第60話 王都観光

 ケイトと2人で露店の立ち並ぶ区画へとやってきた。


「とりあえず適当に買い物しながら店主や客に勇者のことを聞けばいいのかな?」

「そうだね。クリードくんは自分も勇者だって明かしちゃダメだよ?」

「それくらい分かってるよ……」


 ケイトは「ホントに?」と聞きながらクスクス笑っている。

 完全にからかわれてるな……


 なんだか楽しそうなケイトに釣られ俺も楽しい気持ちになりながら色々な店を回って買い物をしたり話を聞いたりするが勇者の情報はあまり出回っていないようで情報収集は中々困難を極めた。


 2時間ほど店を周り分かったことは「勇者は訓練中、まだお披露目もされていない」という事だった。


 もう召喚されて2週間は経っているのだがまだ城から出てきてないのか?


「これは今以上に情報は集まりそうに無いね」

「そうだな……サーシャたちと合流してもいいけど待ち合わせは夕方だし、まだまだ時間あるな」


 現在時刻は11時、待ち合わせまではかなり時間が空いている。


「とりあえず食品以外のものを見てみる? リバークでは中々手に入らないものも王都にはありそうだし」

「それもそうだな……何を見て回る?」

「そうだね、まずは……」


 それから1時間程ケイトの思いつくままに色々な店を見て回った。

 今回は止める人も居ないので気になったものは結構俺も買ってしまっている。


「あ、これ……」


 そろそろ昼でも食べようかと言う時にケイトが何かを見つけたようだ。

 覗いてみるとアクセサリーを取り扱っている店のようだ。


「アクセサリー? ケイト何か欲しいのか?」


 ケイトは普段アクセサリーは身に付けていない、寧ろ苦手だと移動中に聞いていた。


「僕はあんまり……でもこれなんかサーシャに似合うと思わない?」


 ケイトが指差したのは小さな花を模した飾りの付いた髪留めだった。

 確かにこの髪留めはサーシャに似合いそうだ。


「サーシャにか……お、これはリンにピッタリじゃないか?」


 俺が見つけたのは落ち着いたデザインだがどこか華やかさを感じる髪留め、クールビューティ系のリンによく似合いそうだ。


「クリードくん中々センスあるね、これはどう? 元気娘な感じのするアンナに合うと思わない?」

「じゃあこっちはソフィアに似合うと思うぞ」


 ケイトの選んだのは大きな花の飾りが付いた髪留め、確かにアンナの笑顔に似合いそうだ。

 俺が選んだのは落ち着いた飾りの着いたヘアゴム、いつもポニーテールに髪を括っているソフィアによく似合いそうだ。


「いいね、お土産に買っていこうか」

「そうだね、おっちゃんこれ4つ頂戴」


 選んだ4つの商品を店主に渡して代金を支払う。

 ケイトも出そうとしたがここは俺が出すべきだろう、お金を出そうとするケイトに構わないと告げて支払った。


「ん?」


 その時目に付いたのは青い花の飾りが付いた髪留め、ケイトによく似合いそうだと思った。


「おっちゃんこれも追加でお願い」

「毎度!」


 ケイトにバレないように追加で購入、後でみんなに渡す時に一緒に渡そう。


 買い物ついでに店主からオススメの店を教えてもらい昼食はそこで食べることにした。


 そこは王都でもそこそこ有名な店のようで、冒険者ギルドと提携していて新鮮な肉や野菜をふんだんに使った料理が人気の店だった。


 入店すると俺とケイトの冒険者証を確認されたのでゴールドの証を見せると奥の個室を用意して貰えた。

 店内は結構賑わっていて空き席も無さそうだったのに……

 ゴールドランクすげぇ、実感したね。


 2人で食事を美味しく楽しく頂いて店を出るがまだまだ時間はある、どうしようか……


「まだまだ時間はあるね……どうしようか?」

「うーん……装備品でも見てみる? 剣と鎧は頼んだけど予備の装備も持っておきたいしね」

「なら行ってみようか。ケイトはどんな装備頼んだの?」


 そういえばどんな装備を頼んだのだろう? 聞いてなかったな……


「ケイトはどんな装備たのんだの?」

「僕は剣と鎧だよ。貰ったミスリルも素材として出して作って貰ってるよ。クリードくんやソフィアのライトアーマーとアンナのフルプレートの間くらいかな?」


 俺やソフィアよりは少し防御力高めってことか。

 ソフィアはほぼ攻撃極振りみたいだし、俺は防御面は自身の耐久力と作業着任せだからある意味ケイトはバランス型ってところかな?


 そんな会話をしつつ武器屋に到着、中に入って商品を眺める。


「アレって魔鉄使った剣かな?」

「どれ? ……あぁ、そうだね。それがどうかしたの?」


 気になっていたけど聞くタイミングを失っていたことをケイトに教えてもらおう。


「魔鉄ってさ、なに?」

「え? あぁ、魔鉄って言うのは魔鉱石を精錬してできる金属でね、普通の鉄とか鋼より頑丈で耐久力にも優れるし魔力伝導率もいいんだ。クリードくんのスキルに【魔力撃】ってあったよね? 魔力撃と相性のいい素材だよ」


【魔力撃】か、そういえば使ったことないしどんなスキルか知らないな……


「わかってない顔してるね。【魔力撃】っていうのは剣に魔力を流して攻撃力を上昇させるスキルだよ。鋼の剣でもかなり威力上がるけど魔鉄を使った剣ならさらに威力が増すから【魔力撃】を使える剣士はまず魔鉄製の剣を使うね。僕は使えないから鋼の剣で十分だけどね」

