第4章 成人式の集合写真
4-1 同窓会の出欠葉書
それから、冬が終わり、新しい季節がやって来た。
僕は向陽大学文学部に入学し、キャンパス・ライフが始まった。向陽大学は、出来てまだ十年位の新しい大学で、校舎や図書館にはフレッシュな木の香りが満ちていた。
僕は文化学を専攻する、文学部文化学科に在籍していた。写真部に入ろうと思っていたが、なかなか機会に恵まれなかった。タイミングを逃していたのだ。
春は移ろい易い季節である。人の心もまた。だから僕は写真を撮り続けるのだ。人の心が忘れてしまう『何か』を残すために。目に写るものが全てではない。それは氷山の一角にすぎない。写真はそのわずか一片を、歴史に残すのだ。
それから、二カ年の時が過ぎた。学校から帰ると、郵便受けに葉書が届いていた。葉書は、小中学校の同級会の案内だった。二十歳を迎える成人式の後に、クラス会をしようという内容だった。
「久しぶりに会う奴もいるな」
僕は懐かしさで、顔がほころんだ。
「香子姉さん、今度の成人式に文化ホールまで、乗せていってくれない? お盆のことなんだけど……」
「いいわよ。いよいよカナタも立派な大人か」
香子姉さんは、そう言って微笑んだ。
香子姉さんは、カーディーラーで事務の仕事をしている。今日の火曜日は、ディーラーの定休日で、家に居たのだ。
「その後に、クラス会があるんだよ」
「
香子姉さんが茶目っ気たっぷりに云うので、僕は思わず長く会えずにいた昔馴染みの面々を思い浮かべた。
僕の住む山河市では、成人式を八月中旬に行う。田舎町のことなので、上京している者も多く、八月のお盆に帰省した際にタイミングを合わせて開催するのだ。一月十五日の成人の日に開催する自治体も勿論あるのだが、山河市では伝統的に八月中旬に行っていた。
春の街は、霞がかかっていた。
僕は大学へ行く途中で、同窓会の出欠葉書をポストに投函した。「出席」に丸をつけ、通っている学校を記入して投函したのだった。
自転車が、春の風を優しく追い越してゆく。それは、風を切るような気分の良い走りだった。
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