!
迷わない、どんなことになろうと。玲奈を守れるなら。玲奈が幸せになれるなら。
玲奈、少し待ってて。未来を変えてくる。
タイムパラドックス、この時だけは力を借りるぞ!
突然、暗闇に閉ざされた。始まりの合図だ。
るいと同じタイミングでこの世界から消えたのか?
でも、るいの温もりは感じる。
【るい、今どうなってる?】
【解らない、どこに向かってるのか、少なくとも
涼ちゃんの絶望の未来とは違う時間】
るいは、続けて話した。
【でも、とても辛い世界だよ、タイムパラドックス小規模ながら常に発生してる。とても落ち着く世界ではないから、覚悟して】
【解ってる、るい、ありがとう】
るいの手から不安が伝わってくる。やはりそんな
簡単には行かないようだ。
少しずつ冷静になってきて、るいに聞いた。
【るい、俺、玲奈と早くに出会ってしまったんだ、時間移動始まったのは、それが原因かな?】
【早くに出会ったの?触れてないよね?】
【俺が溺れて、玲奈に助け出された、たぶん玲奈はその時に触れていると思う。その時は何も起きなかったけど、その後帰りに…】
るいは、さらに手を強く握ってきて、
【解らないことが多いの、涼ちゃんの行動は確かに原因の一つかも。でもそれだけじゃないの、こっちの世界を見れば解る、無事つければ…】
【るいは、俺と何の関係性あるのかな?玲奈は俺の知ってる未来の妻、ユキは俺の知らないパラレルワールドの世界の妻、るいは?何か関係ある?】
【………………】
【ごめん、言いたくないなら言わなくていいよ、俺も未来とか知らないことが幸せって思えるから、
こんな辛すぎる未来なら、知らなくていい】
【涼ちゃん…いつか話すね…ごめん】
るいも何かあることは確信した。
それにしてもこの時間移動長すぎないか?
【着いたみたい、ちょっと疲れた…】
るい、とても、つらそうだ。ごめんな。
【るい。ごめん】
【大丈夫、どんな世界でも涼ちゃんの経験した未来よりマシでしょ】
【そのはずだね、どんなこと起きても耐えられる】
【涼ちゃん、手放さないで。何が起きてるか
直視して、耐え抜いて】
どんな世界でもやり直すことが出来るなら、
俺に迷いなど無かった。
………………なんだ?
あれ?夜、
【ここって、さっきいた世界の過去?パラレルワールドじゃない?どうして?】
るいが凄く慌てている。
【こんなこと、今まで無かった…どうして?】
【るい…俺、ここ、俺知ってる…】
【記憶…あるの?ということは、ここは
パラレルワールドじゃない!!!】
【何もかも知ってる、るいも経験ないんだね】
【ちょっと整理する、ここがどこかを明確にする】
るいが、暫く考え込んだ。冷静だな、少なくとも俺やるいは記憶は残っている。何が起きて、どこから来たか。俺の考えでは、パラレルワールドに移動していないな。
【涼ちゃん、この場所知ってるんだよね、詳しく
教えて】
【ちょっと待って…あっ、ナイトパーティー!の
会場!入口の男、俺の友人!俺がプールで
溺れた日、ここで、玲奈と出会ってしまったんだ】
るいは、凄く険しい表情で、腕を組み考えている。
【涼ちゃん、これ、もしかして融合!パラレルワールドは全て融合してしまったのかも】
るいは、続けて、
【時間軸調整課、TAで情報あったの。私もそこにいたの、パラレルワールドについて研究していて、
仮説だけど、パラレルワールドって何らかも拍子で全て融合する場合があるの、でもその結果どうなるかは未知の世界。それに今まで時間移動出来なかったことないもん】
るいも、そこにいたのか。だからこれほど知識あるのも納得。
そうすると、俺はここで玲奈と出会って…
ちょっと待て!出会わなけれいいんじゃないか!
【るい!】 【涼ちゃん!】
二人が同時に叫んだ。
【涼ちゃん、ここからやり直すの!、玲奈と会ってないことになってる、それに…融合したなら、ユキも…もしかしたら…よく解らないけど】
【玲奈と会わないようにする。間に合うよな?】
【とりあえず、私が玲奈止める。パーティには参加させない!】
【俺は?俺が行かなければいいんじゃない?】
【念のため、パーティにも参加しないで、玲奈も行かせない。もう失敗は出来ないから】
【解った、俺は生活していた部屋に戻ってる、るい、後で合流しよう。場所は、ここで!】
【解った、とにかく急いで】
俺は友人にパーティ、ドタキャンすると連絡した。
友人は呆れていたが、会費払うってことで納得してもらった。
るい、頼む!玲奈を止めてくれ。理由なんでもいい、玲奈の性格から困ってる人を見捨てられないはず。
何とかなるかな、るいなら大丈夫なはず。
その後…パーティーが終わったと思われる頃、
俺は変装してパーティー会場に。
大丈夫、誰もいない…パーティー終わってる。
るい…どこかな?
