第159話 盗賊団殲滅作戦(前編)

 ウルトに乗り込み移動するが、2キロ程度の移動なら2分とかからない。

 あっという間に盗賊の潜む森へとたどり着いた。


「さて……どうしよう?」


 アジトは4箇所、ここから極大魔法を放って全滅させることは容易だが、それだと奪われた金品はもちろんもし攫われた人がいたら巻き添えになってしまう。


 かと言って戦力を分散するのもな……

 リンは単独で戦力として申し分ないが、ソフィアとアンナは少し心配だ。


 一般的に見て十二分に強いことは理解しているけど、相手のレベルと人数次第では不安が残る。

 2人とも攻める戦いより守る戦いの方が得意だしね。


 なら俺とリンを筆頭に3人ずつに別れる?

 いや、それなら俺が単身で突っ込んで制圧、その後をよめーずに任せて俺は次のアジトを強襲の方がいいか……


 3人ずつに別れてもそこまで変わらない、さらにウルトを護衛に残せば危険はゼロだろう。


 よし、それで行こう。


「という訳で、俺が突っ込んで1箇所ずつ制圧して行くから全員でその後を着いてきて。ウルトも付けるから奪われた金品の回収ともし攫われて囚われている人がいたら助けてあげて」

「何がという訳なのかは分からないけど、了解よ」


 俺の立案した作戦によめーずを代表してリンが了承した。


「んじゃ行ってくる。ゆっくり目立たないように着いてきてね」


 ウルトを小さくしてサーシャに預けて【隠密】を使用、気配を消しながら森へと突入する。


「第1目標地点発見、これより作戦を開始する」


 一応【思念共有】を全員と繋いで作戦開始を宣言しておく。


「了解」と全員からの返事があったことを確認して剣を抜く。


【隠密】の段階を引き上げて枝から飛び降りて手作り感満載の掘っ建て小屋のようなアジトの前に降り立つ。

 ついでとばかりに見張りであろう外で立っていた男の首も音を立てないように気を付けながら刎ねておく。


 本命のアジトは洞窟、他の3つはそこから目をそらすためのダミーのようなものだろう。

 中からは30人ほどの気配を感じる。


「よし」


 小さく息を吐いて気合を入れてドアを蹴破り突入。


「なんだ!?」

「誰だ!?」

「ちっ、見張りはどうした!?」


 突入と同時、騒ぎ始めた汚い男たちを無視して1番奥に居た偉そうな男の胸を貫く。


「なっ!?」


 引き抜きながら横に一回転、周りにいた男たちを斬り付ける。


「ぎゃ!」

「あぎっ!」


 殆どの男の胴を両断、何人かは傷が浅く生き残っているがそんな時のために【状態異常攻撃】【精神攻撃】【毒攻撃】をモリモリで付与している。


 これはもう即死した方が楽だと思う。

 その証拠に傷を負った者は声も出せずにえげつない顔で転げ回っている。うわぁ……


「囲め!」

「逃げろ!」

「うわぁー!」


 色んな声を上げながら右往左往する盗賊たち。逃がすわけないだろ?


 土魔法を発動、外の土を操って扉や窓を塞ぐ。

 外の光も入らなくなるが【闇視】を持つ俺にはなんの影響も無い。


「な、なんだ!?」

「何も見えねぇ!」


 いきなり暗くなったことでさらに騒ぎだす盗賊ども。


「ぎゃ!」

「ちょ!」

「なんだなんだ!?」


 闇雲に武器を振り回す者もいる。振り回された武器は当然俺に触れることは叶わず、味方同士で傷つけあっている。


 そんな中闇雲に振るわれる武器を回避しながら1人ずつ確実に命を奪っていく。


 全ての盗賊を切り伏せて【気配察知】を発動、どうやらこのアジトには生き残りは居ないようだ。


【思念共有】でみなにこの事を伝え、死体の処理と金品が残っていないかの捜索を任せて次のダミーへと向かう。


 同じような手段を用いて2つ目、3つ目のダミーを制圧、全部合わせて100人ほど斬った。


 2つ目、3つ目どちらにも生存者は無し、金品も殆ど見つからなかった。


「さて……本営に攻め込みますかね……」


 ウルトたちは2つ目のダミーアジトの後処理を行っている。

 3つ目の処理を終えてから本営に来てもらえばいいタイミングになるだろう。


 3つのダミーアジトから程々に離れた位置にある洞窟、そこが盗賊団ノーフェイスの本営だ。

 気配を絶って入口付近まで接近、流石に見張りが多いな。


 洞窟の周囲には10人ほどが等間隔で身を潜めて警戒している。

 ダミーを落としたことは気付かれていないと思うのでこの警戒態勢がいつも通りなのだろうか?

