第16話 想定外

忙しい日々が続いている。仕事は嫌いじゃない。

疲れ果てても、自由な休日が楽しみだ。

 

今週末は休む。でもユキとの想い出の公園には

休日必ず行っている。


【ユキ、おはよう。もうすぐ夏だね】


もう悲しくはない、会いたくなったら、ここで

いつでも会える。ユキの香りがするハンカチも、

大切に持っている。コーヒーの匂いも残ってる。


こんなスッキリとした気持ちになれるのも、

ユキ、答えを教えてくれた、るい。

二人のおかげだね。


るいに、教えてもらえば良かったなー。

ドッペルゲンガーとか…でも、

もうどうでもいいや。


想い出も大切に、未来へ。


平穏な生活こそ、何気ない日常こそ、幸せなんだ。

二度目の人生って俺は言ってたけど、人生でなく、

時間って言う方が合ってるかも。

俺はこの世界での記憶は繋がっている。

次に出会うのは、玲奈だ。未来で俺と結婚する。


ただ、知り合うには時間は早過ぎる。

何年も先だから。これ、しっかり把握しておかないとならない。時間、場所、行動などなど。


思い出してみよう。再会のために。

場所は、海だったのは間違いない。

俺は海が大好きで夏になれば必ず行ってる。

まぁ、子供の頃から旅行と言えば海。

大人になっても毎年の一回は必ず行っている。


玲奈との出会いははっきりと覚えている。

また俺の情けない姿を見せた出会いだ。

二度目も同じことをするのが嫌だ、

どうしようかな、ここだけ変えること

出来ないかな?


それは慣れてるはずの海で溺れてしまったとき。


寝不足、二日酔い、ハイテンションでハメ外した。

ほんと、ヤバかった。意識を取り戻したときの

最初の声、

 

【大丈夫、ゆっくり呼吸して】


一人の女性に助けられたらしい。

悲しいやら、恥ずかしいやら…

逆ならドラマになるのに。


【もう大丈夫ですね、良かった】


しかも、凄い好みの女性、ショートカットの

可愛い魅力MAXの。


【すみません、カッコ悪くて…】


女性は少し微笑んで、


【カッコ悪くてもいいじゃないですか、

こうして今、生きているんだから、ね】


慰められた…さらに惨め…

でも何と言う素敵な女性だ。完全に惚れた…

ショートカット、優しい、明るい素敵な笑顔。


絶対もてるんだろうなー、

俺とじゃ不釣り合いだよな。

旅の恥は掻き捨て、えーい、吹っ切って伝えるぞ。


【お礼に食事、行きませんか?ご馳走させて

ください。お腹すいてませんか?】


何女性にいきなりお腹空いてるとか、何言ってる?

他に言葉あったよ、きっと。またやっちまった。

彼女、髪をかきあげて、少し笑ってくれて、


【うん。すっごく、すいてる。ゴチになります】


もうこれ以上ない、どストライク!

完全にニヤけてる、俺。


これまたやるの?はぁ。辛い…

玲奈はこの時、どう思ったのかな?

俺で良かったのかな?


玲奈との未来のため、俺が恥ずかしいだけだ。

しゃーない、ここは耐えるしかない。


玲奈の想い出に満足して、つい眠ってしまった。

休日はこれが出来るから最高!

この公園、ほんと安らぎに満ちている。 


一本の電話で目覚めた。この頃、ようやく

ガラケー普及と共にメールも当たり前。

着メロとか流行っていて、俺は解りにくいから

設定していなかった。


【今度さ、合コン予定あるけど、来るか?】


友人からの電話だった。クリスマスパーティに誘ってくれたが、俺は行かなかった。というより

行けなかった。ユキの感覚が残ってる気がして。

少し不安があった。


【合コン? なら、いいかな】


【クリスマスパーティ断ったのに、夏の合コン

なら即OK??よく解らんヤツだな。とりあえず

ドタキャンなしな、会費、場所はメール見て】


まず、これなら安心だろう。


玲奈は合コン行ったこと無いって聞いてるから

安心。ハメ外すつもりもないが…


そういえば、会ったときは想像も出来なかったが、

凄く辛い幼少期過ごしてたんだよな。

それであの明るさってほんと尊敬する。

玲奈、もっと高望み出来たと思うけど。

とにかく俺はラッキー!ってことだったんだ。


当日、夏なのでラフな格好で合コン参加。

冬と違って楽。ただしデオドラント必須。

スプレー&シートで万全。


なかなかおしゃれなプールでナイトパーティー。

ライトアップもいいな。

友人主催の割には会費高かったのはこれか。

女性は無料だからってのもあるか。


【初めてですかー、こういうの?】


おっ、声かけられた。なかなか素敵な女性!

ナイススタート! ナイトパーティー!


