第66話 快進撃
迷宮に踏み込んでなぜだかいつもほんのり明るい1階層降りてすぐの広間を抜けてウルトに乗り込む。
『出発します』
全員が着席してすぐにウルトは出発。
ちなみに今日の配置は運転席にリン、助手席にアンナだ。
こんな暗い迷宮の中で前に座って面白いのかと思ったらヘッドライトをハイビームで点灯しているようで視界は開けているようだ。
『1階層ボス部屋、突入します』
「いけいけー!」
「ゴーゴーッス!」
前の2人はテンション高いな……
ウルトに乗り込んで20分も経たず1階層攻略完了、一体どれだけスピード出してるんだよ……
ボス部屋を抜けた安全地帯で一時停止、ここでローテーションか行われた。
2階層のポジショニングは運転席にアンナ、助手席にサーシャらしい。
いつの間にローテーションが決まったのだろうか?
俺の知らない間に決まってるっぽいんだけど俺の順番はあるのかな?
「ウルト、後ろの人にも前が見えるように座席の配置って変えられるか?」
『可能です。実行しますか?』
「頼む」
『実行します』
そう頼むとまるで新幹線の座席が回転するように座席が動き荷台の両側にあった座席が真ん中に移動した。
すげぇ……
「これなら前がよく見えるわね」
「うん、さっきまでの位置だと上手く前見えなかったもんね。横は見えるけど真っ暗で何も見えないしこの方が楽しいね」
座席が移動したことにより前方が見やすくなり好評のようだ。
ソフィアも無言でこくこくと頷いている。
『それでは出発します』
「お願いします!」
「いけいけーッス!」
やっぱりなんだか楽しそうだな、ウルトがなんか言ったら反応しないといけないルールでもあるのかな?
2階層もあっという間に攻略完了、たまに撥ね飛ばされるウルフや逃げ惑うウルフを見かけたくらいで特にこれと言ってなにも起こっていない。
強いて言えば同じウルフでも個体によって反応に差があるんだなぁと思ったくらいだ。
2階層ボス部屋のウルフリーダーもなんの盛り上がりもなく撃破、安全地帯でローテーションをしてさらに先へ進む。
ちなみに2階層の安全地帯には数人の冒険者がおりこちらを唖然と見ていたが無視だ。
運転席にサーシャ、助手席にソフィアの布陣でさらに進んでいく……
そして3階層、ここがこの迷宮で1番人の多い階層なハズなのだがウルトの【生命感知】を利用して人のいないルートを爆走、地図も完璧らしく全く冒険者を見かけずに通過することが出来た。
この階層の見どころといえばウルトとラッシュボアの正面衝突くらいだろうか?
全く当たり負けせず簡単に弾き返す瞬間はなんかこう……爽快だった。
前回来た時はあのシルバーランク5人組がボスに挑んでいたため待ちがあったが今回は待ちもなくボス部屋に突入、ラッシュボアを弾き飛ばしコボルトを踏み潰し最後にホブゴブリンを撥ね飛ばす。
6、7階層の魔物すら一撃で葬るウルトの障害になる訳もなく撃破、安全地帯でローテーション、ソフィアが運転席へ移動してケイトが助手席に乗り込んだ。
4階層の安全地帯で俺の番回ってくるのかな?
さて4階層に至ってもウルトの快進撃は止まることを知らない。
3階層に比べ人が少ないことも関係しているのか30分ほどで4階層を走破、そのままの勢いでボス部屋に侵入してゴブリン混成部隊と衝突した。
大量のゴブリンなど道路に転がる小石ほどの影響もなく殲滅、ホブゴブリンをまとめて撥ね飛ばしてゴブリンキングも一撃の下葬ってしまった。
初めてゴブリンキングと戦った時は撥ね飛ばしてから踏み潰してトドメだったはずなんだけど今回は一撃……俺のレベルが上がったことでウルトも強くなっていることがよく分かった。
そして待ちに待ったローテーション、ケイトが運転席へ移動して……誰も動かないので俺が助手席にインする。
良かった……ちゃんと俺の順番回ってきたよ……
「5階層か……なんか感慨深いよ」
「ケイトたちの最高到達階層だもんな、多分思い出に浸るまもなく終わると思うよ……」
「うん、僕もそう思うよ」
なにか思うところがあるかと思ったがそんな雰囲気は無く目をキラキラさせて前を見ている。
『では出発します』
「いけー!」
「……ごーごー……」
ケイトは楽しそうに声を上げているが俺は……一応ルールっぽいので小さく声を出したおいた。
ここからはまず冒険者も居ないのでウルトは最短距離を爆走、あっという間にボス部屋までたどり着いてしまった。
魔物との戦闘も全く無かったので拍子抜けでもある。
5階層のボスは俺の鋼の剣を破壊してくれた因縁のオークキングなのだがウルトの前に1分と立っていられなかった。
ウルト強すぎない?