【涼ちゃん、こっち】
るい、近くの植え込みに隠れていた。
【るい、どうだった?】
【大丈夫、玲奈の目の前で倒れて、そうしたら救急車呼んでくれて、病院まで着いてきてくれた、優しい素敵な人だね】
あー良かった。るい、ナイス!
【とりあえず、玲奈と連絡先交換したから。ちなみに私のは使われていない電話番号】
【るい、的確な判断だよ、凄いな】
【とりあえず、涼ちゃんの部屋に行っていい?そこなら安全でしょ?】
【解った】
とりあえず、るいを部屋に。本来なら女性を部屋に連れ込むとかまずいけど、今はそれどころでない。
るいの知ってる全てを聞いた。
大人になっても俺とあった時の、
人妻って話は嘘だったこと、
時間軸調整課でも上位研究員でタイムパラドックス解明のためにこの世界に住んでいたこと、
さっき、試しに無理にでもパラレルワールドの
世界に戻ろうとしても、戻れないって解ったこと。
俺は落ち着いて、冷静にとにかく冷静に聞いた。
【玲奈、俺のこと知らなかったよね?】
【うん、それに付き合ってる人いないよ、玲奈、パーティーに参加したのも友達に無理やり誘われて、断りきれなかったからだって。だからずっと病院で心配してくれて、付き添ってくれていた。あれは、普通の男なら惚れるね。涼ちゃん惚れたのよく解る、私が男なら惚れるもん】
玲奈、とにかく良かった。俺は本来出会う時まで、おとなしくしていよう。るいは、この部屋に暫くいてもらうか?行くとこないもんな。
【涼ちゃん、あのね…悪いけど、暫くの間…】
【もちろん、ここに居ていいよ。むしろ、
心強いからいてほしい】
【涼ちゃん!ありがとう】
【るいは、俺だけでなく玲奈も救ってくれた、お礼は俺が言いたい。ありがとう、本当にありがとう】
るい、涙浮かべている。俺、何か気づいてないことあるんじゃないか?
【るい、ごめん。聞きづらいけど、パラレルワールド無いんだよね?それって…その…えーと…】
【うん、私の住んでいた世界はもう無いの、
もうどこにも…家族や友達も…付き合ってる人はいなかったけど…仕事でほとんどこっちに
来ていたから…でも、住んでいたとこ、無いって…
切ないよね…なんか、とても寂しい…】
るい…震えている、るいが小さく見える。
【私はいずれ…ここ…出ていくね…玲奈と涼ちゃんの邪魔出来ないからね…もう少しだけ、ここに】
るいが言い終わる前に、るいを強く抱きしめた。
【涼ちゃん?痛いよ、涼ちゃん?】
少しの間、沈黙が続いたが、俺は心の奥から全てを伝えるように静かに話しだした。
【るい、出ていくこと無い!この先ずっと。るいがいてくれたから、今がある。玲奈も救ってくれた。もしかしたら…ユキとも出会えるかも。その時にどうするか考えればいい、もう時間移動ないんだろ?
それにもしもユキに会えなくてもずっといていいから、これ恋愛とかでなく友達としてだからね】
【涼ちゃん…】
るいを抱きしめたまま、俺は話を続けた。
【るい、俺は助けてもらってばかりだ。これからは、俺が守る!二度と悲しい思いはさせない、助けてくれた人、みんなの人生を守る!】
るいが、俺の胸で大声で泣き出した。そうだよな、故郷をなくして、どうなるか解らない未来どころか誰も知ってる人いないんだもんな、るい。
【涼ちゃん…惚れさせないでって言ったのにー、
玲奈と会うとき、私のこと紹介して、大好きな、
友達として】
るいに笑顔が戻った。その笑顔を見て、さらに強く抱きしめた。
【涼ちゃん、痛いって。私に惚れてない?】
俺は何も言わず、ただ、るいを抱きしめて、
時間だけ過ぎていく。何故かほっとする、
こうしていると。
【あーあ、惚れちゃったかなー、涼ちゃん…】
るい、笑顔になってる。安心してるんだね。
【可愛いもんねー、私が言うのも何だけど…】
【るい、少し黙ってろ。もう少しだけこのまま…】
【解った、何か安心する香りがする】
不思議だろうなー、かなり可愛いから周りから見たら友達って成り立たないって言われるはず。
同じ部屋に住んでるし…
玲奈、これ浮気でないよ。るいに感謝してるだけ。
出会ったときどう説明するか、困ったぞ。
あーあ、大きな課題が出来ちゃった。
でも久しぶり笑えた!
るい?抱きしめたまま寝ちゃったじゃん。
るいの頬に涙が残ってる。俺はそっと拭き取った。
安心して寝ていいよ。お疲れ様、るい。
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