 それならかなり用心深いな。


【気配察知】と【傲慢なる者の瞳】を使い細かい位置を捕捉、上空に魔力を放って10本の氷の槍を生成、一斉に射出した。


 氷の槍にも【隠密】を纏わせるよう展開、誰にも気付かれないよう脳天を10人同時に貫いた。


『マスター、報告です』


 音属性魔法を使って盗賊たちが倒れたり落ちたりする音を消しているとウルトから通信が入った。


「どうした? トラブルか?」

『いえ、周囲を監視中に脱出口と思われる場所を発見しました。先に塞いでおくことを進言致します』


 脱出口か、それは塞いでおいた方がいいな。


「分かった、位置は」

『マスターの位置から東に500、北に200メートル地点です』


【傲慢なる者の瞳】で指定の位置を確認、確かに不自然に穴が掘られている。


「了解、引き抜き警戒を頼む」

『かしこまりました』


 確認した地点に転移、土属性魔法を使って辺り一体を丁寧に整地する。

 これで出てこられないだろう。


 再び転移で洞窟入口に戻り突入、【隠密】をフルで発動して見つからないようにしながら通路にいる盗賊を斬る。

 倒れる前に【無限積載】に放り込み証拠を隠滅しながら進む。


 本営に侵入して斬った数が100を超えた頃、ツンとした臭いを俺の鼻が捉えた。

 嗅いだことのある……というよりここ数日毎日のように嗅いでいる臭いだ。


 もしや……と思い扉代わりのカーテンを開くと思った通り、その部屋の奥には簡易的な檻があり、その中に多くの女性が囚われていた。


 幸いと言っていいのか、部屋の中で行為に及んでいる者は居ない。

 中に入ると顔を顰めそうになるほどにさの悪臭。


 女性たちを見ると、全員が何も身につけておらず、その……何かしらの液体が付着してそのまま乾燥したような状態だったり、垢だったりフケだったり……一言で纏めるとすごく汚い。


 さらに糞尿の臭いも……


 この部屋で行為に及べる盗賊たちの気が知れない……俺なら絶対無理だ……


 とりあえず部屋中心に立って浄化魔法を発動、範囲をこの部屋の全てに広げていく。


 すぐに効果が発動して嫌な臭いが消えていく。続けて汚れきっていた女性たちも綺麗になっていく。


 女性たちは最初体を隠すこともせずに死んだ魚のような目で俺を見つめていたが自分たちの汚れが消えたことに気付き戸惑っている。


「とりあえずこれで隠して。目のやり場に困る」


【無限積載】に放り込んである服を適当に取り出して檻の中に投げ込む。


「この中にこの部屋みたいな部屋がほかにあるか知ってる人はいる?」


 俺の質問に女性たちは顔を見合わせるが誰も声をあげない。

 知らない、もしくはここだけということが。


「ならもうすぐ俺の仲間が来るからその人たちの指示に従ってくれ。一応盗賊団の連中はこの部屋には入れないようにはしておくから」


 それだけ告げて部屋を出る。

 通路に出て壁に手を着いて魔力を流し込み入口を塞いでおく。

 一応上下に空気が抜けるように隙間を作っておいた方がいいかな?


【思念共有】でこの部屋のことを全員に伝えて殲滅活動を再開、みんなが来るまでにもう少し進めておかないと……

 3つ目のダミーアジトの後処理がもう終わるらしい、間もなくこの本営に来るだろう。


【隠密】と【気配察知】を全開にしてギアを上げてペースを上昇させる。


 さてあとどれくらいかかるかな……

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