なんとも言えない表情を浮かべながらローテーション、運転席へ移動して隣にはローテーションが一周してリンが座った。
ここまでの所要時間は2時間弱、一体どんなペースで進めば迷宮に入って約2時間で6階層まで来れるのか……1階層あたり20分か……
6階層では多少の戦闘があり、オーガが撥ね飛ばされる姿は見応えがあった。
全ての魔物が一撃で倒されていく姿を見ていると自分が強くなった錯覚に陥りそうだ。
ボス部屋では普通のオーガよりマッチョになった赤オーガとスリム体型の青オーガが居たがどちらも一撃、普通のオーガと何が違うのかよくわからかったくらいだ。
「楽すぎだろ……」
安全地帯にたどり着いたので交代、リンに運転席を譲り後部座席へと移動した。
『では出発します』
ウルトの掛け声で出発、7階層はどんな魔物が出るんだろうね?
もはや完全に観光気分。小腹が空いたので適当に串焼きを取り出すと後部座席に居るメンバーがこぞって食べ始めた。
みんな小腹空いてたんだね……
「あ、みんなずるい! クリードあたしにも!」
「自分も欲しいッス!」
「はいはい……」
立ち上がり届けようかと思ったらリンとアンナの目の前に串焼きが数本現れた、ウルトが出してくれたのか。
「そうだウルト、ちょっと雉を撃ちに行きたいんだけど……」
立ち上がったついでに用を足そうと思いウルトに声をかける。
まだ安全地帯を抜けては居ないので行くなら今だろう。
『後ろをご覧下さい』
「え?」
後ろを振り返るとそこにはいつの間にか扉が出現していた。
『奥が御手洗となっております』
「まじかお前」
遂にトイレまでか!?
中がどんな事になっているのかと戦々恐々としながら扉を開けると縦50センチ程、幅30センチ程の穴が空いていた。
「……え? ここから垂れ流し?」
まさかの?
穴の前方には俺が日本で買い込んでいた割と高めのティッシュが置かれている。
アレで拭けという事なのだろうか……
とりあえず穴に向けて放出、俺は特に拭く必要は無いので浄化魔法を自分に掛けてトイレを出た。
ハイテクなのかローテクなのか分からんな……
俺がトイレに行っている間にもウルトは進んでおり前を覗くと狼男みたいな奴が道を塞いでいた。
とはいえウルトが気にする訳もなく突撃、この階層に現れる狼男すらも一撃で屠ってしまった。
「おかえりクリードくん。ウルトさん凄いね、この階層の魔物も全部一撃だよ」
「そうなの? さっきの狼男は見たけど他はどんなのが居たの?」
「えっとね……虎人間みたいなのとかトカゲ人間みたいなのとかかな? あ、オーガも居たよ」
狼人間、虎人間、トカゲ人間にオーガか、人型ばかりだな。
最初はこの迷宮は獣系ばかりなのかと思っていたけど全然そんなこと無かったな……
「あ、アレボス部屋じゃない?」
「もう?」
前方を見ると大きな扉、確かにボス部屋のようだ。
さて7階層のボスはどんな奴が現れるのかね?
「ウルト、7階層のボスとは戦ったことあるのか?」
俺のパワーレベリングをした時は確か7階層までだったよな。
「いえ、戦っていません。ここから先は未踏領域ですので地図もありません。作成しながら進みます」
やっぱり戦ってなかったか。
少しくらいウルトと戦いになる魔物が現れたら面白いのにな。
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