【はい、友人の主催で、あれ?えっ?えーー!】


嘘だ!こんなことあり得ない。早過ぎるー。

何でここに?逃げ出すか!それとも?

ヤバい、ヤバい、ヤバい…猛烈にヤバい。


玲奈!!!!!…だ、絶対に。間違いない。最初に出会ったときより若い!当たり前だが、すっごい好み♥


そんなこと悠長に思ってる場合か?!!!!!!


出会うの早過ぎる!

どうする、どうする、何とかならないかー?


まず、冷静に。会話なら問題ないか?

でも発展すると手を繋ぐとかあるな。

触れずに会話だけ…って無理ある。


玲奈ってたまに肩に触れたり、ハンカチで汗ふいてくれたりしたから…玲奈から触れてくる可能性大。

比較的、男の汗とか抵抗ないからな、玲奈。


急用思い出したって、ここからダッシュ!


よし、これだ!すまん、玲奈!


もう少し先で会おう。出会ったときより

若い玲奈をもっと見たいけど、ごめーん。


【ごめん。急用があった、ほんとごめん】


俺はダッシュ!と同時に足を滑らせ、

転んでプールに!しかも、頭ぶつけて軽く意識が

遠のく…

見える、奇麗な川が…なんか心地いいなー。

ここで終わるのか…俺は…


【大丈夫、ゆっくり呼吸して】


誰かに助けられたかな。

頭ズキズキ、痛ー、ようやく周りが見えてきた。

生きてる!誰かにプールから助け出されたのか。


【ありがとうございます、助けてくれて…】


助けてくれた?………………よく見なくても

解る。海とプールの違いってだけじゃん!


玲奈に二度目助けられた。早過ぎるけど。


玲奈、俺に触れたよな?助けられたってことは。

タイムパラドックス起きてないぞ?なぜ?


【急いでるんですよね、車で送ります、

それに心配だから、明日病院に行って!】


玲奈と車?それマズイよ。困ったなー。


【大丈夫、自分で帰れるから】


【私、お酒飲んでないから、任せて!】


こうなると、猪突猛進だったな、

性格変わってない。もう回避出来ないか。


【それじゃ…すみません、よろしくお願いします、せっかくのパーティなのに、ごめんなさい】


玲奈の車に乗り、シートベルトをしめた。

横顔、とてもとても可愛いな、玲奈。


って、駄目駄目! 玲奈に見惚れてる場合じゃない。

どうする、俺!


落ち着けー、落ち着けー、落ち着けー!


【大丈夫ですか?かなりの汗かいてますね、

ちょっと待ってて】


赤信号で停まったとき、玲奈がハンカチを出そうと


【大丈夫、持ってます。ありがとう】


って、持ってるの…ユキの…使えなーい!!!!!


【持ってないんでしょ、気にしないで】


【ありがとう、洗って返します】


玲奈、ニコッと笑って、一言。


【次会う権利ゲーット!!!】


んー、可愛い!玲奈ってほんと俺のタイプ。

未来の嫁が俺のタイプって、ありがたやー!


暫くして、俺の部屋の近くまで。

ここで車停めて、玲奈と話していた。

来週まで会えないのがお互い辛くて、

車の中で暫く話していた。


【ここでいいんですか?】


そうだ、この時は、玲奈はまだ俺の住んでる場所を

知らない。名残惜しいが、ここで。


【ありがとう、ちゃんと明日病院行きます】


【偉い!言う事聞いてくれて】


なんてなんて、いい子なんだー。名残惜しい。

でもこれで、何とか回避出来た。良かったー。


【あのー、もし、よかったら名前だけ教えて

ください】


あっ、そうか。まだ俺のこと知らないのが普通だ。

俺も知らない振りして聞かないと。間違っても

玲奈って言っちゃ駄目だ。


【涼です、ほんとにありがとう】


玲奈は、じっと見つめて、笑顔で、


【涼さん、よろしくね。玲奈です】


涼さん!!!その呼ばれ方に不覚にも

ドキッとしてしまった。

玲奈にも申し訳ない気持ちになった。


ドキッとしたのは、ユキを思い出したからだ。

玲奈、これ浮気でないからな、まだ付き合ってないからさ。


この先、大丈夫か?俺。ちょっと挙動不審的な、

行動してる?不安が行動に出てる?


玲奈、何を思ったか車から降りてきて、

近づいてくる。なんだ、なんだ?


【涼さん、忘れ物】


財布、ポケットから落ちていたのか、こういうのも

気が利くねー、玲奈って昔から。


【ありがとう】


気の緩みって、こういうことだ。受け取ったとき、

手が触れてしまった。


案の定、目の前が真っ暗。ほーら、やっちまった。

浮かれていたからだ。この空間、もう慣れている…


慣れてはいるが、時間移動ってほんと疲れる…


俺は諦めモードで眼をゆっくりと開いた。






















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