第100話 ライノス家

 ライノス家を訪れ俺たちは応接室のような部屋に案内された。


「どうぞ」

「どうも……」


 メイドの淹れてくれたお茶を飲みながら部屋の中を見てみるが、なにやら高価そうな調度品があったり窓からは綺麗な庭が見えたり……


 基本的貧乏性の俺には居心地が……


 しばらくの間部屋を見たり仲間と少し話したりしながら待っていると扉が開き1組の夫婦が入ってきた。


「お待たせしたね」

「お父様! お母様!」


 サーシャが立ち上がり花の咲くような笑顔をうかべそう言った。

 どうやらサーシャのご両親のようだ。


 リンとソフィア、アンナが立ち上がったので合わせて俺も立ち上がる。

 目の端でケイトも慌てて立ち上がるのも見えた。


「おかえりサーシャ。見たことの無い人が居るけどそちらが勇者殿かな?」


 頭のてっぺんからつま先まで視線が流れるのを感じる。


「はじめまして。レオ・クリードと申します」


 気をつけの姿勢から軽く腰を折って30度くらいを意識して頭を下げる。

 入社してすぐに受けた社内講習てま学んだ挨拶だ。


 あの時は運転手にこれ必要か? と懐疑的だったが受けておいてよかったと今は思う。


「ケイトです。よろしくお願いします」


 さっきまで俺と一緒にキョロキョロしてたからテンパるかと思っていたケイトだがすごく自然に挨拶している。

 あれ? 慣れてるの?


「私はサーシャの父でアンドレイ・ライノスだ。こちらは妻のエレーナだ」

「よろしくね」


 ニコリと微笑むエレーナさんはサーシャにそっくりだった。

 サーシャが大人になればこうなるんだろうな。


「さてまぁ座ってくれ。それで今回は急にどうしたんだい?」

「はい。今までの報告と教国の迷宮の確認が目的です」


 アンドレイさんに促されてソファに腰を下ろしサーシャが質問に答える。


「報告? 今までも手紙で報告は受けているよ?」

「直接勇者様方とお話する機会がありましたので……それに迷宮に関しても重要な報告があります。これは手紙には書けないと思い戻って参りました」

「ふむ……聞こうか」


 娘の里帰りに穏やかな表情を浮かべていたアンドレイさんだったが表情を引き締め真面目な顔になった。


「はい。まず勇者様方ですが、性格は少し……軽いと言いますか少し難のある方々でしたが相応の力はお持ちのようです。グレートビートルの討伐も問題無かったようですので実力は十分かと。戦闘の様子はソフィアが確認しています」


 アンドレイさんの視線がサーシャからソフィアへと移る。


「勇者殿たちは的確にグレートビートルを追い詰め危なげなく討伐を完了させました。技量は十分かと……ただ周囲への警戒が疎かでしたので戦闘中に第三者からの強襲を受けた場合崩れる可能性もあるかと思います」


 そこからソフィアは詳細な戦闘の流れを説明し始めた。

 思い返せばグレートビートルに勝ったとは聞いたけど細かい内容は聞いてなかったな。


「私からの報告は以上です」

「なるほど、思った以上に王国の召喚した勇者は強かったか……」


 チラッとアンドレイさんは俺に視線を向けてくるが何を答えればいいのやら……


「お父様、こちらのクリード様も相当お強いですよ。聞いた事のない職業、初期ステータスの低さから戦力外とされましたが王国は見る目がなかったと言わざるを得ないほどに」

「そうか、クリード殿の職業は?」

「はい、トラック運転手という職業です」


 アンドレイさんはトラック運転手と聞いて頭の上にクエスチョンマークを浮かべている。


「それはどんな職業なんだい?」

「トラックという大きな乗り物を召喚、使役して操る職業ですかね……?」


 聞かれたので答えるが正直俺にもよく分からない。


「公爵様、よろしいでしょうか?」

「構わない」


 俺が説明に困っていると横からリンが会話に入ってきた。


「クリードの召喚する乗り物、トラックは非常に強力です。それこそ王国に残った勇者たちが束になっても適わないと思います」

「そんなにか……続けてくれ」

「はい。最初は召喚士系の職業の上位職かと思っていましたが彼はトラックと繋がりを持つことによりトラックの能力を使用することができます」


 アンドレイさんは理解したような出来ないような難しい表情だ。


「そのとらっくと言うのを見せてもらうことは可能かな?」

「あ、はい、大丈夫です。今は邪魔になるので小さくしていますが必要な時は巨大化しますので……」


 ポケットからウルトを取り出してテーブルの真ん中に置く。

 アンドレイさんとエレーナさんは興味深そうにウルトを眺めている。


「触ってみても?」

「どうぞ」


 アンドレイさんはウルトをつまみ上げて上下左右色々な角度からウルトを眺め始めた。

 アンドレイさんに合わせてエレーナさんも指でつついてみたりしながら観察している。


「これはどれくらい大きくなれるんだい?」

「そうですね……この御屋敷くらいにはなれますね」


 ウルトが一番大きくなったのは確かサイクロプス戦だったと思うけどその時にそのぐらいの大きさになってたと思う。


「そこまでか……」

「補足しますとオリハルコンでできたこの御屋敷が目にも止まらぬ速度で体当たりを仕掛けてくるとお考え下さい」


 アンドレイさんがウルトの大きさに驚いているとさらにリンが補足する。


 アンドレイさんとエレーナさんの2人は信じられないものを見るかのような目でウルトを見つめ固まってしまった。


「それは……乗り物ということだったがさぞ揺れるのだろうな……」

「いえお父様、それが一切揺れや衝撃を感じることはありません。エルヴニエス王都からここまでも乗りましたが全く疲労は感じていません」

「ちなみにですが王都を出発したのは昨日のお昼前ですわね」


 アンドレイさんの呟きにサーシャが回答、リンがさらに補足した。


「うむ、さっぱり分からないということがことが分かった。さて次の報告を聞こうか」


 アンドレイさんは理解することを完全に放棄したのか清々しい顔でサーシャに次の報告を求めた。


「では次は迷宮の報告に移ります」


 サーシャは特に気にした様子もなく迷宮でのことの報告を開始した。

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