「なるほどー……ありがとう」


 ケイトにお礼を言って他の剣にも目を向ける。

 色々な素材を使っていたり形が違っていたり見ていて面白い。


「ミスリルは無いんだな」

「ここら辺に迷宮は無いからね。迷宮が無いとミスリルの産出量は少ないからなかなか出回らないんだ」

「だからリバークの武器屋には売ってたのか」

「うん、あの剣の素材のミスリルは多分僕たちが採掘してきたミスリルだよ」


 そういえばケイトたちはミスリル集めでゴールドランクを目指してたんだよな。

 5階層ではケイトたち以外見てないし流通してたミスリルはほぼケイトたちが集めたものなのか。


「キミたち少しいいかな?」


 そんな会話をしながら剣を眺めていると声をかけられた。

 振り返って見るとそこには白銀の冒険者証を身につけたイケメンが立っている。


 誰だ?


「いきなりすまないね。僕はカルロス、剣士の誇りってパーティの副リーダだよ」


 自己紹介しながら握手を求めてきたので一応こちらも返しておこう。


「いや……ゴールドランクパーティ自由の翼リーダーのクリードだ。何か用かな?」


 握手を交わすとなんだか思ったよりもガッチリと手を掴まれた。


「あれ?」


 カルロスは俺の手をニギニギしながら首を傾げる。


 なんだコノヤロウ喧嘩売ってんのか!?


 微妙な顔をしながらカルロスは俺から手を離してケイトに向き直る。


「カルロスだ、よろしく」

「自由の翼のケイトです。よろしく」


 カルロスはケイトの手を握ると俺の時とは違いウンウン頷く。


「この手、やはり! ケイトはもしや剣闘士では?」

「え……うん、そうだけど……」


 ケイトが答えると、カルロスは笑顔になり両手でケイトの右手を包み込む。


 ……なんかイライラするなこいつ。


「ゴールドランクのパーティなんて抜けてウチに来ないか? 歓迎するよ!」

「え、嫌です」


 ケイトはあっさりと断ってくれた。

 なんだかホッとしました。


「なぜだい? 僕たちは将来的にはミスリルランクにも到れるだろう、その時にはキミを僕の妻として迎えると約束してもいい。僕も剣闘士だからね、きっと僕たちの子供も立派な剣士になれるさ!」

「お断りですね。それに子供を産むとしたら……」


 ケイトはチラッとこちらに目を向けた。

 そろそろ頃合か、割り込もう。


「そろそろ手を離してもらえる? それにウチのメンバー引き抜こうとするってどういうつもりだ?」


 おぉ、我ながら低い声が出たな……


 カルロスの肩に手を乗せるとカルロスは一歩飛び下がり右手を剣に伸ばそうとして止めた。


 殺気漏れちゃったかな?


「くっ、ゴールドランク程度の雑魚が僕に歯向かうなんて痛い目でも見たいのかい?」


 へぇ? ランクでマウント取ってくる感じ?

 ならこっちもマウント取りに行くよ?


「はっ! ゴールド程度ってひとつしか変わらないだろ? それに俺とケイトはミスリルランク昇格がほぼ内定してるぜ?」


 俺の方が実質ランク上よ? と鼻で笑ってやるとカルロスは耐えられないという風に笑った。


「ははは! ゴールドランクのキミがミスリル昇格だって? そんな嘘をついてまで僕に対抗しようって言うのかい? 笑わせるね、それとも事実だって言うのかい? 事実だと言うのならどんな功績を挙げたか言ってみたまえよ」

「リバーク迷宮の大暴走スタンピードの鎮圧」


 俺がそう答えるとカルロスは目を見開く。やったのはほとんどウルトだけど嘘はついてないよ?


「大暴走? リバーク迷宮が? 聞いたことないけどね。そこまで言うならケイトを賭けて決闘でもしようじゃないか!」


 カルロスは何を血迷ったのかそんなことを言い出したが答えは決まってる。


「全くもってお断る」

「いいよ」


 やるわけないだろばーかといった雰囲気を出しながら断りの返事を告げたが何故かケイトが了承してしまった。


「ルールは装備品以外の魔道具の使用の禁止、殺し無し、それでいいかな?」

「良いだろう。では僕が勝てばケイトは僕のものだ、それでいいね?」

「いいよ。クリードくんは負けないから」

「ではギルドの訓練所でやろう。着いてきたまえ」


 カルロスはそう言って踵を返して店から出ていく。


 え? マジでやるの?


「ケイト……」

「ごめん、ちょっと腹立っちゃって……」


 申し訳なさそうに謝られるがもう決まったことは仕方ない。

 俺がカルロスに勝てばいいだけだろ、最悪負けそうになったらウルトでぶっ飛ばしてやんよ。


「はぁ……まぁ仕方ない、行こうか」

「ごめんね……でも僕は剣士の誇りには行きたくないし、あんな奴の子供も産みたくないからね?」


 そういえば子供産むなら……みたいなこと言ってたな。

 誰の子供なら産んでもいいんだろう?


 付き合いの長さからしてディム、クレイ、ロディの誰かかな?

 ハンスはミナとくっつくみたいだから違うだろうし……


 なんか想像したら腹立ってきた、リバークに戻ったら訓練しようぜ! とか言ってぶっ飛ばしてやろう。


 なんだかモヤモヤしながら俺たちはカルロスについて行く。

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