間話 勇者たちの出発

 グレートビートルを討伐して数日後、俺たちは国王様と宰相と共に会議室に居た。


「それで勇者よ、グレートビートルはどうだった?」

「はい、我らが力を合わせれば敵ではありませんでした」


 グレートビートルの攻撃は全部知也が弾いて賢人の魔法で動きを制限して香織が撹乱。

 その隙に俺と愛子の攻撃で追い詰め最後は俺の大技でトドメを刺した。


 残念なのは俺の勇姿をサーシャさんに見せられなかったことだな……


「ふむ、お前たちのレベルは十分か……聖女のレベルはどうだ? いくつになった?」

「は……はい! 18まで上がりました!」


 ベラはまだ国王様と話すことに緊張しているみたいだ、早く俺たちみたいに慣れればいいのに……

 どんくさい女だと思う。


「18か、ならば【聖浄化結界】は習得したのか?」

「し、しました!」


【聖浄化結界】魔王との戦いで魔王の力を大幅にダウンさせるスキルらしい。

 俺たちにそんなもの必要無いと思うのだが魔王との戦いが楽になるのならそれでいい。


「よし、ならば準備を整え早速魔王討伐に向かうのだ!」

「分かりました」


 国王との謁見を終え俺たちは割り当てられた部屋に戻った。

 すぐに知也と賢人が部屋に来たので中に入れてメイドにお茶を頼む。


「賢人、勝てると思う?」

「十分に勝てると思うよ。僕たちも強くなったしベラも魔王との戦いに必須だっていう【聖浄化結界】が使えるようになったし負ける要素は無いんじゃないかな?」


 賢人がそう言うなら間違いないだろう。

 今まで賢人のアドバイス通りに行動して間違えたことは無いからな。


 メイドの淹れたお茶を一口飲んでいると知也が話し始めた。


「英雄、いつ出発するんだ?」

「そうだね……グレートビートル討伐で疲れたし今日はゆっくりして明日から準備、明後日か明明後日には出発出来るんじゃないかな?」


 とは言っても準備なんて俺たちがやらなくても頼めば全部城の人がやってくれると思う。


「いよいよだね……英雄と知也は怖くない?」

「怖い? 英雄とか賢人とは違って俺は全国大会も出てるからな、怖いものなんて無いぜ!」

「ハハ、知也は頼もしいね……俺もみんなが居れば大丈夫だよ」


 脳筋め……まぁ盾としては優秀だし仲良くしておかないとな。

 この2人は俺の引き立て役としても使えるしな。


 部屋付きのメイドに旅立ちの準備をするように頼んで俺たちは他愛も無い会話で盛り上がった。


 早く魔王なんか討伐して日本に戻りたいな……


 俺たちが魔王を倒したらあのニートも帰ることになるのかな?

 働きもしないで俺たちの功績に乗っかって一緒に帰るとかやっぱりニートはクズだよね!


 そして4日ほどのんびりした後遂に出発、勇者が魔王討伐の旅に出るというのに見送りは質素なものだった。


 仲間たちと文句をいいながら馬車に揺られること1週間、リバークという街に到着した。


 ここは景気がいいらしく多くの人で賑わっている。


 ここの人たちもせっかく勇者が来たというのに誰も見向きもしない……

 少し不愉快な気持ちになりながら旅の疲れを癒すために宿を取ろうと街を歩いていると「クリード」や「自由の翼」という単語が聞き取れた。


「すみません、自由の翼のクリードさんがどうかしたのですか?」


 あまりに楽しそうに話していたので気になってつい話しかけてしまった。

 この街にあのニートが居るなら俺たちを魔王の下まで連れていくくらいの仕事はさせてあげよう。


「おや? 知らないのかい? この街が好景気なのは全部クリードさんのおかげだよ。よく働くし必要以上に報酬も求めない、困っている子供が居たら手を差し伸べる……勇者っていうのはあんな人なんだろうね」


 声をかけた男は嬉しそうにニートのことを語る。

 は? 勇者? アイツは勇者でもなんでもない無職だろ?


 長々と続くニート賛美の言葉をイライラしながら聞いていると、男はようやく俺たちの髪の色に気付いたようだ。


「なぁ、もしかしてあんたら……」

「俺が勇者ですよ。あの人は勇者でもなんでもない」


 俺がそう吐き捨てると男は気まずそうな顔をしながら「用事があるから」と去っていった。


「全く……なんなんだあの人は……」

「クリードさんって実はすごい人?」


 俺のつぶやきに香織が小さく返した。

 すごい人? そんなわけない。ニートだぞ?


 いや、そういえばこの世界ではトラック運転手だったか……それだって誰にでもできる仕事だろ?


「英雄、この街にクリードって人が居るのは確実みたいだし魔王のところまで連れて行ってもらおうよ?」


 愛子は馬車はもう嫌だとばかりに言ってくる。


「そう……だね」


 勇者より讃えられるトラック運転手なんて有り得ない、なにかズルしたに違いない。


 俺はそう思いなおして冒険者ギルドに赴いてニート運転手のことを聞いてみた。


「クリードさんでしたら昨日アルマン教国に向けて出発しましたよ?」


 受付にいた女の人はそんなことを言ってきた。

 居ないのかよ……


 本当にニートは使えない、タイミングまで悪いのかよ!


 俺たちは渋々ギルドを出て宿を取りこの1週間の疲れを癒した。

 当然1日で疲れが抜ける訳もなく数日の宿泊だ。


 3日ほど休んでニートが戻ってこないので仕方なく馬車で出発する。


 あのニート……俺たちの役にも立たないで遊んでるなんて本当に何様のつもりなんだろうね。

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